俺の配信にコメントしてる人達が普通じゃない

阿吽

第1章 俺の配信コメント欄が賑わい始めたんだが

第1話 参拝してから配信のコメント欄が賑わってるんだが?

 「っだ~……今日も全然ダメだったな。」


 ダンジョンを出て、帰路を歩きながら溜息を吐くのは新堂尊しんどうたける

 

 世界中にダンジョンが現れてから早5年にもなるが、案外人類は適応するのが早いみたいで3年前にダンジョン攻略を生配信するアプリと機材が開発された。『ダンジョン攻略者配信アプリ』を略して『DCSドックス(Dungeon Conqueror Streaming)』と呼ぶそれは世界中で大流行していった。最新AIによるリアルタイム翻訳や投げ銭にプレゼント機能、視聴者数やチャンネル登録者数によるランキング機能等々……いまやダンジョン攻略よりもダンジョン配信のためにダンジョンに入る人がいるくらいだった。


 そして俺こと新堂尊も、ダンジョンに潜って攻略をしながら配信をする攻略者だ。


「あ~あ、なんとか1年続けたはいいものの……。攻略も配信も上手くいかないし、あきらめて普通に就職を目指すべきなのかなぁ。」


 尊は現在、進級まじかの高校1年生である。日本では満16歳から攻略者として国に登録申請することができ、尊も昨年にすぐ申請をしてから高校に通いつつダンジョンに挑戦する日々だった。だが、攻略者といえど一般の高校生に過ぎない尊は特別な力に目覚めるとか、すごい人が才能を見込んで師匠になるなんてイベントが起きるわけも無く平凡なまま平凡に攻略者を続けていた。


 今日も学校帰りに最寄りのダンジョンに潜り配信をしていたが視聴者は1人。その1人もコメントはしてくれず終始無のコメント欄を横目で見つつダンジョンの低階層で雑魚魔物のスライムを狩っていた。雑魚魔物のスライムから手に入るのは最低等級の小指の爪程度の魔石のみ。ひとつで100円くらいで、今回尊が2時間スライム狩りをして手に入れた魔石の数は12個、1200円になる。高校生で1日1000円を超える収入なら小遣い程度ではあるものの無いよりはマシ程度だった。


 ちなみに魔石等のダンジョン産のものを換金するには、市役所や区役所のような行政の大きな建物にある攻略者窓口にて行うことができる。


「帰りにコンビニで揚げチキンでも買って帰るか…………って、ん?こんなとこに鳥居なんてあったか?」


 尊がコンビニに寄り道することを考えていると、まったく見覚えのない鳥居が道の端に現れたことに気付く。いつもの帰り道であるはずなのに、今まで気付かなかったことが不思議なほどに立派な鳥居が建っており尊は背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。だが、何故か尊は鳥居の中へと一歩踏み込み奥へ奥へと進んでしまっていた。


「っは!?いつのまにここまで……?」


 気付くと尊は境内の目の前まで進んでおり、目の前には神社らしい賽銭箱と鈴緒があった。尊は急なこともあり動揺していたが、神社特有の空気間に段々と冷静さを取り戻していき最終的には「折角だしお参りでもしていくか!」くらいに前向きな考えをしていた。


「えっと、お賽銭は……あぁ!」


 お参りをするのに財布を取り出すと、手が滑り魔石を入れるために母がくれた巾着袋がそのまま賽銭箱の中に落ちてしまった。それほど大きくも無い巾着袋はするすると滑って賽銭箱の中まで簡単に落ちていき、もう取り出すことの出来ない奥まで入っていってしまった。


「うおおおい!!!今日とった魔石!母さんにもらった巾着ごと!?お、お~い!神主さん!?巫女さんでもいいんですけど!?ちょ、誰かいないですか~~~!!!」


 大声で呼びかけるも誰もいないのか応える人はおらず、あたりは不気味なほどに静まり返っていた。


「はぁ……仕方ない。明日土曜で学校も休みだし、ダンジョンに行く前に寄ってみるか。」


 そう言って踵を返して家までの帰路につく尊。家に帰って母に素直に謝ろうと決めて、速足気味に帰る。鳥居をくぐって見慣れた道に戻りスマホを開くと時刻は既に19時をまわっていた。街灯に照らされた道には歩道が無いため塀沿い、側溝の蓋の上を歩いていくと足音と共に蓋の動くがたがたという音がした。


 神社を出て歩き始めておおよそ10分程経つと自宅の前に着いた。二階建てのどこにでもあるような一軒家。玄関の明かりが優しく灯っていて尊はいつもこの光景を見るとほっと安心するのだ。


「ただいま~。」


 玄関を開けて靴を脱ぎ家に上がる。すぐ右側の扉を開けるとリビングになっていて、ダイニングキッチンもあるので美味しそうな夕食の良い匂いがする。


「あら、今日は遅かったわね。怪我はしてないみたいだけど……何かあったの?」


 さすが母親というべきなのか、尊の様子がいつもと違うことにいち早く気付き訪ねてくる。


「あ~、うん。実はさ、母さんにもらった巾着袋が…………」


 俺は事の顛末を母親にすべて話す。すると母親はこんな事を話し始めた。


「う~ん、そんなところに神社なんか無かったと思うわよ?私もこの町に住んで長いし、あんたが使ってる道も普段通ったりするけれど鳥居なんて見たことないわねやっぱり。あんたが言ってる場所も確か、ちょっとした雑木林みたいになってるけど人が入っていけるような道はなかったと思うわ~。」


 俺の夕飯用に茶碗にご飯を盛りながらうんうんと思い出しながら話をする母。母が言うには俺がいつも通る道には神社は無く、俺の話した場所には人が入れそうに無い雑木林があるだけだと言う。確かに俺もほぼ毎日あの道を通って1年は経つが、その中で一度もあの神社に気付かなかった。だが今日見たあの鳥居は中々に大きく、奥にあった境内も中々に豪華だったし綺麗にされていた。今日は時間が遅かったからか人気は無かったが、手入れの行き届いたように見えた。


「じゃあ俺が見たあの神社は……?」


 実際に俺は今日の戦果である魔石と、母からもらった巾着袋は手許に無い。確かにあの時俺はあの神社にいたのだ。とにかく、明日またダンジョンに行くのだから通路を確認しながら神社を探してみよう。


 そんなことを考えながら俺は夕食を食べるのだった。





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