第5話

おいらは、そうまである。

大人になったら、スタンダード・プードルになるのである。

その為には、沢山栄養を付けないと駄目なのに…

お世話係は、パピー用のご飯しかくれないのだ。

だから、こんなの食べたくないんだぞ!アピールをして、ご飯は無視するのだ。

しかし…ふやかしてくれたご飯は、とっても魅力的な匂いがする。

ついつい口をつけてしまうが、我慢なのである!

今日は半分も食べてしまったが、明日は全部残すのだ。

大きくなったら「トンビ」も「文鳥」も追い払い、巨大なジャーキーを貰うのだ。

今も「日本犬」は、おいらのよりもずっと大きなガムを齧っている。

あの牙は見ているだけで恐ろしいが、おいらだって乳歯が抜けたら立派な牙が生えるのだ。

それにあいつは、背中に「文鳥」が乗っても気にしないで、ガムを齧っている。

何故なのだ?痛くないのか?「文鳥」は鋭いくちばしで突っついて、何かを食べているのだ!

きっと、あいつの皮膚を蟲って食べているのだ!なのに…何故気にならないのだ?

あいつが歩くだけで「文鳥」は、直ぐに飛んで行ってしまう。

おいらが走っても飛んで行ってはくれないのに!

やっぱり大きい方が便利なのである。

こんな小さいガムじゃ足りないから、さっさと飲み込んで大きいのを貰うので…

飲み込んで………ん?おかしい…飲み込めないのだ。

呼吸が出来ないのだ…ガムが喉に詰まってしまったのである。

吐き出そうとしても、出て来ないのである。

動けないのだ、助けて欲しいのだ、苦しいのだ。

お世話係が来て、おいらを抱き上げて…なかった。

逆さまにして、背中をバシバシ叩くのだ!痛いのだ、これは虐待なのである。

酷いのである。

苦しいから助けて欲しいのに、叩かれるのは悲しいのである。

「ゲボッ」あ!出た。

呼吸が出来る様になって、命拾いしたのである。

おいらは直ぐにゲージへ入れられ、何処かに連れていかれたのだ。

ここは知っているのだ、お里帰りなのである。

ただいまなのだ。

おいらを虐待するお世話係はいらないのである。

父ちゃん母ちゃんに告げ口するのだ。

なのに…真っ直ぐ先生の所に来てしまった。

ここは嫌なのだ!痛い事をするから帰るのだ。

暴れても許して貰えないのである。

どうやらおいらは誤飲をして、喉に物が詰まっていないか調べられるようだ。

お世話係が背中を叩いたのは、ガムを取り出す為だったらしい…

虐待ではなく、命の恩人だったのだ。

だから帰って来てあげたのだが、おいらのミルクガムは「日本犬」の物になってしまった!

飲み込み癖がある仔犬に与えてはいけないと、先生がお世話係に言っていたのだ。


悲しみが深い

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