第2話 天野旅館は緩い曲

 ここは天野旅館。

 旅する人が宿泊する至って普通の宿泊施設だ。

 今日も沢山人が宿泊しに来ている。

 その中で一人で営業を回す超人が居た。


「いらっしゃいませ!ご希望のお部屋はありますでしょうか!」

「できれば窓側がいいです。」

「わかりました!401号室の鍵をお渡しします!旅館のガイドブックはこちらにありますのでどうぞお取りになってください!」

「はい」


 彼女の名前は、モカ=アイニー。

 この天野旅館をたった一人で経営している少女だ。


 だが、最近は少し迷惑な客がいる。

 夜中、たった一人で音楽を作っている客だ。

 一応別館もあるので、基本的にそっちで作ってるが、試しに自分の作った曲を聞くときは大音量で流すため、ヘッドホンから音が流れているのに音が大量に漏れると同時に本館の方にも曲が漏れていく。


 曲を作る彼女の名前は、シウ=ベクシル。

 一応だが、のお陰で人間になり、曲を作ることに興味を持ち、作曲者としての道を歩んでいる。

 一応魚には戻れるので、別館の近くにある池で魚として休んでいたが、そこに遊びにきた子供に掬いあげられそうになった。(一応逃げて自分が人間だということを見せた。(そしたらめっちゃ驚いてた))


「あの...」

「...あぁ、モカさんか。すまんね、ちょっとボーっとしてた。なんか言ったか?」

「そろそろ曲をここで作るのを辞めてくださいませんか?」

「それはできないお願いだな。ここはいい旅館だ。作曲が楽しいし、自然が豊か。作曲の隠れスポットとして人気なんだよ。」

「そうですか。」


 シウ=ベクシルは、あまり人気じゃない作曲家だが、少人数コアなファンがついているのだ。彼等のために彼女は作曲をしている。そして、コアなファンが付いたのがこの天野旅館で作った曲だったのだ。


「一応金は払っているし、できるだけ音量を少なめにしようとしているが、私は元魚だからかは知らないが、耳があまりにも悪いんだ。だからどうしても音量が大きくなっちまう。」

「...なら、すこし頼みがあります。」

「なんだ?」

「この天野旅館のイメージの曲を作ってください。」

「...いいのか?モカさんとしては一刻も早く私を追い出したいんじゃないか?」

「いいんです。これが一番平和ですし、私の旅館は曲がなくて静かな音しか聞こえないのが嫌というクレームがあったんですよ。なので、できれば貴方に曲を作っていただきたいのです。」

「...わかった。」


 〜10日後〜


「できたよ。」

「お、もう作り終わったの?速いね。」

「まぁ、すぐに構想が決まって、そこから寝ると食事以外の時間全て作ってたからな。」

「嬉しいな〜...」


 この10日間でモカとシウは友達になっていた。

 お互い食事のときに少し雑談するほどだが、それでも距離は縮まっていた。


「そうだ!私思ったんだけどさ、どこかで働きたいなって思ったの。それなら宿代を稼げるし、宿で泊まるからモカとも会えるし、楽しそう!」

「あ、それなら...」


 モカはこれまで自分一人でこなせるからって、一度も誰にも言わなかった言葉を口にした。


「ここの住み込みアルバイターにならない?」

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