後編 【儚い友情】
名も知らぬ山の子と虫を取ったり、石を投げたり、小川のザリガニを捕まえては、私はそのハサミが怖くて逃げてそのまま追いかけっこをしたり。お互いに笑い声ばかりでまともな会話は殆どしなかった。
「これっ」「わっ!」「あはははははっ!!」・・・・・・
そんなリアクションのオンパレード。どこの子でいくつなのか。名前は疎か、どこに住んでいるのかも聞かずに兎に角、一緒に遊んでいた。
今の子でも、たまたま公園で一緒になった知らない子と遊ぶ時は同じ感じだと思います。
その子のおかげでその日は時間を忘れて遊び、いつの間にかもう夕暮れ。
「おぉーい!!」
夏の日が暮れるのは遅く、もう夕食の時間なんだ、と毎日のように思わされて時間の感覚を奪う。叔母に呼ばれて私は仕方なく名残惜しむように、また、山の子に出会った時と同じく「バイバイ」と手を振り母屋へとトボトボ帰って行く。何度も振り返ると、山の子はずっと私の方を見てくれていて見送ってくれていました。あの子は帰らないのかな?と少し疑問に思ったかもしれません。叔母の元へと到着して最後に振りかえると、あの子の姿はもう消えていた。
「あんな山の方で何してたん?」
と叔母に聞かれて、山の子の話をすると
「はぁて、そんな子おったかねぇ?」
田舎の人なら分かると思いますが、田舎のご近所は概ねみんなお互いを把握している。少なくともここ一帯の、子供が一人で行動できる徒歩圏内にそんな子は居ないらしかった。
「そばに誰か大人はいたんか?」
私は見なかったことを伝えると
「そりゃ、不思議だのぉ。あの山への道はここの裏手の土手道だけやから、誰かと来たらあたしらにも分かるでぇ?表の道は車一台分しか通れんさかいに置いとけんし、止めとくならうちの敷地ん中に入るしかないからなぁ」
もう一人の叔母が言う。
「きっと、山神の小童か座敷童の類かもしれんの。良かったなぁ」
そう言って私の頭をポンポン、と優しく撫でる。
当時の私は何のことかは分かりませんでしたが、今を思えば叔母たちは私が怖がらないように話してくれたんだと思います。でも、これも今思えばあの山の子は私がこれ以上、山の奥へと行かない様に遊び相手になってくれたんだと感じています。
なぜなら・・・・・・
「ちょっと!こんな所にこんなもん置きな!」
母が翌日、私の寝起きざまに怪訝な顔をして起こしてきました。
「ちゃんとなおしててや(片付けなさい)」
私が寝ている部屋の縁側には、キレイなまん丸の、子供にとっては投げやすい石がいくつも並んでいました。川で水切り遊びをするには”うってつけ”な石です。
しかしそれから毎日、山の麓まであの子と遊びたい一心で通っていましたが、一度も会うことは出来ませんでした。
完
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