D3ロジスティクス

……………………


 ──D3ロジスティクス



 カーターたちはエミルに死体の処理を依頼したというD3ロジスティクスという会社について調べ始めた。


「エミルは処理した死体の臓器が抜き取られているのと、全員がスノーエルフとドワーフの混血であることを証言している。恐らくはこのD3ロジスティクスこそが、臓器密売の主犯だろう」


 カーターが取り調べの情報を整理して言う。


「今も残っていると思う?」


「どうだろうな。エミルが処理を請け負ったのは大昔というわけではないが……」


 この手のペーパーカンパニーはすぐ設立できて、すぐ畳めるのが利点だとカーター。


「とりあえずD3ロジスティクスという会社について調べよう。こいつらが所有していた不動産から何まで全て調べるんだ」


「了解」


 それからカーターたちは捜査を進め、D3ロジスティクスについて徐々に判明。


「D3ロジスティクスはいくつかの倉庫を運輸ために保有していることが分かった。当たるとしたらこれからでしょう」


「じゃあ、早速だがそこに踏み込もう。令状を取ってくる」


 マティルダはD3ロジスティクスが保有していた倉庫について突き止め、カーターは令状を取り、踏み込み準備を整えた。


 カーターたちはSWATなどを引き連れ、倉庫に到着。倉庫を包囲するように展開しながら、慎重に捜索に向けてカウントダウン。


「行くぞ」


「ええ」


 カーターが言い、マティルダが自動拳銃を手に頷く。


「連邦捜査局だ!」


 そして、捜査官たちが一斉に倉庫内に踏み込んだ。


「クリア!」


「誰もいません!」


 倉庫内を捜索して、誰もいないことが確認された。倉庫に突入した全員が安堵して構えていた拳銃を下ろす。


「オーケー。住民に聞き込みをしてここが利用されていたかを確かめ、並行してここが何に利用されていたかを突き止める。鑑識も入れて、現場を捜索してくれ」


「了解です」


 それから倉庫付近の住民に車の出入りなどを聞き、倉庫内には鑑識も入って情報を少しでも集めるべく捜査が進められた。


「近隣住民はある時点まで車の出入りがあったと。その時点ってのはどこだと思う?」


「勿体ぶらずに教えてくれ、マティルダ」


「例の死体の大量遺棄が明らかになるまで。それが報じられてからぱたりとここに来る車がなくなったらしい」


「ものの見事に関係あり、か」


 カーターたちには死体の出所は間違いなくここだろうという確信があった。


「こっちに地下室がある!」


 倉庫内を調べていた捜査官から声が上がり、カーターたちは地下室を発見。そこに踏み込んだが、そこにもやはり人はいない。


「鑑識が地下室で血痕を見つけた。人間の血だ」


「つまり、ここが手術室だったの?」


「そうかもしれない」


 鑑識は地下室で大量の人間の血の跡を発見。


 しかし、地下室はがらんどうで、手術道具などの品は見つからない。ここで何が行われていたかは、血の跡から察するしかなかった。


「倉庫からは思ったより収穫なかったな」


「ええ。残念なことに。ただ、周辺住民への聞き込みで、あのエミルに接触した男が確認できた。ここにもあの男がいたということは、この倉庫から処理すべき死体が出たのはほぼ確実ね」


「また衛星画像を当たれないだろうか?」


「流石に無理だと思う。国内を監視している偵察衛星はいろいろとグレーゾーンに位置しているから」


「そうか」


 プライバシーの問題や連邦政府と州政府の関係の問題もあって、国土安全保障省が行っている偵察衛星による国内監視は完全に合法ともいえなかった。


「なら、資金の流れを追おう。D3ロジスティクスが企業として扱った金の流れだ」


「それからもうひとつ提案がある。この事件の発端になった敗血症で亡くなった女性のことは覚えている?」


「ああ。もちろんだ」


「他にも術後に死亡しているレシピエントがいるかも。ここ最近に同様の事件が起きていなかったか、死体安置所モルグなどを当たってみようと思う」


「確かにそっちの方が早いかもしれないな」


 D3ロジスティクスはペーパーカンパニーだ。資金の流れも偽装されている可能性が高い。つまり、それを調査しても何も得られない可能性がある。


 それならばあえてD3ロジスティクスにこだわらず、死体を追った方がいい。


「D3ロジスティクスの捜査は他の人間に任せよう。俺たちは死体を追う。もちろん、こっちの方が進展があるようなら方針転換だ」


「これまでは追うべき情報も分からなかったけど、今は追うべきものは明白。これが捜査の進展というものね」


「まさに、な」


 D3ロジスティクスについては引き続き連邦捜査局を中心に捜査が進んだが、やはりカーターが見たようにペーパーカンパニーであるD3ロジスティクスから得られた情報はあまりなかった。


 ただ、間違いなく何者かがスノーエルフとドワーフの混血から臓器を抜き、それを密売しているということは分かった。


「D3ロジスティクスは死体遺棄発覚の後から姿をくらまし、全く動いていないが、敗血症で亡くなったリリーの事件は死体遺棄発覚の後だ」


「別の組織が立ち上がった可能性、ね」


「そう。それがパシフィックポイントに存在するかもしれない」


 D3ロジスティクスは自分たちが出した死体が見つかった時点で、活動を停止して、そのまま姿を消した。


 だが、彼らは完全に臓器密売というビジネスをやめたわけではなく、別の組織を発足させて、その組織が今もビジネスを続けている。そのことはリリーの死んだ事件で判明している。


「ルサルカは極東大陸からの密入国を斡旋。D3ロジスティクスはスノーエルフとドワーフの混血から臓器を抜いている。そして、ルサルカの保有するホテルに宿泊していた人間が臓器を買った可能性がある」


「点と点が繋がっていっている」


 最初に発覚したリリーの事件から徐々にルサルカとハンニバル、そしてD3ロジスティクスという組織のかかわった血なまぐさい事件が判明しつつある。


「西海岸には今やドラッグが溢れ、さらには不法移民から臓器を抜く狂った医者まで存在している。こうまで治安が悪化したのは、西海岸の歴史の中でもまれなことだ」


 カーターは忌々し気にそう語る。


「なら、私たちが再び平和な西海岸を取り戻さないと」


「ああ。そうだな。俺たちがどうにかしなければ」


 マティルダたちはこの事件を、ハンニバル、ルサルカ、D3ロジスティクスによって引き起こされた事件を終わらせようと意気込んだ。


 そこでマティルダのスマートフォンがバイブした。


死体安置所モルグから連絡があった。やはり臓器移植らしき跡があって、敗血症で亡くなった人がいるそうよ。カレッジスクエア地区の死体安置所モルグで」


「よし。調べに行くとしよう」


 そして、カーターたちは連邦捜査局のパシフィックポイントオフィスを出た。


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