第5話 やりすぎる仁奈
「仁奈……?」
「いいえ、なんでも」
わたしはそう言って微笑みました。
本当は「やりすぎちゃいましたかね?」と言ったのですけど。
うん。やりすぎたかもしれませんね。
まさか、類くんが、こんなにも自尊心をすり減らしてしまうとは。
類くんに言った言葉はウソではありません。
類くんは、カッコいい。
そりゃ、わたしのような百人いたら百二十人が美人だと思うような圧倒的な外見ではないですけれど、うん、ふつうにカッコいい。
だから、わたしは心配だったのです。
類くんに、悪い虫がつかないか。
奥手で、思春期男子特有の恥じらいを持つ類くんは、いつまで経ってもわたしに告白してきません。
その間に、そこら辺の女子と何か〝間違い〟があってはならない。
わたしはそう考えたのです。
だから、わたしは類くんの自尊心や自己肯定感をコントロールすることにしました。
たとえば、学校内で類くんのウワサを流したり。
ああっ、もちろん、大げさな悪いウワサは流しませんよ。
でも、なんとなく類くんが女子から避けられるような。
類くんが、ちょっとずつ、ちょっとだけ孤立するような。
そんな、ほのかに毒が混じったウソを流しました。
ほかにはたとえば、類くんに自分が女子からどう思われているか、あることないこと伝えたりもしましたね。
えっと、第三者効果? ウィンザー効果?でしたっけ?
人間は『あの人、あなたのこと◯◯って言ってたよ』って情報には弱いんですよね。
それと、ピグマリオン効果だかラベリング効果っていうのもありますか。
人は、他者から期待されると、期待に沿った成果を出す傾向にあるのだとか。
類くんはあっけなく、どんどん〝孤独キャラ〟になっていきましたよ。
まあ、そうやって、類くんの自信を失わせて、周囲の評判と自己評価を下げさせて、わたし以外の女の子と付き合う可能性なんてものを排除していたわけなんですけど。
はい、やりすぎちゃいました。
類くんたら、「自分は仁奈にふさわしくない」とか思い始めちゃったようで。
まあ、いいのです。
計算が外れることも計算の内。
自分がやりすぎてしまうことなど、自分がいちばん知っています。ええ、昔からそうでした。
わたしって、好きな子にほど、やりすぎでしまうんです。
削りすぎてしまった類くんの自尊心。
なら、それも利用すればいい。
傷ついて、穴が空いた心に、そっと優しさを注ぎこめばいいのです。
そのままの類くんが好き。
ありのままの類くんが、いちばんカッコいい。
そうやって肯定してあげましょう。
そうすれば、ほら、この通り。
類くんはもう、わたしから離れられない。
こんな自分を愛してくれるわたしから。
大丈夫。わたしはずっと、類くんを愛しますからね。
これからもずっと、もっと、やりすぎなくらいに、ね。
蜷川仁奈はやりすぎる 星奈さき @bumping
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます