二十四組目 王子と女王

『セッ○スしないと出られない部屋』


 それはその名の通りこれまで数多くの男女を(強制的に)招き入れセッ○スさせてきた恐るべき部屋である。


 この部屋に選ばれた二人組は両片想いの者達のみなので紆余曲折ありながらもなんだかんだ甘い空気を纏いそういう事を行ってきたのだが……


「はっ!」

「遅い! 踏み込みが甘い!」


 白い肌に短い金髪の美しい男と浅黒い肌に長い銀髪の美しい女が剣をぶつけ合わせ火花を散らしている。


 金髪の男は海に囲まれた島国、ブリティニアの王子であり銀髪の女は森の奥地にある国、アマゾーネの女王である。


 高貴な身分である二人が剣を交え戦っているのには理由がある。


 アマゾーネは血統ではなく強者が王となる弱肉強食で実力主義な国であり銀髪の女もまた王を決める戦いの末に勝利し女王となったのだ。


 女王の伴侶は女王自ら選ぶことが出来た。女王は「私は強い者を愛する。私に勝つことが出来たならその者を伴侶とする」と国内外に通達し多くの男が集まった。


 美しい女王を手に入れたい者、強さに自信のある者、アマゾーネの国そのものを狙っている者。様々な思惑を持つ男達が女王と戦ったが誰一人として勝てる者はいなかった。


 ブリティニアの王子もその一人である。王子は末弟であるため序列は低いものの国の中では随一の強さを誇っていた。幼い頃から大人相手にも負けた事がなく自分は最も一番強い男なのだと自負していた。そんな中で女王の通達を目にし王子は考えた。


 ──僕は末の子であり兄上達を押し退け自国の王にはなれない。だが自分は誰よりも強い。自国で王になれぬのならこの麗しい女王を倒しアマゾーネの王となればよいのではないか、と。


 野心を胸に意気揚々とアマゾーネに赴き伴侶選定の戦いに向かった。が。


「今まで負けたことがないんだろう? 喜べ。敗北の味を知ることが出来たぞ」


 女王は一切の慈悲もなく大勢の前で王子を打ち負かした。地面に這いつくばらせ完膚なきまでに叩きのめし王子の高い自尊心と驕りをズタズタにしたのだ。その時、女王にとって王子は数いる敗北者の一人に過ぎず一瞥することなくすぐに他の男と戦い始めた。その事もまた王子のプライドを深く傷つけた。


 大抵の挑戦者は一度戦っただけで女王の圧倒的な力を理解し勝てるはずがないと逃げ帰っていったが負けん気が強く頑固な王子は自国に帰らず毎日のように女王に試合を挑み続けた。


 最初は無様に負けた王子を嘲笑っていたアマゾーネの民も何度も女王に挑むその執念と日々研鑽に励む姿に敬意を表すようになっていた。それは女王も同様であり対戦の後は言葉を交わし執務のない時は共に過ごすくらいには心を開いていた。


 そんな二人がいつものように戦おうとしたところ謎の光によって魔族の創ったセッ○スしないと出られない部屋に閉じ込められてしまった。二人は当然戸惑ったが……。


「私は自分より強い男以外に組み敷かれる気はない」

「ならすることは変わらんな。僕が勝ってお前を手に入れる……!」


 と戦闘民族らしい会話をした後イヤらしい雰囲気になることはなく戦いに明け暮れていた。部屋の中で傷つくことはなく時間の流れも止まっている事から二人はむしろ都合がいいとアマゾーネにいた頃よりも激しい攻防を繰り広げている。


「今日も私の勝ちだ」

「くそっ……次は勝つ……!」

「そうか。偉いぞ」

「子ども扱いするな! 歳も三つしか離れていないだろう!」


 剣を弾かれ首に刃を突きつけられた王子は悔しそうにしながらも明日は勝つと女王を睨む。その視線に女王は愉快そうに笑っていた。




 ◇◇◇



 そんな日々を送り三年の月日が流れた。部屋の中は時が止まっているため歳を重ねる事はないが経験の蓄積は出来る。何度も戦う度に少しずつ実力差が縮まっていき、そして───。


 キンッ!


 女王の装備していた剣が王子の強烈な一撃により離れ遠くの床へと落ちる。そしてその隙を逃すことなく王子は女王に剣を突きつけた。それは女王がいつも王子にしている事であり初めて立場が入れ替わった瞬間であった。


「僕の……勝ちだ……!!」

「……ああ。そうだな」


 ようやく掴んだ勝利に喜びを噛みしめる勝者と悔しさはあれど心の奥底から待ち望んでいた敗北に穏やかな表情で負けを認める敗者。二人は互いを称え合い抱き合った。


「これでお前は僕のものだ」

「ああそうだとも。私はお前のものだ。王子よ」

「そうか……ついに僕は…………………と、とにかく今日は休もう」


 しばらく抱き合っていると勝利による高揚感が薄れ好いた女と抱き合っている羞恥心の方が勝ったのか王子は顔を耳まで赤くしながらそっぽを向いて離れる。その初々しい様子に女王はポカンとした後、妖艶な笑みを浮かべ王子の背中に抱きついた。歳上である女王の方が今は背が高いため王子の体はすっぽりと女王の体に包まれる。


「どうした? 私を抱かないのか?」

「抱っ!?」

「そのために今まで戦っていたのだろう? 違うのか?」


 挑発するように王子の下腹部をイヤらしい手付きで撫でる女王に王子はビクリと体を震わせ下半身を反応させないようぎゅっと目を瞑り耐える。


「そ、それは…………し、しかしだな。そういうことは正式に婚姻を結んでからすべきだと」

「正式に結ぶにはここから出なければならないだろう。そのためにはまぐわう必要があると思うのだが?」

「……っ……そうかもしれないが……」

「私はこの部屋に連れてこられる前からお前に負ける日を待ちわびていた。お前が私を負かし、組み敷く瞬間を何度も思い描き自分を慰めていたのだぞ」

「なっ……!?」


 熱っぽく卑猥な秘事を耳元で囁かれ王子の理性は暴発寸前であった。しかしアマゾーネに比べ血統と気品を重んじるブリティニアで生きてきた王子は荒い呼吸をしながらもそれを耐える。


「と、とにかく! そういった事はまだ……早いというか」

「……そうか。お前がそういう考えならば私は私の考えで動くことにしよう」

「何を……っておい!?」


 意外と奥手でヘタレな王子を愛しく思いつつも女王は強引に王子を持ち上げベッドへと運ぶ。ドサリとベッドに降ろされた王子は驚きながらも起き上がろうとするが女王が上に覆いかぶさりそれを止める。


「もう待てない。私がどれほどこの日を待ったと思うんだ。早く抱け」

「そりゃ僕だってそうだが……! 今は戦って汗だくだしせめてシャワーを浴びてからの方がだな……!」


 服を脱ぎながら迫る女王にドギマギしながらも自身の汗を気にし拭う王子だがその仕草すらも女王にとっては情欲を煽るものであった。


「むしろ汗に塗れていた方が興奮する。このままシよう。ほら、邪魔なものは取り払おうな」

「わー! 脱がすな! せめて自分で脱ぐから! あと僕の方が下なのも納得できない! 僕の方がお前を押し倒すべきで……って話している最中に咥えるなぁ!」


 それから閨で上にいったり下にいったりの攻防をしながらもなんだかんだ激しく互いを求め合う二人なのだった。




 ◇◇◇




「ここから出たらもう一度僕と戦ってくれ」

「何故だ?」


 何度も睦み合い共に寝そべっていると王子が対戦の申込みをしてきた。その真意が分からず女王が理由を訊ねると王子は拳を強く握りしめ遠くを見るように視線を天井に移す。


「アマゾーネの民の前でお前を負かさないと意味がないだろう。皆僕達の戦いを見守ってくれていたのだからな」

「ほう。しかし今回はお前が勝ったが……お前の今回用いた戦略はもう私に通用しない。お前がまた負ける可能性もあるぞ?」

「新しい手を考えるさ。もし負けてもまた挑戦する。何度も戦って最終的には負の数よりも勝った数を上回らせてやるさ。覚悟しろ」

「ふふふ。それでこそ私の愛する男だ。楽しみにしているぞ」


 王子の消えぬ闘志に女王は恍惚とした表情になり王子に寄り添う。それからアマゾーネに帰った二人は何度も戦い勝っては負けてを繰り返しつつも互いを高め合う夫婦となるのだった。




   ◇◇◇




「しゃあおらっ!!!!!!!!!!!」

『今回は本当に長かったですね……部屋の滞在記録としては最長では?』


 二人が結ばれ部屋から出ていくのを見届けたあと淫魔キブリーは勝利の雄叫びを上げた。天に高く拳を勢いよく突き上げた後犬のようにその場でぐるぐる回転する。その奇行を水晶玉は離れた位置から見守っていた。


「なかなか一線を超えず焦らされ続けてからの互いの欲望を開放する姿!! うめえ!!」

『いつにもましてテンション高いですね……』

「年上な姉さん女房気質で性に奔放な女王と生意気だけど性に初心な年下王子……しゅきぃ……おねショタというほど歳は離れてないけど自分より年上な女に翻弄させる年下の男はイイゾ……」


 三年の『溜め』の月日を経ての本番にキブリーのテンションはうなぎのぼりであった。いつも以上にドタバタくねくね興奮するキブリーに水晶玉は若干引きつつもそうですね、と話を合わせるのだった。

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