第3話 信じる

その日、私が泣き止むまで背中を撫で続けてくれた。


温かかった。


優さんの手は日向のように、心地よい手だった。


(申し訳ないことをしたな。)


いくら力になってくれるとはいえ、泣いてしまっては余計に心配になるだろう。


(心配……。)


優さんは心配してくれた。

優さんは私の力になると言ってくれた。

もし、それが嘘であっても……。

私は……、 優さんを少し……、信じてみようと思った。


(信じる……、か。)


人を信じるって難しいことだと私は思う。

私は、人を信じたことは小さい頃しかない。

小さい頃は、親が


「ずっと大好きだから。期待しているよ。だから、心配させないでね。」


と、囁くように言った。


(期待してくれている!)


その言葉を信じて、塾や習い事などを頑張った。

心配させないようにした。

でも、大きくなる度に親の期待が薄れていった……。

その理由はわかってる。


思い出したくもない。

大嫌いの人。


( 記憶から消えて欲しいのに……!その人のせいで!!!!)


その人がいたせいで、私の中の私が消えた。


親に見捨てられた。

その人からも見下された。

この子はダメだと、失敗作だと思ったのだろう。

直接は言われていない、が……、私を見る時の目が、そう語っていた。

それから私は、人を信じるのを辞めた。


(……、考えるのをやめよう。)


考えたところで、何かが変わる訳でもない。

嫌な……、思い出を思い出すだけだ……。

嫌な記憶ほど鮮明に覚えている。


首を降った。

忘れるために…。


手を強く握った。

怒りを抑えるために…。


歯を食いしばった。

我慢するために…。


(私の居場所はどこにあるの?)


いや……、私の居場所なんてないのかもしれない。


(……、考えるのはやめよう。)


気分を良くしようと、優さんのことを思い出した。


(優さん……。)


優さんに会って私の中の私が少し戻ってきた。

……気がした。


(心配させたくないな……。)


……心配させたくない。

そう思ったのは………、いつぶりだろうか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る