時代を先取りした人
森下 巻々
(全)
西暦二〇二四年の夏の現在は会うことのない、彼のことを話してみようと思う。
彼というのは、共学の高校に通っていた時代に同級生だった男である。
彼は彼自身のことを、ちょっとだけオタッキー(オタク的)なのだと自己紹介していた。
なるほど、エヴァンゲリオンとかいうアニメにはいち早く飛びついていたようだし、角川書店のマンガ雑誌なんかを持っていた。そう、多くの男子生徒が読んでいた集英社や講談社の週刊マンガ雑誌には興味がなさそうだった。小学館のものにならば、まだしもなのだけれど。
彼は、マンガの原作をやっているとも自己紹介していた。即売会のようなものがあって、そこで販売されるマンガ本に提供しているのだという説明。彼は、その原稿を書くことを、お仕事と呼んでいた。
また、作詞もしているとのことだった。ピアノ演奏もできるとのことだった。パソコンにも詳しいとのことだった。
私は彼に憧れていた。彼との交際を学校で噂されたこともあった。
その頃、世の中では或るギャグ漫画家が政治的な本を出すようになっていて流行しているようだった。彼は、夢中になったみたい。
世の中、サヨクばかりだという類の彼の言動には違和感を覚えようになった。後年になって、ネットウヨクと言える発言だったと思い出してみたが、更に後に彼を言い表すのにもっと適した言葉が世の中に登場した。
意識高い系である。彼は、オタクというより意識高い系だったのだ。
彼による完成された何かしらの作品というものを、実際には見たことがなかったからだ。勿論、見せる相手を選んでいたことも考えられるが、雰囲気を思い出すと怪しかったと感じられる。
口はうまかった。教室で前に立って、何かを説明しているのを見かけたことがあったが、その弁舌には驚かされたのを覚えている。
私はパソコン関係に少し興味があるから、その方面から例を出そう。実際にはマークアップ言語であるHTMLのことを、彼がプログラミング言語のように話しているのを知ったときは、もう既に怪しいと気づいてしまっていた頃である。
(おわり)
時代を先取りした人 森下 巻々 @kankan740
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