調査報告

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 ──調査報告



 ビルが調査結果を報告したいとカーターに連絡してきたのは、それから7日後。


「ラヴレンチーを売春の元締めとしてしょっ引くなら十分な証拠がある」


 ビルは早朝のダイナーでカーターにそう告げる。


「だが、あんたらは別にラヴレンチーを売春で引っ張りたいわけじゃないだろ?」


「ああ。俺たちはルサルカを追っている。ルサルカが本当に隠したがっているビジネスを暴くためにだ」


「オーケー。その点について興味深い情報がある」


 カーターが言うのにビルがそう言ってスマートフォンを取り出した。


「これを聞いてくれ」


 そして、スマートフォンの録音アプリで記録した音声を再生する。


『よう、ビル。ここには慣れてきたか?』


『ああ、ラヴレンチー。おかげで楽しませてもらってるぜ』


『そいつはよかった。だが、あんたもそろそろ、もっと興奮することがしたいんじゃないか? 女をただ抱いても面白くないだろ?』


『何か面白いオプションでもあるのかい?』


『ああ。スノーパールとホワイトフレークがある』


『おおっと。マジかよ』


『質は保証する。どうする?』


『頼むとするか』


 録音を聞いていたカーターがじろりとビルを見る。


「スノーパールを買った。5ミリグラムで700ドゥカート」


「それはまだ持っているか?」


「ああ。調べたいんだろう?」


 そう言って袋に入ったスノーパールをビルがカーターに渡した。


「これでドラッグの不法取引でも引っ張れるぞ」


「よくやってくれた、ビル。報酬の情報代だ」


「ありがとよ、カーター。俺は暫くパシフィックポイントからずらかるから、他に用があれば今言ってくれ」


「ずらかるのか? 何故?」


「ドラッグが絡むと必ず死人が出る。俺はまだ長生きしたい。それだけさ」


 ビルはそう言ってダイナーから去った。


「捜査令状は取れると思うか?」


「さっきの録音のデータで十分」


「じゃあ、ラヴレンチーを引っ張ってこよう」


 カーターとマティルダはクイーン&デュークの捜査令状を得ると、それを持ち、連邦捜査局の増援を得て、クイーン&デュークに踏み込んだ。


「何のつもりだ? 連邦捜査局だと?」


 混乱したルサルカの構成員たちがカーターたちの前に立ちふさがる。


「捜査令状だ。ラヴレンチー・コズロフを連れてこい。説明してやる」


「クソ。マジかよ」


 そして、ルサルカの構成員がラヴレンチーを連れてきた。


「ラヴレンチー。任意同行を求める」


「拒否したら?」


「次は逮捕令状を持って来るだけだ」


「クソッタレ。分かった。同行する」


「それでいい」


 ラヴレンチーがカーターたちに任意同行し、その間に連邦捜査局はクイーン&デュークの中を調べ始めた。彼らには麻薬取締局からも応援が来ている。


 カーターたちに同行したラヴレンチーは連邦捜査局のパシフィックポイントオフィスに通され、その取調室に連れてこられた。


「で、何が聞きたいんだ?」


「ルサルカのビジネスついてだ」


「冗談抜かすなよ。ちょっとパクられた程度で言う内容じゃない」


 カーターが言い、ラヴレンチーは鼻で笑った。


「オーケー。じゃあ、このまま無罪放免としよう。お前が喋らなかったとしても、ドラッグが見つかっているのに無罪放免になったら、お前のボスは本当にお前が喋らなかったと信じるかな?」


「てめえ……! それでも警察かよ!」


「悪党には容赦しない。それだけだ」


 ラヴレンチーは危うい状況だ。喋っても、喋らなくても、カーターはルサルカのボスたちにどのようにでも思わせることができる。


「知ってることを話せばちゃんと逮捕してやる。必要なら証人保護も付けてやるよ」


「分かった、クソ。何から話せばいい?」


「密入国斡旋と人身売買の件についてからだ」


「それについては俺はあまり関わっていない。話せることは少ないぞ」


 ラヴレンチーはそう前置きした。


「“連合国”から不法移民を入国させている。その点は間違いないな」


「間違いない。それが俺たちのビジネスだった」


「最初の目的は売春やらだったが、最近そこに変化は?」


 カーターはドラッグの件を伏せたまま尋ねる。


「ドラッグ。それから……もうひとつ。スノーエルフとドワーフの混血どもだ」


「ドラッグの方から話してくれ」


「ああ。ドラッグはこれまでオブシディアンのパンサー・ギャングたちが仕切っていた。それがひっくり返って俺たちのビジネスになった。不法移民にドラッグを運ばせてるとかいうことは聞いたことがある」


「スノーエルフとドワーフの混血というのは?」


「極東のドワーフ・マフィアどもから頼まれているビジネスらしい。俺も詳しくは知らないが、そいつらを密入国させて、そしてドラッグ以外のビジネスをやらせているとか。ドラッグには絶対近寄らせるなって言われたぜ」


 ここに来て妙なことをラヴレンチーが告げる。


「もっと詳しいことは分からないのか?」


「俺のビジネスは売春関係だ。ドラッグでも密入国斡旋でもない」


「クソ」


 それからラヴレンチーは無事に逮捕され、収容された。


「簡単に捕まっただけあって、大したことは知っていないな」


 カーターが取り調べを終えてそう愚痴る。


「けど、新しい事実も明らかになった。スノーエルフとドワーフの混血の件。ドワーフ・マフィアの名前も出ている。彼らは黄金の三角州ゴールデン・デルタの件でも名前が出ていたでしょう」


「そうだな。しかし、どういう関係なのかが分からん」


 ドワーフ・マフィアがどうしてルサルカに密入国斡旋を依頼しているのか。それを行ってルサルカとハンニバルにどういう利益があるのか。


移民I関税C執行局Eに協力を依頼した方がいいかもしれない」


「そうなると捜査の主導権は国土安全保障省に移る可能性も」


「だが、ウェスタンガルフ州だけ見ていては、全体像が掴めない。連邦捜査局でICEにコネのある人間とかはいないか?」


「探してみる。これからはICEからの情報待ち?」


「そうなるな。今は手掛かりが途絶えた」


 ルサルカのビジネスを追おうにも、もうラヴレンチーのように油断した人間はいないだろう。むしろ、ラヴレンチーの件で余計に警戒される可能性が高い。


「諦めずに情報を追って行きましょう。新しく明らかになったのはドワーフ・マフィアの件。こちらでもドワーフ・マフィアについて調査してみるってのは?」


「調べるならパシフィックポイントのドワーフ街だな。ただ、連中の結束力は高い。そう簡単に口を割りはしないだろうな」


「それでも何もしないよりいい」


「オーケー。その通りだ。やろう」


 カーターとマティルダは諦めずに情報を追い続ける。


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