ルサルカの反乱

……………………


 ──ルサルカの反乱



 ディミトリは慎重に反乱の準備を始めた。


 武器弾薬を準備し、信頼できる“社会主義連合国”時代の同志たちと特殊任務部隊スペツナズを動員した。


「いいか、諸君。このままハンニバルに従っていては、俺たちは壊滅するだけだ」


 ディミトリが集めた兵士たちに告げる。


「ハンニバルに従うのはここまでだ。これよりハンニバルの連中を排除し、私たちは再び独立を手にする。連中を蜂の巣にしてやれ!」


「おう!」


 そして、パシフィックポイントに分散して展開したルサルカが一斉に行動に出ようとしたとき──。


本部HQ本部HQ! 襲撃を受けた! こいつらハンニバル──』


 突如として無線に悲鳴が響き始めた。


「何があった!?」


「ハンニバルに先手を打たれた! こちらが攻撃を受けている!」


「クソ! なんてことだ!」


 そう、マックスとレクシーはルサルカの反乱について事前に情報を把握していた。そして、まさにルサルカが反乱を起こそうとしたタイミングで先手を打ったのだ。


「部隊を撤退させろ! 攻撃は中止だ! 守備につかせろ!」


「了解!」


 ルサルカも訓練されており、すぐさま攻撃姿勢から退却し、防衛に入った。


「やっぱりルサルカの連中は戦争をするつもりだったみたいだな」


 ルサルカの拠点のひとつであったナイトクラブ。そこを制圧したマックスが、地下に蓄えられていた武器弾薬を眺めてそう言う。


「デニソフ警部補にはボーナスをやらないとな。やつのタレこみのおかげで無駄な犠牲を出さずに済んだ」


 レクシーはそう言ってけらけらと笑った。


 そう、ルサルカの反乱についてタレこんだのは他でもないデニソフ警部補だ。彼は未だにルサルカにも通じていることから、今回の情報を手にし、マックスたちに警告を発したのであった。


「後はディミトリを片付けて、ルサルカを解体。予定通り、ルサルカの資産を別の組織に移してルサルカを終わらせる」


 レクシーたちはもはやルサルカは解体すると決定していた。


 前に話していたようにルサルカの人員が行っている仕事を別の人間に振り替えていき、最終的にルサルカから人身売買ビジネスを取り上げる。


 ルサルカの反発が予想されたが、戦争となった今では関係ない。それから“連合国”への伝手も失うがそれも問題はない。もはや必要な人間を手に入れるのにルサルカのコネは必要ないのだ。


 “連合国”からの不法移民は小規模なものとなった。今の主力は極東大陸の移民であり、それを現地で集めているのは天狼だからである。


「じゃあ、早速だ。ディミトリどもを始末しよう」


 レクシーがそう言い、マックスたちが動きだす。


 ハンニバルは次々にルサルカの施設を攻撃。そこで攻撃準備に入っていたルサルカの武装構成員たちを殺害する。


 ナイトクラブに向けて無反動砲を叩き込み爆破したり、機関銃を車両から乱射したり、手榴弾を放り込んだりと無差別な攻撃が繰り返された。


 ルサルカは瞬く間に守勢に追い込まれてしまった。


 ルサルカが反撃しようと思っても、ハンニバルは既に拠点を移転させており、攻撃すべき目標が見当たらない。その上、迂闊に動けば攻撃を受けて大打撃を受ける可能性もあったのである。


「ディミトリを探し出して殺せ」


 レクシーがそう命じ、ハンニバルの武装構成員たるフュージリアーズがディミトリを探し回る。ナイトクラブに、バーに、ストリップ劇場に、あらゆる場所にフュージリアーズが押し入ってディミトリを探した。


 それに対してディミトリが無策であったわけではない。


 ディミトリはフュージリアーズを待ち伏せて撃破しようとした。


 即席爆破装置IEDや車両爆弾を仕掛けて待ち伏せ、フュージリアーズを纏めて吹き飛ばそうとしたが、この手のゲリラ戦について知識のあるフュージリアーズたちが罠にはまることもなく回避してしまう。


 そして、確実にルサルカの物件を制圧した。


「クソ。なんということだ! どうしてこちらの動きが漏れた?」


 次々に友軍壊滅の知らせが入るのにディミトリが唸る。


「分かりません、ボス・ディミトリ。情報屋どもも洗いましたが、どの情報屋も我々についてタレこんではいません」


「ということは内通者か……?」


「可能性としては」


「我々とハンニバルが長く癒着していた。向こう側に寝返る人間が出たとしても不思議ではないが……クソッタレめ……!」


 実際に裏切ったのはデニソフ警部補だが、この状況でハンニバルへの寝返りを試みている人間は少なくなかった。そういう人間からデニソフ警部補は情報を集めて、ハンニバルのマックスたちに売っているのだ。


 ルサルカはもはや風前の灯火。


「こうなればもう取るべき手段はひとつしかない」


 ディミトリはそう言って幹部たちをそれぞれの拠点に帰し、彼がやるべきことを始めた。すなわちそれは逃亡である。


 ルサルカはもう壊滅する以上、その組織のトップにいても責任を取らされるだけだ。それが司法による裁きならばまだ受け入れようがあるが、残念なことに司法より先にハンニバルの暴力が彼を裁くだろう。


「ターニャ。逃げよう。もうここにはいられない」


「分かった。私はあなたと一緒にいるから。けど、どこに逃げるの?」


「エルニア国だ」


 ディミトリはエルニア国への航空機のチケットを取り、国外に逃亡する準備を整えた。荷物を纏め、ターニャとともにパシフィックPポイントP国際空港Xへとタクシーで向かう。


 しかし、彼らはそうあっさりと逃がしてもらえなかった。


 ディミトリとターニャがタクシーを降りた時だ。


「ディミトリ・ソロコフだな?」


 急に名前を呼ばれてディミトリの心臓が止まりかけ、彼は声の方向を見る。


 そこには40台のリザードマンの男性と若いハイエルフの女性がいた。


「州警察のカーター・マルティネスだ。少し話を聞かせてもらいたい」


「私は忙しいんだ。また今度にしてくれ」


「おいおい。エルニア国に逃げようとしてるのにまた今度ってか? あんたがどこに逃げたか吹聴して回ってもいいんだぞ」


「クソ警官め」


 カーターがそうやって脅すように言うのにディミトリが睨み殺すようにカーターに視線を向ける。


「あんたが大人しく協力すれば司法取引してやる。証人保護だって受けさせる。それともこのままエルニア国に逃げて、そこで殺されるか?」


「分かった。話に付き合ってやる。ただし、証人保護は絶対条件だ」


「オーケー。あんたの情報にそれだけの価値があると俺たちは思っている」


 そして、ディミトリはカーターたちに同行して一度パシフィックポイントオフィスに向かい、ターニャは連邦捜査局の捜査官が警備するセーフハウスに移された。


 しかし、このことはある人物によってマックスたちに知らされることになる。


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る