交渉材料

……………………


 ──交渉材料



「ディミトリが州警察に引っ張られた?」


 マックスがそう聞き返す。


『イエス。うちの仲間が見ていたから間違いないよ。彼は海外に高飛びするつもりだったみたいだけど、その前に州警察と連邦捜査局が待ち伏せてて、引っ張っていった』


 そういうのはラジカル・サークルのルーカスだ。


 そう、ディミトリが乗ったタクシーの運転手がまさにラジカル・サークルの構成員だったのである。その構成員からルーカスに連絡が行き、そこからさらにマックスたちに情報が伝わった。


「情報に感謝する、ルーカス」


『顧客は大事にしないとね。じゃあ』


 マックス礼を述べるとルーカスがそう言って電話を切った。


「不味いな。ディミトリが喋ると何もかも台無しになる」


「ルサルカの解体は進んでいるが、まだ全部のビジネスが移行できたわけじゃない」


「ああ。この状況で州警察や連邦捜査局に介入されるのは不味いぞ」


 ルサルカのビジネスをルサルカから切り離し、新しい組織に移行させる手続きは今も進んでいるところだった。今はルサルカと新しい組織は完全に分離できておらず、組織は脆弱な状況にある。


「やつの口を塞ぐ必要がある」


「どうやって?」


「方法は少し考えてある。人間としての情を利用しようってわけだよ」


「ああ。なるほどね」


 レクシーがサディスティックに笑ってそう言うのにマックスが口角を歪めて笑った。


 それから彼らはフュージリアーズを率いて動き出す。


 マックスとレクシー、そしてフュージリアーズが向かったのはパシフィックポイントの住宅街の一角にある家屋だ。そこは連邦捜査局が重要な証人やその家族を匿うために運用しているセーフハウスであった。


 連邦捜査局の捜査官たちが警備するその家屋の前でSUVは停車。


「派手にかませ」


「応っ!」


 マックスはサプレッサー付きの散弾銃を手にそう言い、それぞれの武器を手にしたフュージリアーズのメンバーたちが声を上げる。


 彼らは一斉にSUVを降りると警備に当たっていた捜査官たちを襲撃した。


「クソ! 襲撃だ!」


本部HQ本部HQ! 襲撃を受けている! 増援を──」


 無線で応援を求める捜査官たちが対戦車ロケットによって吹き飛ばされ、グレネード弾がさらに追い打ちをかける。そして、その破壊された玄関を超えてマックスたちが家屋内に侵入した。


「女を探せ。間違っても殺すな」


 レクシーがそう短く命じ、家屋内を素早くフュージリアーズが捜索する。


「レクシーの姉御。いたぞ。目標だ」


 マシューが無線で連絡し、レクシーたちが集まる。


「よう、ターニャ。少しばかりドライブと行こうぜ」


 レクシーがにやりと笑ってそう言う相手は、他ならぬディミトリの妻であるターニャであった。


「一体何を……」


「あんたもディミトリの妻になるなら覚えておくべきだったな。俺たちみたいな職業の連中にとって家族は弱みでしかないってことを」


 マックスはそう言い、麻袋をターニャの頭にかぶせ、手を結束バンドで拘束してから彼女をセーフハウスから連れ出した。


 ターニャが拉致されたことは、まず連邦捜査局が知り、それからディミトリが知った。ディミトリが知ったのは連邦捜査局に知らされたからではなく、マックスたちから警告を受け取ったからだが。


『ディミトリ。ターニャは預かっている。あんたがお喋りディミトリになるなら、残念だがこいつを始末しなければならない。まだ覚えてるか、サム・ゴルコフのことを。ああいう風に焼き殺す』


「クソッタレ。私にどうしろというんだ?」


『こちらの内通者がお前を逃がす。その後のことは会って話そう』


「……分かった」


 その後、ディミトリは州警察の施設内に潜入していた三月ウサギによって逃亡を補助され、脱出した。が、自由の身になったわけではなく、待っていたフュージリアーズによってパシフィックポイント郊外に連れていかれた。


「ディミトリ。あんたが裏切ったのは残念だ。あたしたちはよくやってたのにな」


 レクシーは何もない砂漠のような場所に連れてこられたディミトリにそう言う。


「ふざけるな。ターニャはどこだ?」


「ああ。そうだったな。ターニャを連れてこい」


 ディミトリがレクシーを睨むのにマックスがターニャを連れてきた。


「ターニャ! 無事か!?」


「感動の再会だな。で、だ。あたしたちがあんたを生かしておく必要があると思うか? 連邦捜査局に取っ捕まるような間抜けを生かしておいて、情報漏洩のリスクを抱え続けるリスクを継続するか、だ」


「クソ」


「ああ。あんたはクソだ。あんた自身が招いた結果だぞ。マックス、女からやれ」


「ターニャは関係ない! やめろ!」


「今さら何を」


 次の瞬間、ターニャが松明のように燃え上がり、悲鳴が上がる。


 美しい黒髪が燃え、白い皮膚が炭化し、瞬く間に炎に包まれて焼け落ちていく。


「ターニャ! ターニャ!」


「スナッフポルノが好きな変態どもの気持ちがちょっとは分かる気がするよ。美しいものが壊れる瞬間ってのは何とも言えないな」


 叫ぶディミトリにレクシーが淡々と語る。


「さて、あんたはそこまで楽には死なせられないぞ。あんたが何を喋っているかをあたしたちは把握できていないからな。それについてしっかりと喋ってもらわないといけない。さあ、お喋りの時間だ」


 それからディミトリが尋問された。


 ホワイトフレークをぎりぎりまで投与され、生きたまま体を焼かれて行き、ディミトリは何も喋っていないということを喋った。


 それからこと切れたディミトリの死体はターニャの死体と一緒にが片付けた。


「とりあえず首の皮は繋がったが、そろそろヤバいな」


「ああ。ディミトリまで捜査の手が伸びてるってのは明らかにやばい。だが、やばかろうがビジネスは止められないぜ」


「それもそうだ。止めればあたしたちが危ないビジネスが山盛りだからな」


 マックスたちは引き続きルサルカの反乱分子を始末しつつ、ルサルカのビジネス他者への移行を進めた。ディミトリが去ったあとのルサルカはあっけなく消滅し、そのビジネスは新しい人間が引き継ぐ。


 全ては順調であるかのように見え、全てはかなり危ない橋を割っているようにも見えた。事実、州警察も連邦捜査局も今も追及を止めていない。


 そんな中で予想外の裏切りが起きようしている。


「西海岸は力を持ちすぎたのかもしれないな」


 そういうのは東海岸のフリーダム・シティのオフィスにいる人物。


「いつか我々の手を噛むかもしれないほどに」


 ──それはハンニバルのボスであるハンターであった。


……………………

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