だって幽霊なのに
来冬 邦子
彼女のモノローグ
あなたと出遭ったのは、妙に薄暗いオフ会の席だった。
真夜中のわたしの部屋に、ずぶ濡れのスーツを着たチャラい男が現れて、自分は幽霊だと名乗った。名前はケーソツ。たった今、これから幽霊のオフ会に御招待です。頭がイカレてるとしか思えない誘い方をするから、フルボッコにしようとしてたら、あなたが来たんだよね。白い紬の浴衣が粋だった。
もともと、わたしは怖がりだ。
幽霊なんて見たくも聞きたくもないのに。
あなたはほんとうに幽霊なの?
芥川龍之介と米津玄師を足して割ったような古風なイケメンなのに。
老舗旅館の宴会場みたいなところに連れて行かれたら、他の人は青ざめた頬でニコニコ笑っているのに、あなただけは傷ついたような苦しげな横顔をしていた。
こいつは次点というんですよ。ケーソツが薄笑いを浮かべて紹介した。
『作家志望で才能はそこそこあったらしいんスけど、応募原稿がことごとく次点止まりになるんで、世を儚んで死んだ男っスね。ここだけの話、仲間の幽霊がウツになるくらい、性格が陰惨で、友だちは一人もいないっスから、あんま、近づかない方がいいッスよ』
あのとき、あなたは自分を
それから、みんながあなたのことを笑いものにしようとした。
――こいつはね、見渡す限りの薄野原の真ん中に、白い着物でポツンと立って風に吹かれてたりするからね。
「分かる人にだけ分かってもらえれば、俺はそれでいいんだ」
――バーのカウンターで酔いつぶれる奴の隣に坐って、冷ややかに見下してたりとかね。
「どんなに絶望しても、必ずどこかで誰かが見守っていると、教えたかったんだ」
わたしは胸がかき乱された。
そんな理想を追い求めるような強い生き方、わたしに出来るだろうか。
あなたは死んじゃってるけど。
「わたし、尊敬します。あなたのことが好きです! 付き合って下さい!」
わたしが告ったら、あなたは言ったね。
――すまないが、きみの気持ちには応えられない。
そして、なぜと訊いたわたしに、あなたはこう告げた。
――俺は幽霊だ。この愛に賭ける命がない。
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