第四話 神社での過ごし方、夢の中で

 今、階段の一番上の段を踏み締めた。


 軋む音もなく、古くからこの地に根付いてきたかのような重厚な石段は、零夜を静かに本殿へと導く。



 そして、階段を登り終えると見えるのが本殿だ。苔むした石造りの本殿は、周囲の緑に溶け込むように佇み、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。風化した朱色の鳥居は、長い年月を経た証のように色褪せ、ところどころ剥がれ落ち、木の根が食い込んでいた。

 本殿の屋根には、小さな鈴が幾つもぶら下がっているが、その多くは錆びつき、風鈴のように澄んだ音ではなく、かすれた音を立てていた。賽銭箱はなく、代わりに枯れ葉が積もっていた。





 僕は本殿の方に歩いて行き、二礼二拍手一礼をした。


 手を合わせながら、僕は

「僕のこの体が少しでも良くなりますように」


 そう心の中で願いながら、どこか不安そうにルビーのように赤い瞳を閉じ、じっと手を合わせた。





 振り返り、空を見上げる。しかし、この神社は生い茂る木々に囲まれ、まるで緑の天井で覆われているかのようだ。それでも、葉の隙間から漏れる木漏れ日が、神聖な光を地上に降り注いでいる。

 日陰を選び、傘を下ろした零夜は、柔らかな芝生に腰を下ろし、地面に寝転んだ。


「自然の力はすごいなぁ…、とても心地がいいよ」


 ふわふわとした草の上で、零夜はじっと目を閉じる。頭上には、大きな木々が天に向かって伸びている。その枝葉は、まるで緑の絨毯を広げたように、彼を優しく包み込む。


 時折、どこからともなく聞こえてくる鳥のさえずりや、虫の鳴き声。それらの音は、まるで自然が奏でる癒やしの音楽のようだった。

 特に、涼しげな鈴虫の鳴き声は、彼の心を穏やかにする。まるで、この神社が持つ悠久の時を刻んでいるかのような、そんな感覚に包まれていた。


 銀色の髪に木漏れ日が降り注ぎ、その真紅の瞳で空を見上げる。深呼吸をすると、体中に木々の香りが広がり、心が安らぐ。

 まぶたが閉じてきて、眠気に誘われ深い眠りに落ちた。










「ここはどこだろう、今僕はどうなっているの?」


 まぶたの裏に、きらきらと光るものが現れた。それは、無数の星が散りばめられた夜空のようだった。ゆっくりと体が宙に浮き始め、僕はまるで宇宙を漂っているかのような感覚に包まれる。


「あれは…」



 視界の端に、見覚えのある光景が広がっていた。それは、幼い頃の家の庭だった。懐かしい花の香りが風に乗って漂ってくる。

 幼い頃の僕は、庭で一人、魔法の練習をしていた。失敗して地面に倒れても、すぐに立ち上がってまた魔法を使おうとしていた。


「もっと強くなりたい。もっと魔法を使えるようになりたい。」


 幼い頃の僕の声が、風に乗って聞こえてくる。

 夢の中で、僕は再び魔法を使う練習を始めた。今回は失敗することはなかった。魔法の光が彼の指先から溢れ出し、庭を彩っていく。

 いつまでも続くような、そんな夢だった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る