銃撃戦

……………………


 ──銃撃戦



 カーターたちは脱出を決意し、生存者を連れていくべくカフェテリアの調理室奥に向けて進んだ。


「ドワイト!? 大丈夫ですか!?」


 そこにいたのはドワイトだった。彼は血のにじむ包帯を腕や腹部に巻いており、力なく横たわっている。


「あまり大丈夫ではないな……」


「安心してください。必ず運び出して病院に運びます」


「すまん。任せた」


 ドワイトはそう言って目を閉じた。


「担架か何かはないか?」


「あるにはあるがふたつだけだ。数が足りない」


「かといって往復しているような余裕はない。歩ける負傷者には自分で歩いてもらい、辛うじて歩ける人間は抱えて、そして動けないものだけを担架で運ぼう」


「オーケー」


 カーターの指示でテオたちが負傷者を運ぶ準備を進める。


「ドワイト。もう少しですから、辛抱してください」


 カーターは辛うじて動けるドワイトを肩で支えると脱出を開始。


 未だにパシフィックポイントオフィス内ではけたたましい銃声が響き続けており、悲鳴も絶えることなく聞こえている。


「後で思い知らせてやる。クソ野郎どもめ」


「そうだな。報いは受けさせよう」


 カーターが言い、テオが同意する。


 そして、カーターたちが密かに脱出を試みていたときだ。銃声がすぐ近くで響いた。


「近いぞ。気を付けろ」


「敵はこの暗闇の中で俺たちが見えているのか?」


「恐らくは暗視装置NVGを装備している」


 カーターが警告するのにテオがそう言って呻いた。


「どうする? このまま真っすぐ脱出を急ぐ?」


「そうしたいところだが、背後から襲われても困るな……」


「じゃあ、私が足止めを」


「無茶を言うな。そんなことは許可できない」


 マティルダが自分だけで気を食い止めると言うのにカーターはそう否定。


「隊列を組もう。後方は俺とマティルダが、前方はテオが、それぞれ守る。負傷者と非武装の人間は間に挟んで、俺たちが護送する」


「それで行こう」


 カーターたちは隊列を組み、再びオフィス内を進む。


 しかし、襲撃者たちはそう簡単に脱出を許さなかった。


「銃声! 狙われているぞ!」


「遮蔽物、遮蔽物!」


 ついにカーターたちは発見され、銃撃を受け始めた。自動小銃の射撃と思しき短い間隔の銃声が響き渡り、銃弾が掠める嫌な音が聞こえる。


 カーターたちは慌てて遮蔽物に飛び込み、フラッシュライトを付けた。


「あっちだ! 銃を持った人間がいる! マティルダ、応戦するぞ!」


 カーターがそう叫ぶが、マティルダから返事が聞こえない。


「マティルダ? 大丈夫か、マティルダ?」


 カーターが近くにいる彼女を見ると、彼女は顔を青ざめさせて震えていた。


「どうした、マティルダ? 敵だぞ!」


 しかし、マティルダは震えて返事を返せていない。


「畜生め」


 仕方なくカーターは自分だけが散弾銃を構えて迫るテロリストに立ち向かう。


「食らいやがれっ!」


 カーターは散弾銃を発砲。しかし、テロリストたちに効いた様子はなく、すぐさま応射され無数のライフル弾がカーターを狙ってくる。


「畜生。これじゃあ、勝ち目はないぞ!」


「大丈夫か、カーター!?」


「さっさと行ってくれ、ガーランド! ハチの巣にされるぞ!」


「クソ! 分かった!」


 カーターが時間を稼いでいる間にテオと生存者が脱出を急ぐ。


「マティルダ! おい、返事をしろ、マティルダ! 手を貸してくれ! 俺だけじゃあ流石に多勢に無勢だ!」


「分かってる……。分かっているけれど……」


「クソ! テロリストどもがこっちに向かっている!」


 無数の銃弾がカーターたちに襲い掛かる中で、さらに強力な攻撃が叩き込まれた。グレネードランチャーから放たれた口径40ミリのグレネード弾だ。


「うおっ!? 何が……!?」


 突然オフィス内に生じた爆発にカーターが悲鳴じみた声を上げる。


「畜生、流石にここまでか! 俺たちも撤退するぞ、マティルダ!」


 カーターはそう言ってマティルダの頬を叩いた。マティルダはそれではっとしたような表情を浮かべる。


「ご、ごめんなさい。私はまた……」


「今はいい。今は逃げることだけを考えろ。行くぞ!」


 カーターはマティルダを庇うように立つと、撤退を開始した。


 ポンプ式散弾銃を敵に向けてでたらめに乱射しながら、カーターたちはオフィスの裏口に当たる場所に向けて逃げだす。


「カーター! こっちだ!」


 出口にはテオがいて、カーターたちを出迎えた。カーターたちは一気に外に出て、鋼鉄製の扉をがちゃんと閉じた。


「応援と救急車は?」


「今、市警のSWATが向かっている。連邦捜査局の特殊作戦部隊も。救急もすぐにつくはずだ。何とか生き延びたな」


「そうか……」


 テオが言うのにカーターが安堵の息を吐く。


「マティルダ。大丈夫か?」


 そして、カーターはマティルダにそう声をかけた。


「ごめんなさい。役に立てなくて……」


「気にするな。俺だってびびってた。相手が悪かったと思おう」


 カーターはマティルダをそう慰め、救急の到着までドワイトの傍にいることにした。


 しかし──。


「ドワイト。ドワイト?」


 ドワイトは顔を青ざめさせたまま返事をしない。息が止まっている。


「クソ!」


 カーターはすぐさま心臓マッサージを始め、ドワイトの蘇生を試みた。胸を強く圧迫し、何度も何度も心臓マッサージ繰り返す。


 そこに救急車とパトカーがサイレンを響かせてやってきた。


「救急です! 重症の人は!?」


「こっちだ! 呼吸が止まっている!」


「すぐに行きます!」


 救急隊員はドワイトの下に駆け付け、アンビューバッグで人工呼吸をしながら、心臓マッサージをカーターから代わって行う。


「駄目だ。死んでる」


「畜生、畜生っ!」


 救急隊員はそう言い、カーターは八つ当たりするように地面を蹴った。


 それからSWATがオフィスに突入したが、テロリストたちは既に撤退していた。


 残されたのは破壊しつくされたオフィスに、大量の死傷者たち。


 連邦捜査局の捜査官はもちろん、ハンニバル関係で集まっていた他の捜査機関の人間も被害に遭った。


 N.U.バンクタワー爆破テロについて調べていたATFのヘンリー・ロビンソン特別捜査官などカーターの知っている人間も被害に遭い、死亡した。


「最悪の日だ」


 カーターは救急搬送されていく被害者たちを見ながらそう呟いた。


 連邦捜査局パシフィックポイントオフィス襲撃事件は大量に被害者を出し、様々な捜査活動に大きな悪影響を与えた。ハンニバル関係の臓器密売に関する捜査もまた大きく後退してしまったのだった。


 それでもカーターは諦めていない。


……………………

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