産業廃棄物処理業者

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 ──産業廃棄物処理業者



 ピジョン郡警察、州警察、連邦捜査局のそれぞれの車両はエミル・ウォルバーグが経営する『ウォルバーグ・エコ・マネジメント』という会社の建物を包囲した。


「エミル・ウォルバーグ! 郡警察だ!」


 最初に建物に飛び込んだのは郡警察のSWATだ。彼らがスタングレネードをエントランスに放り込んで突入していく。


 しかし、すぐに建物の中から反撃を受けた。


「容疑者は銃を持って立て籠もっている」


 保安官がそう言って指揮車となっているパトカーのボンネットにウォルバーグ・エコ・マネジメントの社屋の見取り図を広げた。


「犯人を射殺するわけにはいかないんだろう?」


「ああ。絶対に生け捕りにしたい」


「分かった。努力するが、連邦捜査局からも応援を呼んでくれ」


 保安官はカーターにそう言い、連邦捜査局からも特殊作戦部隊が動員され、ヘリで彼らが現場に到着した。


 同時に立て籠もっているエミルとの交渉も始められ、何とか無血で事件を解決するべく努力が重ねられた。


「夜になったら突入する。立て籠もっちエルのはエミルひとりで人質もいない。特殊作戦部隊の指揮官は夜間の突入で片が付くと言っている」


「オーケー。そうしよう、マティルダ」


 そして、包囲から6時間後。


ついに連邦捜査局の特殊作戦部隊が社屋に突入を開始した。


「エミル・ウォルバーグを視認」


 まず爆発物解体にも使用される無人U地上G車両Vが静かに社屋に近づくと偵察を開始した。赤外線カメラと光ファイバースコープを使って、社屋のどこにエミルがいるかを確認する。


「エミルはエントランスに立て籠もっている」


「分かった」


 情報は共有され、今度は特殊作戦部隊のオペレーターたちの仕事だ。


「スタングレネード」


 次に音もなくエントランスに接近したオペレーターがスタングレネードのピンを抜いて室内に向けてそれを放り込んだ。


 スタングレネードの閃光と爆音がエミルの感覚器官を叩きのめし、激痛とめまいに襲われたエミルが思わずその場にうずくまる。


「ゴー、ゴー、ゴー!」


「容疑者を拘束!」


 それから特殊作戦部隊は突入し、エミルを拘束した。


 エミルはサウスエルフとスノーエルフの混血である40代後半ほどのの男性だ。


「無事にエミルを拘束できた。彼から話を聞きましょう。それから彼の車を確認しないと。私たちがやることはこれからよ」


「ああ。社屋内も調べないとな」


 マティルダが気合を入れ、カーターも頷く。


 まずエミルの所有しているピックアップトラックが、衛星画像のものと同一であることが確認された。間違いなくエミルはあの死体遺棄現場に車で行き、何かを捨てて立ち去っている。


 次に社屋内の捜査が開始された。


「焼却炉がある。ここで死体を焼いたという証拠がほしいな」


「鑑識に任せましょう」


 死体遺棄現場にあった死体は火葬されたように焼却されていた。


「イーストレイク特別捜査官! これを!」


「これは」


 社屋の地下室には赤い血の跡があった。血を流していたものを引きずって運んだかのような、そのような痕跡である。


「どうやらエミルは間違いなく犯罪に手を染めているようだ」


「彼が何と言って弁明するのか楽しみね」


「さあ。では、我らが友人エミル・ウォルバーグの話を聞こう」


 そう言ってカーターたちは郡警察オフィスに連行されたエミルの聴取に向かった。


「エミル・ウォルバーグ。まず最新ニュースに興味があるか? エミル・ウォルバーグ速報だ。どうだ?」


「わ、私は何もしていない」


「なら、どうして地下室から人間の血が出たんだ?」


 鑑識は地下室の床から人間の血痕を、そして焼却炉から骨を見つけた。


「衛星画像によれば死体遺棄現場にあんたの車が止まっていた。何かを遺棄するあんたの姿もな。しかし、今のところ容疑としてはあんたのそれは死体遺棄のそれだけだ」


 カーターがそう言うがエミルは何も言わない。


「よく聞いておきなさい。あなたは今は死体遺棄だけど、このままなら地下室の血痕を元に殺人の罪も追加よ。それも遺棄されていた死体の数だけね」


「な、なんだって! そんな……!」


「このままならばね。間違いない」


 今度はマティルダがエミルに揺さぶりをかける。


「誰かがあんたに死体を片付けるように命じたんじゃないか?」


 俺たちが興味があるのはそっちなんだよとカーターは内心で思う。あんたが数十件の殺人の容疑で終身刑を10回以上食らおうが俺たちは興味ない。


「しょ、証人保護プログラムは受けられるか? 話せば絶対に誰かを怒らせることになるんだ。そう、血も涙もない連中を怒らせる」


「手配してやる。だが、価値のない証言では保護はできない」


「価値はあると思う。恐らくは……」


 エミルは覚悟を決めるように深く息を吐いてそう言った。


「ある人間が私に接触してきた。私が産業廃棄物処理の過程で使用する焼却炉を持っていると知っている人間で、その焼却炉を使って死体を処理してほしい、と」


「続けて」


「その人間は私に高額の報酬を約束し、私はそれを引き受けた。それが今回あなたたちが調べている山林への死体遺棄だ。私は死体を焼却したものの、完全に死体が消えたわけではなく、それで……」


「怖くなって山林に捨てた」


「そうだ」


 マティルダが言い、エミルが頷く。


「オーケー。あんたの事情は分かった。より詳しい話を聞かせてほしい。まず、あんたは常習的に死体の隠蔽を引き受けていたわけではないんだな?」


「そうではない。決して。信じてくれ」


「信じるに足る人物だということを示してくれ。あんたに死体の処理を依頼した人間は何と名乗っていた?」


 カーターは徐々に手ごたえを感じながら踏み込んでいく。


「個人としてはジョン・スミス。組織としてはD3ロジスティクスと名乗っていた。これが偽名であることは分かっているが……」


「それでも相手について知ろうとしなかったの?」


「それは……下手に相手について探れば、どんな報復があるか分からなかったからだ。分かるだろう?」


「けど、罪を背負いたくなければ知っておくべきだったね」


 マティルダにそう言われてエミルが俯く。


「まだ取り返しはつく。ジョン・スミスについて似顔絵を作るから協力してくれ。今はあんたの情報が必要だし、あんたは俺たちに協力することで罪を軽くできる」


「ああ。分かっている。協力できることについては、確実に協力していく。だから、証人保護プログラムを頼みたい。お願いだ」


「価値ある情報を提供してくれれば、間違いなくそれは受けられる」


 それからも聴取は続き、エミルが偽情報を提供していないかが確認された。


 しかし、エミルの証言に不審な点はなく、エミルが言う通り彼は今回初めて依頼を受け、その相手がD3ロジスティクスのジョン・スミスらしい。


「恐らくエミルは嘘をついていない」


 取調室の外で紙コップに入ったコーヒーを片にカーターが言う。


「じゃあ、次はジョン・スミスね」


「そうなるな」


 次なる目標に向けてふたりが動く。


……………………

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