密入国斡旋ネットワーク
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──密入国斡旋ネットワーク
カーターたちは臓器密売を摘発するために捜査を進めていた。
「現状を整理しよう」
カーターが連邦捜査局パシフィックポイントオフィスで告げる。
「まず最初に起きた事件はルールクシア・マフィアのルサルカ、その下部組織ドラコンに対する攻撃だった」
ホワイトボードにはドラコンと書かれた枠があり、そこには今は亡きサム・ゴルコフの顔写真が貼られている。
「ドラコンへの攻撃から連鎖してルサルカで内紛が勃発。ジョセフは失脚し、ディミトリが新たに権力を握った。が、これは表向きの動きだ」
ルサルカの枠に貼られたジョセフの顔写真には×印で、ディミトリの顔写真がトップの地位にあることを示す位置に貼られていた。
「ドラコンを攻撃したのはハンニバル。そしてルサルカの内紛でディミトリを立てたのもハンニバル。さらに言えば現状においてルサルカはハンニバルの下部組織に成り下がっている」
ハンニバルの枠には顔写真はない。名前すらも記されていない。
「このルサルカを乗っ取った連中は次のビジネスにドラッグビジネスを選んだ。ルサルカの内紛が収まってから、麻薬取締局とICEはスノーエルフの密入国者によるドラッグ密輸の事件を大量に摘発している」
「そして、そのことに腹を立てのがパンサー・ギャングのオブシディアン」
「そう」
マティルダが言い、カーターが頷く。
「先にパシフィックポイントを含めた西海岸でドラッグを扱っていたのはオブシディアンだった。そこにハンニバルが進出してきたわけだ。そして、この手のビジネスの競争には流血を伴う」
「そして、オブシディアンとハンニバルの間での抗争が始まった」
「最初に仕掛けたのはオブシディアン。この攻撃でルサルカとラジカル・サークルが被害を出した。ハンニバルが被害を出したかどうかは分かっていない」
続いての抗争はドラッグビジネスを巡ったハンニバルとオブシディアンの争い。オブシディアンは
オブシディアンと書かれた枠にはニコラス・ディアスの顔写真。
「しかし、オブシディアンが暴れたせいで別の連中が目を覚ました」
「民兵」
そう、続いてのプレイヤーは民兵ローン・イーグル旅団だ。
「N.U.バンクタワー爆破テロ事件によって民兵がパシフィックポイントに進出してきた。市長があいまいな姿勢をとったせいで大勢が死んだ。関係ある人間も、無関係の人間もたくさんだ」
民兵がパシフィックポイントに進出した件の死傷者数は不明だ。ただ、パシフィックポイントの街は内戦状態になりかけた。
「この民兵もオブシディアンが勢力を失ったと同時にパシフィックポイントでの影響力を失った。そして、誰も責任をとることなく、民兵は壊滅して終わったわけだ」
民兵ローン・イーグル旅団はパシフィックポイントの事件で捜査の手が及びそうになったところで武装蜂起したが、結局壊滅することは避けれなかった。
「そして、俺たちが追うべきものを見失いかけた時、有益な情報が入った。ハーヴィー・ローランドが臓器密売とルサルカを結びつけるような情報を手にした件だ」
民兵の壊滅ののちに、捜査本部は一時捜査が完全に停止したが、それを動かした存在が現れる。パシフィックポイント市警のハーヴィーだ。
「彼はルサルカが保有するパレス・オブ・オーシャンという高級ホテルと非合法な臓器移植を受け、その手術の際の不手際で死亡したリリー・クレイグという女性を結び付けた。ここから捜査方針がドラッグから臓器密売に移る」
カーターはそう言って説明を続けた。
「臓器の供給源となっているのは極東大陸のスノーエルフとドワーフの混血。ルサルカが密入国させた人々を利用しているとみている。そして、これに先立って起きたのが、ビジョン郡での死体遺棄事件だ」
リリーの移植された臓器のDNAから判明した臓器の供給源。
「死体遺棄事件の捜査によってピジョン郡の産業廃棄物処理業者のエミルが浮かび上がり、そこからD3ロジスティクスが浮かび上がった」
「このD3ロジスティクスは前々から臓器密売に関与していて、今回の件が発覚したことで一度は店を畳んだ。けど、どうやらハンニバルと業務提携か、買収かの交渉を行ったのちに手を結んで再出発した」
D3ロジスティクスにはエミルや周辺住民が証言した男の似顔絵。
「さらにリリーに続いてアラン・ディールが死亡事件として報告され、そのことから俺たちはパレス・オブ・オーシャンに踏み込んだ」
「もっとも得られたものはあまりなかったけれど」
「ああ。だが、そのことをハンニバルもルサルカも把握していないはずだ」
パレス・オブ・オーシャンへの捜査で得られたものはあまりなかった。
監視カメラの映像は保管されておらず、7日前以前の映像はなかった。そのせいでリリーやアランが誰に用事があってパシフィックポイントを訪れたかのヒントすら手に入らなかった。
「俺たちがまずやるべきことは臓器の供給源を断つことだ。そのために密入国斡旋ネットワークを叩く」
カーターたちの方針は決まっていた。
まずは密入国斡旋ネットワークを叩き、臓器の、そしてドラッグ袋の供給源を断つ。それによってハンニバル、ルサルカ、そしてラジカル・サークルに打撃を与える。
「しかし、どうやって密入国に関与している連中を叩くんです?」
州警察から派遣されてきた捜査官がそう尋ねる。
「ICEが協力する。国土安全保障省様のお力を拝借だ」
ここで名前が出たのは
「ドローンでも何でも使い放題ってわけね」
「イエス。偵察衛星もだ。一度国土安全保障省の関係する案件になってしまえば、ややこしい問題はなくなる」
偵察衛星による本土の監視は法的にグレーゾーンの案件だが、国土安全保障省には“本土攻撃”の後のヒステリックな空気の中で作られた“愛国者法”がある。
テロの疑いあればこれまでは許されていなかった市民を監視を許可する法律のおかげで、国土安全保障省は監視を行えるのだ。
「とは言え、ドローンも、偵察衛星も、ある程度狙いを絞ってからでないと使えない。俺たちはその狙いを絞ることから始める」
国土安全保障省の加入によって得られる情報が増えた分、取捨選択するフィルターがなければ分析しきれなくなっている。無限に情報が得られても、残念ながら分析力には限りがあるのだ。
「優先的な監視対象となるのは、やはりルサルカが保有する物件だ。ホテルや倉庫といった目標をこれからひとつずつ調べていく」
「オーケー。パシフィックポイントにいる捜査官は総動員だ」
カーターが言い、連邦捜査局の捜査官が頷く。
「州警察からも人間を出してもらう。またこれに平行して、ルサルカの所在がはっきりしている幹部たちを摘発していく。俺たちがどこから情報を手に入れているのかを、相手に知られないためだ」
カーターたちは偵察衛星やドローンから情報を得るが、それが相手に分からないようにしなければ対策されてしまう。
「さあ、かかるぞ、諸君!」
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