第三話 唯一の拠り所
歩みを進めて見えてきたのはシンプルな白い建物だ。
三角屋根の建物の一番高い位置には同系色の十字架が見える。
教会に着いた瞬間、さきほどまでのけたたましい音が嘘のように消えた。
ここに来るといつもだ。まさか、建物が音を吸収しているのか?
俺はそのまま敷地内へと足を踏み入れる。
敷地は結構広く、ところどころに木々が生えていて、建物の近くには花壇もある。
俺が立ち入ったことのない建物もいくつも見えた。
教会に向かってまっすぐ歩いて行く。辺りを見回すが人の姿は見えない。おそらく来場者は
俺は教会の中に入ると、そのまま奥にある礼拝堂に向かった。
扉を開けて中へ入ると、思っていた通り信徒たちが集まっていて、礼拝の真っ最中だ。
礼拝は三回行われると聞いた。
俺が参加する九時からの礼拝は第一礼拝と呼ぶらしい。十時四十五分から始まるのが第二礼拝、夕方に行われる礼拝は六時半から始まるそうだ。
信徒たちに気を配ったつもりだったが、扉を開けた音に気付いて何人かがこちらを振り向いた。
入ってきたのが俺だと分かると途端に眉をひそめて、顔を曇らせる。
俺は気にすることもなく、一番後ろの
顔を前に向けると、ちょうどあの
穏やかな顔つきも雰囲気も、透き通るようなまっ白な肌も。いつもとなんら変わらない。
彼女を見ていると、さきほど苛立っていたことさえ忘れてしまう。
薄手のコートに突っ込んでいた手を出すと、信徒たちと同じように手を合わせてお祈りをする。
いや、お祈りをする振りだけだ。俺には信仰心がない。
熱心な信徒に見せかけて、前方にいるあの
お祈りの時間が終わると、讃美歌の合唱が行われる。座っていた信徒たちが続々と立ち上がったので、俺も同じように腰を上げた。こうして讃美歌を歌い、聖書の朗読へと進んでいく。最後は牧師の話で日曜礼拝を締める。
牧師が教壇の前に出てきた。視線はまっすぐに熱心な信徒たちに向けられる。
優しげな笑顔と落ち着いた声で彼女は話し始めた。
俺はただ黙って牧師の顔を見つめていた。話はちゃんと聞いていたはずなのに、何故か内容はほとんど頭に入っていなかった。
日曜礼拝が終わり、信徒たちが続々と席を立つ。
俺は座ったまま辺りを見回した。ここに来るといつも思うのは、全体的にシンプルな作りだな、ということだ。建物の外観もそうだが、内装だって特に装飾なんかが施されているわけでもない。
左右の壁の高い位置にはそれぞれ三つずつステンドグラスがはめ込まれている。だが、顔を前に戻せば教壇があり、その後ろにある真っ白な壁に十字架のオブジェが見えるだけ。
そのオブジェの真上には丸いステンドグラスがはめ込まれている。
ぼんやりと真上のステンドグラスを眺めていると、足音が近づいてきた。
足音は俺の前で止まった。
顔を前に向けると、柔らかな笑みを浮かべた女性の牧師が俺に声をかけた。
「クラウディくん、おはようございます」
その瞬間、俺は呼吸をするのを忘れてしまいそうになった。
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