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 石井の呼びかけに、私は少し戸惑いながらも教室に入っていった。

 佐伯さんは鏡の中で、白い封筒から、三つ折りにした紙を取り出してしっかりと確認している。


「俺、ちょっとトイレ」


 それだけ言うと石井は逃げ足速く教室から出て行ってしまった。明らかに目線が泳いでいて怪しかったが追求する気持ちも無かった。



「佐伯さん、どうしたんですか」


 私は鏡の前に立って、紙を掲げた。すると、佐伯さんは手に持っていた三つ折りの紙を広げて私の方に見せた。




「僕は、貴方のことが好きだ」




 最初の書き出しが飛び込んできた時、呼吸が止まるかと思った。そして、沸騰したかのように、顔が熱くなっていく。

 佐伯さんは手紙を私に示したあと、それから音も無く泣き始めた。ぽろぽろと涙が落ちて行くのだけが見えた。


「本当は僕自身の声で伝えたかった。でも、声を聞くどころか、会いにも行けませんから


 それでも、貴方に伝えたかったんです。僕の気持ちを、どうしても知ってほしかった。


 美咲さん、貴方は僕にとって、とても大切な人です。

 今までもこれからも其れは屹度きっと変らない。


 どうか貴方の身近な人を大切にして上げて下さい。貴方の間近に居る人を」


 その言葉に、私は返事を書く事ができなかった。ただ、彼の文字を見つめ続けて、頷くことしかできなかった。

 そして佐伯さんが微笑むと、佐伯さんの顔が穴に落ちて行くように遠のいて行く。


 それから鏡が手の上で大きな音を立てて、割れた。

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