繋がる断片
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──繋がる断片
ハーヴィーはパレス・オブ・オーシャンを訪れた。ウェスタンガルフ大学附属病院で敗血症によって死んだリリーが多くの時間を過ごした場所だ。
「失礼」
「何でしょうか?」
「リリー・クレイグという客が泊っていなかったかな?」
ハーヴィーは警察バッヂを見せながらそう受付にいたホテルスタッフに尋ねる。
「ええ。3日前にチェックアウトされています」
「部屋は?」
「901号室です」
ふむ。普通の部屋でも高級ホテルならべらぼうに高いんだろうなとハーヴィーは思いながら、情報をメモしていく。
「彼女を訪ねてきた人間はいるかい?」
「いえ。観光で来られたそうですので」
「観光で?」
「ええ」
夫には仕事だと言っていたのにホテルには観光だと言っている。どうにも妙な感じがあるなとハーヴィーは思った。
これで臓器移植や死人の話がなければ典型的な浮気話と思うのだが。
「部屋を調べさせてほしい」
「あいにくですが、既に次のお客様がご宿泊中ですので……」
「ふうむ。分かった。出直すよ」
ハーヴィーは素直にそう言ってパレス・オブ・オーシャンを出た。
「さて、と。どうしたものかね……」
ハーヴィーも別にパレス・オブ・オーシャンで移植手術が行われた、などということは思っていない。だが、リリーはパレス・オブ・オーシャンに滞在中に、何らかの接触を受けて、パシフィックポイントで手術を受けたとは思っている。
「せめて監視カメラぐらいは調べてくるべきだったかな」
そうぼやきながらハーヴィーは一度警察署に戻った。
「おい、ハーヴィー」
警察署に戻るとある人物がハーヴィーを待っていた。
「デニソフ警部補。どうかしましたか?」
それは密かにハンニバルと通じている汚職警官デニソフ警部補だ。
「パレス・オブ・オーシャンについて調べているらしいな」
「ええ。それがどうか?」
「あれには俺たちの捜査も進んでいる。他所から手を出されると面倒なことになっちまうんだ。悪いが俺たちに任せて手を引いてくれ」
「あの高級ホテルと組織犯罪に関係が?」
「詳しくは話せないが、そういうことだ。すまんな」
「いえ。でしたら、手を引いておきます」
デニソフ警部補が薄笑いを浮かべて言うのに、ハーヴィーは肩をすくめて頷いた。
しかし、ハーヴィーはデニソフ警部補について悪い噂を聞いたことがあった。彼がその地位を悪用して、汚職に手を染めているらしいという噂だ。
その手の噂には根も葉もないものもあるが、ハーヴィーは自分がパレス・オブ・オーシャンを調べて、すぐにデニソフ警部補が接触してきたことに疑問を感じた。
そこで少しばかり調べてみることにした。
デニソフ警部補が気づかれないようにするには、市警のデータベースにアクセスせずに調べなければならない。そこでハーヴィーは州警察のデータベースにアクセスしてみることにした。
州警察のデータベースの中からパレス・オブ・オーシャンを検索。
すると、だ。
「ルサルカ? ああ。ルールクシア・マフィアの……」
パレス・オブ・オーシャンをルサルカ関係の資産として州警察は監視対象にしていた。とはいえ、特に事件性があるというわけではなさそうだ。
データベースにはこのパレス・オブ・オーシャンを監視対象に指定した担当者の連絡先もあり、ハーヴィーは電話をかけてみることにした。
「もしもし、州警察組織犯罪対策課のタイラー警視に繋いでいただけますか?」
『畏まりました』
ハーヴィーが暫く待つと問題のタイラー警視に繋がった。そう、カーターの上司であるドワイト・タイラーだ。
「こんにちは。市警のハーヴィー・ローランドと言います。この度はパレス・オブ・オーシャンの件でお話がありまして」
『パレス・オブ・オーシャン?』
「そう。そちらでルサルカの傘下にあると判断されたホテルですよ」
『ああ。まだ資金の流れは終えていないが、それについてはほぼ間違いない』
ドワイトはハーヴィーにそう請け負った。
「それなのですが、自分はルサルカとは無関係な話でここに行きついたのです」
『というと?』
「昨日早朝にウェスタンガルフ大学附属病院でリリー・クレイグという女性が亡くなりました。医師は死因は臓器移植の際の合併症だとみています」
ハーヴィーは一連の疑惑について説明を始めた。
「彼女は腎臓病でしたが、まだ臓器移植の順番は巡ってきていなかった。それなのに彼女は移植を受けた形跡があることから、医師は非合法な臓器密売を疑って、自分に連絡してきたのです」
『なるほど。しかし、そこからどうパレス・オブ・オーシャンに?』
「彼女のスマートフォンを調べた結果、彼女はパシフィックポイントに来てから、ほとんどの時間をそこで過ごしていたのです。そして、自分は彼女は移植を受けるためにパシフィックポイントに来たとみています」
『……そうか。この件について知らせたい相手がいる。その情報をその人間に渡しても構わないだろうか? それから君の連絡先も』
「構いません。それから連絡は市警本部ではなく、自分に直接お願いできますか?」
『ああ。そうしよう』
そして、連絡先を交換してハーヴィーは通話を切った。
それからカーター・マルティネスを名乗る州警察の警官から連絡があったのはすぐのことで、すぐさまハーヴィーは電話に出た。
『ハーヴィー・ローランドさん? 俺はカーター・マルティネスという。ドワイトから説明があったと思うが』
「ええ。ルサルカについて調べてるそうですね」
『そ。で、こっちの捜査は行き詰っている。そっちが救いの女神になるかもしれない。近いうちに対面で会って話せないか?』
「いいですよ。予定を作りますから」
ルサルカを追い、そこからハンニバルを追うカーター。彼の捜査が行き詰まったときに訪れたのが、ハーヴィーからの連絡だった。藁をもつかむカーターはハーヴィーに会い、彼から敬意を説明してもらう。
「初めまして、マルティネス」
「ああ。よく来てくれた。こっちは連邦捜査局のイーストレイク特別捜査官」
彼らは州警察のオフィスで握手し、本題に入った。
「つまり、ルサルカのホテルが何かしらの形で臓器密売にかかわっている、と」
「ええ。自分はそう考えています」
「その臓器の出所について心当たりは?」
カーターがハーヴィーにそう尋ねる。
「今のところは心当たりはありません。遺族の許可が下りたので、被害者の遺体から移植された臓器を取り出して調べるところです。DNA解析も行うので少しばかりヒントは得られるかもしれませんね」
「そうであることを望みたい。こっちは持っているカードを全て切っちまった。こうなったら相手がヘマをしてくれることを祈るのみだ」
カーターはそう言ってため息を吐いた。
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