二十三組目 粘液生物と召喚師

『セッ○スしないと出られない部屋』


 それは両片想いの、くっつきそうでくっつかない男女をセッ○スしなければならない部屋に閉じ込めその一部始終を観察して楽しむという特殊性癖を持つ淫魔キブリーが創り出した強制性交空間である。


 その密室性は凄まじくあらゆる攻撃を受け付けない。その部屋の利用者兼被害者達はもっと他の事にその能力使えよと口々に言うともっぱら評判(?)の部屋だ。


 そんな部屋に閉じ込められてしまった者達がいた。


「わ〜。本当にピンクなんだね。実在したんだセッ○スしないと出られない部屋〜」


 謎の部屋に拉致されているにも関わらずゆるっとした口調で話しているのは人の形を模った半透明で水色の粘液生物。通称スライムである。


「嘘でしょ……」


 呑気なスライムに反してこの世の終わりだと言わんばかりの絶望顔をしているのは召喚師の女だ。


 召喚師とは主に魔物を呼び出し使役する術師の事。召喚師の隣りにいるスライムは彼女が子どもの頃に初めて喚び出した魔物であった。


 初めての召喚に大はしゃぎした彼女はスライムと契約を交わし家族のように共に過ごしたパートナーで最初は唯の丸いフォルムだったスライムも彼女と共に修行した結果今では人の形を保ち言葉を交わせるほどに進化していた。


(ど、どうしよう……いくら大好きなスラちゃんでもそういう事は……スラちゃんは私の大事な家族だしそもそも……そういう事出来るの……?)


(また何か考え込んでるな〜。おもしろ〜い)


 青くなったり赤くなったりを繰り返す召喚師をスライムはじーっと観察している。スライムにとって主である召喚師を眺める事が何よりの娯楽なのである。とはいえ悩む主人を放置するのは使い魔として良くないよなと思いスライムは勢いよく人の手を模した触手を挙げる。


「あの〜、質問いいですか〜?」

「ちょっとスラちゃん。話しかけたって返事が返ってくるわけ……」


『なんですかな』


「返ってきた!?」

「セッ○スの定義ってなんですか〜?ぼく性自認はオスだけどスライムの体だから生殖器官ないよ。男の性器に模したのは造れるけどそれを挿入するのでもおっけ〜?」


「ちょっ!? 何言って!?」


『もちろん。ラブがあればよし!』


「なるほど〜。回答ありがと〜」


『いえいえ〜』


「スラちゃん!? なんで私達をこんな所に拉致した黒幕と仲良しな感じで話してるの!?」


 内容の生々しさはともかくほのぼのとした空気が流れ召喚師はスライムの肩を掴み揺さぶる。するとスライムの体がぷるぷると揺れ緊迫感の欠片もない絵面になっていた。


「やきもち?」

「ツッコミだよ!」


 どこに妬くところあったの、と召喚師が重ねてツッコむとスライムはあはは〜と笑う。どこかズレた事を言うスライムにツッコミを入れる召喚師。二人(?)の定番のやり取りである。


「とりあえずどうする? えっちする?」

「えっ」


 しかしここはセッ○スしないと出られない部屋。必然的に話題は和やかなものではなく性的なものになる。平然といつものように質問してくるスライムに召喚師はポカンとした。


「そうしないと出られないらしいけど」

「そ、それは……ねえ、どこかに穴とかない? スラちゃんなら小さな穴でも抜け出せるよね?」

「んー、どうだろ。一応探すけど」


 スライムは自分の手を千切り床にペイっと落とす。すると丸い球体になった小スライムがすそそそと床を駆けていく。スライムは自分の体の一部を切り離し分裂させることが出来るのだ。分裂させたスライムをくっつけ元通りにする事も出来る便利な能力である。いくつかの小スライムを作り部屋の隅々まで探索したがスライム達はヒビの一つすら見つけることは出来なかった。


「蛇口も駄目だね。こっち側から逆流するのは無理みたい。お手上げ」

「そっか……」


 探索能力の優れたスライムに打つ手なしと宣言され召喚師は肩を落とす。


「……どうする?」

「……えっと、えっと…………そうだ! スラちゃんが二人に分裂してそういうことをすればいいんじゃ!?」

「ヤダよそんな大掛かりなオ○ニーするの」

「だ、だよね……じゃあ……」

「うん!」

「こんな事で喚び出すのは心苦しいけど最近契約した淫魔を召喚して相手をしてもらうよ」

「はあ!? なんでさ!! 今の流れはぼくとえっちするのを提案する奴でしょ!! というかぼく差し置いて他の男とえっちするなんて絶対許さないんですけど!!」


 召喚師の日和ったクソボケ発言にゆるゆるな態度だったスライムがガチに怒り出す。滅多な事で怒らないスライムの怒りの形相に召喚師は動揺した。


「だって……スラちゃんは家族だし……」

「そういう目で見れないってこと? ぼくのこと嫌い?」

「嫌いなわけないよ。でもその……弟みたいな感じで………………ってひゃっ!?」


 煮えきらない態度に痺れを切らしたのかスライムは触手を伸ばし召喚師の服の中に入れる。ヒンヤリとしたぬるぬるの触手が肌を這う感触に召喚師はあられもない声を上げる。


「だ、だめっ」

「きこえなーい」

「ひゃんっ! 冷たっ……待ってそんなところに入っちゃ……!」


 服の中を這い回る触手が下着へと到達し繊細な部分を直接触られ召喚師はビクビクと体を震わせた。男を知らぬ彼女にとってスライムの触れ方は劇薬のようなものだった。


「わ〜、今の凄くえっちな声。もっと聞きたいな〜」

「あ、やっ、そんなとこ吸っちゃだめだよっ……あ、あああああー!」


 それから召喚師は怒ったスライムにありとあらゆるところを蹂躪されもう二度と淫魔喚び出すねとは言わないと固く心に誓うのだった。




   ◇◇◇




「ヤキモチスライムの逆襲……凄かったですな」

『触手責めだけでは飽き足らず途中分裂して二人で召喚師の方を責めるとは……流石に予想外でした』

「擬似3Pとか器用ねスライムクン……いやー、凄いもの見たわぁ……スライムクンは固さも太さも調節出来るから便利だよねぇ……」


 スライムの、愛しの召喚師をオトすために行われた怒涛のテクニックの凄まじさに魔族と水晶玉は感心していた。


『召喚師の方もなんだかんだすぐ好き好き言ってましたね。家族同然の付き合いだったからこそ最初は好意を口にしないようにしていたのでしょうか』

「だろうねぇ。スライムクンもそれを感じ取ってたからこそムキになったのでしょうなあ……青春ですな……」


 青春な恋というには性的かつ邪悪すぎる展開であったが終わりよければすべてよし精神のキブリーは満足そうに頷き今回の記録を見返すのであった。

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