後編 【微睡】

 叔父が私をタローに紹介してくれた後は、夜でも吠えられなくなり無事に一人でトイレにも行けるようになった。なぜか、夜の闇の恐怖も消えて、私は逆にタローに守られている、そんな気がしていた。



 そこから一年後。



 母の帰省にまた付き合うが、タローは私の匂いを覚えてくれていた。尻尾を振りながらこちらを見ている。母は極度の獣恐怖症で、猫ですらタローですら、怖がる人だったので当然の様に私の実家ではペット飼うことは出来なかった。なので私はタローが初めての動物と心を通わす存在だった。


 毎年、夏休みには母側の実家に行くことになり一週間ほどそこで寝泊まりし、夏と田舎の思い出となる。たったの一週間だが、その際に私は犬のタローのエサやり当番となった。


 お互いが認め合った仲となり、私は毎朝タローの元へとエサが無くても向かって行くようになる。


 私は親戚一同の誰よりも真っ先にタローの元へと行って撫でるのが恒例となり、私の勝手かもしれないが、そこに絆を感じていた。



 そしてある年、タローが居なくなっていた。



「タローは?」

 と、叔母に聞いたような気がする。今でもはっきりと覚えていない。タローの死を誰かに聞いた記憶もない。しかし、なんとなく分かっていた気もする。


 認めたくなかったのか、思考停止していたのか。なんだか分からない感情だった記憶がある。泣いて悲しんだということもなかった。なんだろう、また会える。無根拠にそんな感覚だった。死んだのではなく、逃げ出したんだ。そんな風に捉えていたような感じだった。


 そんな、変な感覚が違和感となってそれ以来、母側の実家には行かなくなった。私が成長し、反抗期に入ったからかもしれないが、心に少し穴が開いたような気がしてならなかったからだ。



 そうして、自分勝手だが親戚とは疎遠となり、成人し結婚して娘を授かった。



 娘も成長していき、多感な時期では定番だが子犬を拾って飼ってもいいかとせがんでくる。私は当然、ダメだと言い放つ。必ず私と同じ思いか、もしくはもっと悲しい現実が待っているからだ。


「いいからだっこしてみて!」


 娘が強制的に子犬を渡す。どこで拾ってきたのか分からないので抵抗感を示すが、子犬を抱きかかえそのつぶらな目を見ると、なんだかタローに似ていた。


 犬などのペットを飼っている方なら分ると思いますが、犬たちにも人相・・・犬相というのだろうか。顔の見分けが付いてくる。



 そうして今、私はタローを膝の上で寝かせたまま、コレを書いている。




イメージ画像⇩ 近況ノート

https://kakuyomu.jp/users/silvaration/news/16818093082274955126

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