カイキバナシ
よういち
電話ボックス
飲み会の帰りに終電に乗り込んだ大学生の男が、電車の中で眠ってしまい、慌てて電車から出て駅のプラットホームへと降りると、そこは見慣れない駅だった。
乗っていった電車が発車していくのを見送ると、男は呆然と駅の改札へと向かった。
(どこだよここ)
駅から出て駅名を確認してみたが、そこには記憶にない名前が書かれていた。
とにかく、迎えを呼ぼうとスマートフォンを確認してみると、どうしたわけか電源が消えており、何度スイッチを押しても、電源はつかなかった。
(最悪だな)
そう考えながら男は、駅の周辺を歩き始めた。
街灯がまばらで薄暗いアスファルトの道路は時間帯もあってか人通りが全くなかった。
なおも歩き続けていると、道の片隅に公衆電話の電話ボックスが設置されているのを見つけた。
(これで連絡ができるな)
そうして男は電話ボックスへと走った。
電話ボックスのわきには、つぶれた文字で『■■出没注意』と書かれた立札が立っていた。
男はそれに興味をひかれながらも、早く電話をしたいと思ったため、電話ボックスのガラスの扉を開いた。
男は公衆電話に小銭を入れると、自宅の電話番号を押した。
受話器を耳に当てているとプルルルルという音がして通話が始まろうとしていた。
しかし突然ブツッという音がして電話が切れてしまった。
(何だよこの電話、故障してんのか?)
男は苛立ちながら再度、電話のボタンを押そうと手を伸ばした。
すると、受話器から、ピ―ピ―ピーピーという音が聞こえてきた。
男がそれに驚いていると、『ボックスのドアを完全に閉めてください』という音声が流れてきた。
(何だ? ドアを閉めろだって?)
『ボックスのドアを完全に閉めてください』と再度音声が流れてきたため、男は仕方なしに電話ボックスのドアを引っ張った。
すると、ガシャンという音がした。
「あれ?」と男がドアを開けようとすると、ロックがかかったようにドアが閉ざされてしまった。
(なんだよ、どういうことだよ!)
焦った男が力任せに押しても、ドアはびくともしなかった。
そうしていると、ボックスの外から、カラカラカラという音が聞こえてきた。
(何の音だ?)
男がガラス越しに外を覗いてみると、そこには全身が真っ白く、腕が地面まで伸びている、不格好な、顔のない細長い人型の何かがいた。
本能的に(あれはまずいものだ)と感じ取った男がそれを眺めていると、カラカラカラという音が大きくなってきて、それは男のいる電話ボックスの方へと向かってきた。
男の前まで来ると、顔のない頭が横向きに半分に割れて、そこから真っ黒な歯がむき出しになった。
そしてそれは長い両腕を電話ボックスのガラスへと伸ばしてきた。
バン、バン、バン、バンとガラスをたたく音が闇夜に響いた。
男は恐ろしさから、その場に崩れ落ちてしまい電話ボックスの中に座り込んでしまった。
(なんだよ、どうしてこんなことになってしまったんだ!!)
そうして、男が座り込んでいる間中、バン、バンとガラスをたたく音が響き続けていた。
そうしていると突然、ブツンという音が聞こえて電話ボックスの照明が切れた。
辺りが真っ暗になって、男は一層恐ろしくなって震えだした。
すると、突然辺りが静かになって、物音ひとつしなくなった。
暫くの静寂が過ぎた後、突然ブーンという音がして、電話ボックスの照明がついた。
男が恐る恐る顔を上げて電話ボックスの外を覗いてみると、先ほどの異形の化け物は見当たらなくなっていた。
ガチャンという音がして電話ボックスのロックが外れたような音がした。
(なんだ、終わったのか?)
体中が冷や汗でびしょびしょになっているのを感じながら男は立ち上がった。
電話ボックスのドアが開いているのを確認した男は、おそるおそるそこから顔を出した。
外では気味の悪い冷たい空気が流れていた。
結局、外に出る勇気がなかった男は、翌朝になってようやく外に出た。
そして、おそるおそる歩いて降りた駅へと向かった。
駅に着いた男は始発電車を待ち、それから電車に乗って自宅へと向かった。
家に帰ることが出来た男はそれ以降、無事に暮らしているらしい。
しかし、あれ以来、時々ピ―ピ―ピーピーという耳鳴りに悩まされているという。
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