14
朝の足取りは重たかった。インフルエンザにかかった時みたいに、頭も痛くて全ての音が反響して脳を揺らしてくる。学校を休もうかとも思ったが、今日学校に行けなかったら、恐らく一生ずるずる学校に行きたくなくなってしまう気がした。
石井は授業中も休み時間も、そっぽを向いて、私の方を一切見ようとしなかった。私は話しかけるわ勇気が出ずに、そのままずるずると放課後まで残ってしまった。
*
4時40分。石井と私だけが教室に残っていた。
7限目の授業が終わってから、石井はぼおっと窓の外を見ていた。部活に行こうとも、帰ろうともしない。その時季を見計らって、私は声を絞り出した。
「何だよ」
石井の声には昨日の怒りは感じられない。しかし、石井と二人きりの空間が、妙に重苦しく感じられる。こんな空気を感じた事は今までなかったのに。
「昨日の事なんだけど、ごめん」
私はスカートの裾を無意識のうちに握りしめていた。石井は相変わらず無言でこちらを見つめている。
*
私が続いて、口を開こうとしたその時だった。
――鞄がいつになく震えている。まるで地震が起きているかのようだ。
私は急いで鞄のチャックを開ける。そこには佐伯さんと宮本さん、二人の姿があった。
「すみません。今しばらくお話できませんか」
佐伯さんが焦ったように、紙を見せてくる。文字の縁が雨に濡れたかのように滲んでいた。石井は驚いた様子でこちらに駆け寄って来る。
「僕が子供でした 僕は石井君に嫉妬していた」
あまりに意外だった彼の一文が私の目に飛び込んでくる。私は固まったまま、思わず、石井と佐伯さんを交互に見た。
「二人とも、昨日は僕が勝手に不機嫌になってしまって、話を切り上げてしまってごめんなさい。もっと思慮深く在るべきでした」
「先ずは石井君とお話ししたい事があります その後美咲さんに 少し時間をいただけませんか」
石井が外に出ろ、と目配せをしてくる。こんな時まで、石井は偉そうだ。
それに少しむっとしながら、荷物を持って、廊下に出た。ひんやりした空気が心地よい。
――佐伯さんが話したい事って何だろう――数学の問題が解けない時のような、すっきりとしない感じが私を包んだ。
教室からボールペンと紙が擦れる音がする。
はその音に耳を傾けながら、単語帳を開いた。
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