サウナスーツ
ある老人が日課としている近所のウォーキングをしていると、後ろからバサッ、バサッという音がしてきた。
老人が驚いて振り返ると、そこには黒い上下のサウナスーツを着た背の高い男らしき人が走ってきていた。
老人が慌てて道路のわきに下がると、その男はそれに構わず、老人を抜いて走り去っていった。
男の格好、サウナスーツ姿で、頭にフードを被った様子に見慣れていなかった老人は、(変わった格好の人がいたものだな)と走り去ってゆく男の後ろ姿が小さくなってゆくのを眺めた。
翌日もその翌日もそのサウナスーツの男は、老人を後ろから走り去ってゆき、その頃になると老人はそれに驚くこともなくなっていた。
ただ、季節が初夏となっていたため、(あんな格好で暑くないのだろうか)と老人は男のしている事に疑問を持つようになっていた。
そうしたある日、いつもと異なることが起こった。
走っていた男が、老人を抜き去った途端に、走るのをやめて歩き始めたのだった。
(疲れているのかな)
そう思いながら、老人が男の後ろを歩いていると、サウナスーツの男の足元から、点々と液体が垂れ下がって、地面に水滴を落とし始めた。
老人が、地面に落ちたその水滴をよけて歩いていると、おかしなことに、男の汗とおもしきそれは次第に大きな水滴となって地面に水たまりの様に広がり始めた。
(どうしたことだ)
老人がそう思ってサウナスーツの男の方を見てみると、そこにはまるで風船がしぼんだかのようにペラペラとなった男の人影があった。
(何だあれは!)
そうして、老人がサウナスーツの男を眺め続けていると、サウナスーツの男はバランスを崩したようにその場に倒れてしまった。
それを見て(大変だ!)と老人が男の方に駆け寄ると、不思議なことに、そこにはびっしょりと濡れた上下のサウナスーツだけがあり、中にあるはずの男の姿が消え去っていた。
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