九尾冒険譚

猫猪 狐狼

九尾冒険譚

 自分の志望校である真木沢大学に合格して3ヶ月。

 毎日講義のため小田急線に乗り、行って帰る。

 こんな毎日がずっと続いたらいいなと思いながら毎日大学へと行く。

 しかし、そんな思いとは裏腹に平和は長続きはしなかった。


 ある7月の梅雨明けの日曜日。

 五月蠅い蝉の声を聞きながら講義の準備をして、小田急線で伊勢原駅まで行く。

 日曜日の午後ということもあり車内は閑散としていた。

 電車に揺られてうとうとしていたら、いつの間にか寝てしまった。

 目を覚ますと電車はトンネルの中を走っていた。

 なぜか床の上で寝ていたが、それ以外は特に変わったところはなく、再び座り目的の駅へと乗っていた。

 しかし、いくら待っても電車は止まることは無かった。

 さらにずっとトンネルの中を走っているようで、こんなに長いトンネルはないと知っているからこそ恐怖がこみ上げてきた。

 車内を見渡すと同じような状況の人が4人いて、そのうちの1人が車内にいる人を集め自己紹介をしているようで俺も当然呼ばれた。


「とりあえずみんな集まったわね。今がどういう状況かわからないけどとりあえず自己紹介をしよう。まず私からね、鈴鹿心晴すずかこはるよ。よろしくね。大学に行く途中だったんだけど...こんなんじゃ行けそうにないわね。じゃあ、どんどん時計回りでやっていって」


「あ、あたしは猫葉葵ねこばあおいです。葵って気軽に呼んでくれると嬉しいです。あたしも大学に行く予定で...」


 そこで話が途切れた。次は俺の番だ。


「俺は狼谷命かみたにみことだ。俺も大学に行く途中でこんな事になっている。よろしくな。」


「次は僕ですか。僕は犬伏潤樹いぬぶせひろきです。周りからはじゅんきって呼ばれています。僕も大学に行く途中だったんだけど、みんな同じ大学なのかな?」


「最後は僕の番だね!僕は烏兎沼絵斗うとぬまかいとだよ。みんなとは違って僕は高校生だけど仲良くしてね!」


 絵斗だけ手にミサンガをしている。

 どうやら絵斗以外の4人は俺と同じで真木沢大学の学生らしい。

 そんな感じで自己紹介をやっていても電車はトンネルを抜けることなく走っている。

 流石に様子がおかしいということになり全員で車掌室へと行くことになった。


 車掌室につき、中を覗いても中は暗く人の気配はしなかった。

 その途端周囲が明るくなり徐々に電車は減速し始めた。

 どうやら駅についたようでドアが開く。

 それぞれが嬉々として電車から降りる。

 降りると少し古ぼけた駅に列車は到着していた。

 空は夕焼けのせいか朱色に染まっており、目が痛くなるほどに眩しい。

 椅子にはホコリが被り、自販機の中の缶は倒れ、今では全然見かけない飲み物もあった。

 少なくともここが自分たちが目的としていた場所ではないということだけはわかる。 

 それでも情報を得ようとホームなどを探索していると、どうやらここは"月の宮"という駅で、もう何年も使われていないことがわかる。

 時刻表もあるにはあるが何故か文字化けしており、読むことができなかった。

 ある程度見て回っているとよく聞く電車の発車メロディーが流れ始めた。

 俺が電車に戻るともうすでに心晴と葵は中に居り、潤樹は運転席を調べている。

 扉が音を立てて閉まり動き始めた。再びトンネルの中へ電車は走っていった。

 そんな中、潤樹が運転席側の探索を終えて、


「だめです。運転席にも誰も居ませんでした。誰もいないのに走り続けているこの電車ってさ、どうやって走ってるんだろうね」


 それから他の人と雑談をしながら過ごしていると再び明るくなり、電車が減速し始めた。電車は駅に到着し、扉を開く。

 降りるとさっきの駅よりもこじんまりとしていて、さらに古そうだった

 太陽は空をさっきよりも真紅に染めていて、キーンというような耳鳴りまでし始める。

 先程のように探索をしていると、ここは"かたす"という駅だとわかった。

 時刻表は相変わらず文字化けしており、待合室にはこの電車のものであろう路線図が貼られていた。

 それを見てみるとこの電車は"ごしょう"という駅に向かっているようで、

 "月の宮"から"ごしょう"までの間に"かたす"、"きさらぎ"、"やみ"、という駅があるようだ。

 他の駅に見覚えはないが真ん中の"きさらぎ"という駅は聞いたことがある。

 たしか絶対に降りてはいけないもので、降りたら帰れなくなるという話があったはずだ。

 いつのまにか異世界に入り込んでしまって、その駅に向かっていることに恐怖を感じた。

 戻ったと同時に発車メロディーがなり始めしばらくしたら電車が動き始めた。

 各々が探索した結果を話していた時、急に電車が止まった。

 皆倒れこんでおり、絵斗は数メートル先に吹き飛ばされていた。

 駅についたわけでもないのに急に止まったのに違和感を感じた次の瞬間、電車の両方の扉が開き、遠くからドドドと大きな地震のような音と揺れを感じる。

 急いで電車から出て周りを見ると後ろから、10mを越すサイズの黒い何かが電車を飲み込みながらこちらに向かってくる。


「速く!あの穴に入って!」


 心晴が見つけたくぼみに身を寄せて隠れると黒い何かは俺達のすぐ上を通り去って行った。

 電車が使えなくなったため、取り合えずトンネルを出るためトンネルを歩いていると脇に古ぼけた木の扉を見つけた。

 扉の奥からは風が吹いていて、不気味に扉を揺らしている。

 どうやら外につながっているようで、長い階段を上がって外に出ると、そこは山の中だった。

 近くにはりんごのような木の実があったり、沢があったりしたため、そこで休憩を取ることにした。

 ある程度休憩をし、山を降りようとしたら雨が振り始めた。


「あそこに何か建物があるよ♪。あそこで雨宿りしようよ〜」


 なぜか楽しそうな絵人が指をさしているところに学校のような古ぼけた建物があった。

 その建物の近くには"九戸大神高校"というたてふだがあった。

 そこで雨宿りをしようと校舎に入った途端俺達が入ってきた扉が勢いよく閉まり、なぜか開かなくなってしまった。

 そして不気味なウエストミンスターの鐘が聞こえ、スピーカーからはとても低く不気味な声が響き渡った。

 なんとか聞こうとしても聞いたことがない言語が流れていて聞き取ることができなかった。

 とりあえずこの学校を見て回ると外は何故か古ぼけているのに、中はホコリが被っていたり、大きな穴が空いたり、赤黒いシミのようなものがあるが新しめのように見える。

 俺達は色々な教室を見て回りながら職員室を探し、校内マップを確認する。

 きっと校長室に解決の糸口があると信じ、校長室に向かった。

 校長室に向かう途中の中庭のような場所で、葵が宝箱のようなものを見つけ、駆け寄っていった。

 今にも開けようとしている葵を見て俺は咄嗟に


「やめろ!開けるな!」


 と言ったが遅く、宝箱の中から紫色の煙が噴出され俺達5人を包み込む。

 短い悲鳴が上がったと思ったら強烈な頭痛に襲われた。

 頭が割れそうなほどでそのまま気を失ってしまった。


 どれくらい気を失っていたのだろうか、雨はすでに止んでいた。

 辺りはすっかり暗く、綺麗な満月が出ている。

 皆が無事か探したが姿はなく、変わりに4匹の動物がいた。

 それぞれ鹿、猫、犬、兎がいる。

 とりあえず探そうと立ちあがろうとして、手を見たらヒトには絶対にないはずの肉球がついていた。

 急いで近くにあった池で自分の顔を見たら、自分の顔ではなく、狼の顔が映っていた。

 俺は狼になっていた。

 よくわからず混乱していると、目の前に自分の何倍もの大きさの尾が九本ある狐が現れ、頭の中に低い声で


『汝ら、よくも我の宝を失くせるものかな。其の姿は我から汝へらの罰なり。汝らが我が宝を見つけば其の姿を解かむ。』


 と言い、去っていってしまった。

 他の動物達が俺の所に集まってきて何やら話をしようとしているが、それぞれが別々の鳴き声で鳴いているため、何を言いたいのかが全くわからない。

 なんとなくでチームが分かれていき、犬、猫、鹿のチームで下から、俺と兎のチームで上から狐の言う宝を探すことにした。

 俺はスタスタと階段を登っていくが、兎は1段ずつ跳ねながら登っていく。

 絶対に時間がかかると思い、下に降りて兎を咥えながら登っていく。

 ヒトだった時では絶対にできない経験だった。

咥えた時に分かったが何故かこの兎だけ前脚の部分にミサンガをしていた。

 4階から徹底的に探し回る。

 宝は案外簡単に見つかりある教室の隅に隠されていた。

 それを持っていこうと、前脚でちょいちょいと触り咥えやすい位置まで持ってきて、咥えた。

 その瞬間、ドクンと脈打ち、心臓の鼓動が早くなっていき、異常なほどに空腹を感じる。

 目の前の兎を見て涎がボタボタと垂れる。

 食べてはいけないとわかっていながらも、狼の本能なのかわからないが、食べたいと思ってしまう。

 兎が後退りして逃げ出そうとしているところを、すかさず前脚で掴んで思いっきり噛み付く。

 血が噛み付いたところから勢いよく出てくる。

 今まで食べたことのない血の味、生肉の味、とても気味が悪く吐きそうになるが、狼の体はとても喜んでいてあっという間に食べ尽くしていた。

 それでもまだ空腹感は無くならず、新しい獲物を狙うため自分の意思とは関係なく歩き出していた。

 だんだん狼としての意識に乗っ取られていき、シャットダウンしてしまった。


 意識のほんの片隅でこんな声が聞こえる。


『なにとも弱き獣に成り下がりしものかな。汝を人に戻すは勿体無し。そのさまに一生をふることかな。』



 目覚めた時には、俺は山の中にいた。

 前脚や顔は血で赤くなり鼻が曲がりそうだ。

 近くには学校など見当たらず、街などもない。

 それから3ヶ月俺は狼としての人生を過ごし始めた。

 最初はなかなか狼としての生活には慣れなかったが今では狼の奥さんと、4匹の子供と一緒に暮らしている。


 ある7月の梅雨明けの日。

 俺は獲物を狩るため山を駆け回っていた。

 五月蠅い蝉の声を聞きながら肉を食いちぎり子供にあたえる。

 なんてたのしいんだろう

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