壊れたエアコン?

🌳三杉令

酷暑の日に……

 これは8月2日の話――

 今、自宅は壁の塗り替えのリフォームが始まったところである。手続きは全て妻がやったので詳細は理解していない。昨日から全ての窓に目張りをされて、窓が開けられない密閉状態になっている。これから数週間工事が続くらしい。そして今年のこの酷暑だ。エアコンを一日中付けておかないと生死に関わる。


 そして不可解な事件は起きた。


 その日は午後休暇を取っていたので、お昼に自宅に帰ってきた。まず最初に問題になったのは車であった。業者の車や道具やらでいつもの所に車が置けない。しかも家の近くに不用意に置くと塗料がかかるらしい。業者が昼休憩でいない、妻も仕事で不在なので何も聞けない。


 暑い中、近所の空きスペースを探し回った。汗だくで車を何とか空きスペースに置くことができたが、これは不運の序章に過ぎなかった。


 自宅に入った。都合により今私が過ごせるのは自室だけだ。今日はエアコンのタイマーをお昼にセットしていたので、涼しい部屋に入れる筈だった。


 しかしなぜか…… 暑い……


「エアコン君、どうしたんだい??」


 そう呟いて、エアコンを見ると三色のLEDが点滅している。エラーで停止しているようだ…… なぜ? 今朝までは何も問題がなかったのに。


 リモコンを押しても、うんともすんとも言わない。私は無言でエアコン本体のコンセントをぶち抜き、グサッと差しなおす。LEDが正常になった。


「ふう、ざまあ見やがれ」


 一息ついてから、勝ち誇ったように私は呟いた。エアコンをONする。普通に風が出てきた。

 だが、しばらくするとブシューという変な音が外から聞こえた。嫌な予感がしたが、しばらく様子を見る。


 何かおかしい。温度計を見つめる。室温が一向に下がらない…… 


「部屋の温度が下がらん、むしろ上がっとるがな」


 悪夢だ。エアコンの風に直接当たってみる。


「生暖かい……」ホラーだ。


 冷風が出てこない状況が続き、やがてブシューという2回目の音とともにまた三色のLEDが点いて、エアコンが止まってしまった…… ここにきて、最悪の予感が頭をよぎる。20年ともに過ごしてきたエアコン君。きみはついに逝ってしまったのか?


「こいつ、このタイミングで壊れたか。マジか~」


 私は考えた。(修理か、いや、古いから買い替えだよな、しかしなぜ今なのか) 

 いずれにせよ、一刻も早く電気屋に作業してもらわなければいけない。しかし、そう考えた時に嫌な事に気がついた。今は壁のリフォーム中である。足場は全面がっちり組んであるし全ての壁が作業中である。まともなエアコン工事は不可能だ。


(あー、普通なら作業できないよこれ。壁工事終わるまで一ヶ月待つ? 不可能だ。熱中症で死ぬ。リビングは事情があり使うことができないし、娘の部屋は? 100%断られるだろう。これは悪魔の所業か? それとも私の日頃の行いの所為か?)


 絶望に打ちひしがれ、扇風機だけで耐えてカクヨムしてみる。しかし目張りされた窓は開けられないため、室温は33℃、35℃と上がっていく。ホラーだ。


「とりあえず今日は風呂場で過ごすか?…… 8月はもうまともな生活は出来ないな」


 そんな最悪の事態を考えた時、ふと室外機が気になった。外に出てそれを見に行く。そして私は見つけた。ビニールでぐるぐる巻きにされている可哀そうな犯罪被害者……いや、エアコンの室外機さんを……


 そうエアコン君は死んでいなかったのだ。塗料がかからないように室外機がビニールで密閉されていて熱交換ができなかっただけだったのだ。安堵の涙を拭きながらビニールを破り、室外機さんを魔の手から救った。


 エアコン君は雪の女王よろしく冷風を吹き始めた。


「良かった…… 私の愛するエアコン君よ」


 業者のおっさんが休憩から帰ってきた。室外機の事を話すと、


「ああ、もう作業終わったからビニール外していいっすよ。エアコン使うんですか?」

 

 (使うに決まっとるだろ、ボケ! 死ぬかと思ったわ!!)

 

 心の中で暴言を吐いた私は、こうして酷暑地獄から生還したのだった。



   - 終わり -

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壊れたエアコン? 🌳三杉令 @misugi2023

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