『幼☆妖★体験記』
白銀比(シルヴァ・レイシオン)
闇の奥……
前編 【獣】
私の田舎。それは母側の実家の印象が強かった。
父側は比較的、都市化された場所にあり海沿いで磯の香りが印象的だ。場所も近く、田舎という印象はあまり無い。
母側の実家は京都の亀岡市にある、山々に囲まれた一画にあり家自体も典型的な田舎の作りだった。
トイレは「ぼっとん便所」汲み取り式で、玄関は大きく古民家によく見られる土間。一段目にある座敷へと上がる長式台の一枚板が逆L字に迎え入れられ、真っすぐいくとまた大きな台所。左手には襖とその奥へといくつかの部屋は畳でイグサの香り、木材、線香の臭いが思い出される。
子供のころ、よくそのぼっとん便所に落ちる夢を見た。
田舎の夜はとにかく暗い。外灯なんてのは殆どなく、道路沿いの小川にガードレールも無いので暗くなれば外出禁止になるのも当然かと、今では分かる。
夜にトイレへと行くのも、少し母屋から出て離れにある客室の隣まで行かなくてはならず、住み慣れていない私たちは懐中電灯で照らしながら闇に脅えて行っていた。
その恐怖からか、外側である母屋と離れの間を真っすぐに突っ切ると、中型の柴犬「タロー」が鎖で繋がれた犬小屋がある。タローなんて、昔の人がよく付けるまたまた典型的な名前だ。完全に番犬として飼われていて、当初の私たちは頻繁に吠えられて、更に子供心の中に恐怖を植え付けられた。幼くまだ小さかった私ちとっては大型犬に感じる大きさだ。
夜に行くトイレは闇夜の中で
ジャラジャラジャラ・・・・・・
と、繋がれた鎖がのたまう音はまるで獣が潜む空気を出し、懐中電灯を向けるとオオカミのようにギラづく二つの目が反射する。その恐怖に固まっていると
「・・・ワン!ワンワンワン!!」
ビクッッ!!!
泣きながら母親の元へ行き、夜のトイレは必ず誰かと一緒に付き添ってもらわなければ行けなかった。
何度かの帰省、二度目か三度目ぐらいだったと思われる。私も分別が着き出した小学生低学年ごろ、母の兄、叔父がタローの元へと一緒に来るように言われた。
叔父が一緒だとタローは吠えない。飼い主としての認識があるのだ。私は必ず吠えられて完全にビビッていたのですが、吠えないタローは意外にも可愛く思えた。
叔父がタローを撫でてあやし、それに気を良くしているタローは獣から普通の犬となり、私の中にあるイメージは覆る。
「大丈夫やろ?撫でたってや」
叔父が私にそう促した。私は恐るおそるタローの頭に手をやる。タローは不思議そうに私の手を見るが、唸ったり威嚇をすることもなく私の手を受け入れた。
それ以降、タローは私に吠えなくなった。
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