彼のモノローグ

 彼女の名前は華音かのん


 あの夜はケーソツやサブたちが死人とは思えないほど舞い上がっていたっけ。まあ生きてる女の子というだけでも嬉しいのに、幽霊のオフ会に生身の人間が来てくれるなんて珍しいからな。と言うより、はじめてじゃないか。


 それが何を勘違いしたのだか、俺に付き合ってくれと言い出した。

 心底驚いた。俺の二つ名は次点だ。こんなことは起こりえない不幸な男だ。


 棲む世界が違うんだ。彼女を悲しませるのが目に見えている。

 それでも華音はいいと言った。いつも傍にいて欲しいと。


 しかし幽霊が四六時中傍にいたら、それは取り憑くといわないだろうか。

 華音や御家族の健康状態が心配だし、なにより不吉この上ない。

 もう一度、断ろうとする俺の目を見つめて、華音が頬笑んだ。

 俺は目眩がして思考が寸断した。そして脳裏に何度も花火が上がった。


「き、き、君が許してくれるなら、俺は今日から君の影になろう」


 俺の一生の不覚だ。いや一生ならとっくに終わっている。ともかくも、なんということを口走ってしまったのだろう。彼女を不幸にしてしまうのに。


 だが俺の意志とは関係なく、俺は華音の影に自ら捕らわれてしまったのだ。


「ほら、もう。取り憑いちゃったじゃないか! 塩を撒け! 般若心経を唱えろ!」


「塩なんか持ってないもん」


「寺でも教会でもいいから、早く除霊して貰ってくれ!」


「こんな夜中にどこも開いてないよ」


 ――次点があんなに焦るの、はじめて見たな。


 ――余程、あの娘に未練があるんだろうな。


 ヒソヒソと囁く幽霊たちは人の気も知ってか知らんでか、みな青白く頬笑んでいた。

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