仮説肆〜

 人糞の位置には実のところ、違和感がなかったのではないか。つまるところ、公衆便所の屋根裏で息んで生み出されたものが、扉の上にちょうどいい具合に落ちただけである。


 四度目であるが人々のために想像してみよう。屋根裏の散歩者よろしく公衆便所で一人暮らしをする幼女。身寄りのない彼女は、いつ大人にみつかるかとびくびく怯えながら、屋根裏で息を潜めていた。もちろん用を足すときは、室内に人がいないのを伺った上で、便所の真上の天井を開き、中空から直接便所に落とすことによって用を足す。ぽちゃん、という音が密かに癖になりつつも、毎日のように用を足していた彼女だったが、たまたま落とす位置がずれてしまった。しまったと思ってももう遅い。長く蜷局を巻いた人糞は扉の真上で生成され、奇跡的に床まで落下することなくその場に留まった。幼女はどうしようと思いつつも、生来の臆病さ的になにもできず、人糞はとある利用者によって発見されることとなった。


 この仮説にも穴はある。まず、臆病な幼女がどのように生計を立てているかだ。子供とこだわらずに、臆病な屋根裏の散歩者という点に主眼を置いたとしても似たような問題は残り……



 発想を変えてみよう。人糞はその場に当たり前のように配置された。つまりは、別の空間から瞬間移動わーぷしてきたのである。


 五回目の人々のための想像。地球の探索、或いは観光目的でやってきた宇宙人たち。彼ら彼女らも地球人と似たような排泄機能を有していた。そんな彼らの便所は、排泄したものが即座に遠くに瞬間移動して、はるか遠くに無作為らんだむに飛ばされる構造となっていた。その一つが便所の扉の上に移動したのだ。


 どこから突っ込んでいいかわからないが、そもそも、そんな技術があるならば…………





 もっと柔軟に考えよう。人為的にこの状況が作られたと考えること自体が間違いなのだ。つまり、人糞はひとりでに扉の上に登った。生きた人糞であるのだ。


 人々のための想像。突如として心を持った人糞は天を仰いで生みの親のけつをまじまじと眺めた。直後に襲いかかってきた水の流れに、どこかに連れ去られてしまうという危機感を覚え、本能的に飛び上がった。生みの親を跳ね飛ばした生きた人糞は天井にぶつかり、扉の上に着地した。遥か高所。誰にも侵されぬその場所に安堵感を得た人糞はおとなしくその場に留まることを選び今に至る。

 

 問題点。人糞が生きてるわけがない。あくまで便宜上の話で人糞内の微生物や寄生虫の仕業ということにしたところで、扉の上に登るのは………………







 想像……………………









 そうぞう…………………………











 そうぞ………………………………













 そう……………………………………















 そ…………………………………………














 か――

 

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