第五話 静寂の来訪者



 コツコツコツ



 静かな神社に人が歩く時の音が響いた。時間が少しずつ経つたびに、音が近づいてくる。またさらに近づいて、数分後には足音は消えた。

 人が寄りつかないこの神社に、零夜以外に人が来たようだ。




 止まっていた人はまた再び近づいてきて、今度は瞬く間に零夜が眠っているところまで足音を立てず到着した。その人は左手で零夜の顎を掴みながら、顔を上げさせて寝ている零夜を覗き込んだ。



「フッ」


 その人は微笑を浮かべた後、顎を掴んでいた手を離し、しゃがんで零夜の耳元まで顔を近づけた。まだ、零夜は深い眠りについているようで一切起きる気配はなかった。


「深い眠りについてしまっているようですね。」


 謎の人物は零夜を観察しながら、話を続ける。


「これほど近くにいるのにも関わらず、私の魔力を感知ができないとは、私の見積りとは違い少々残念です。一流の魔法使いとは己の魔力を自身の制御能力のみで、必要な時に自由に魔力を効率よく使用し、他人に見られないようにうちに秘めて隠すことができる者であることが絶対条件です。しかし、私は今自然の状態で、一切魔力を制御していませんよ。これを感じ取れないようでは…あなたの呑気に寝ている様子からは、魔術師としての感覚が掴めていない未熟者のようですね。

 魔法界ではいつ何が起こるのか予測することのできない世界です。周囲の状況を常に警戒して、適切な対応を取らなければ、生き残るのは難しいでしょう。今の状況がその良い例ですよ。」


 寝てる零夜の脳内に直接語りかけた。





 今度は人差し指で零夜の頭を軽く押しながら、紫色の魔力を脳の奥深くまで流し込んだ。



「【夢の記憶ソムニウムメモリア】」



 零夜の幼い頃の詳細な様子が浮かび上がる。その人は零夜の記憶を覗き込みひとり納得した。

 そして、その人は零夜の心臓に流れる魔力を制御し、暴走した魔力を抑え込んだ。







 顔を離して、立ち上がったその人は背を向け立ち去るかのように見えたが、振り返ってもう一度零夜の方を見て、


「今の処置は一時的なものでしかありません。いずれ、あなた自身で制御できるようにならなければいけません。

 今のあなたはとても無防備で、狙って欲しいと言っているようなものですよ。致命的です。特に、あなたのような魔力の多い魔術師にはね。」



 背を向けたその人は、再び振り返ることはなく、そのまま神社から立ち去った。




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