ラヴレンチー・コズロフ

……………………


 ──ラヴレンチー・コズロフ



 州警察にあったルサルカについての資料から、カーターたちは調べるべきルサルカの幹部を洗い出そうとした。


「ラヴレンチー・コズロフ。ルサルカの幹部のひとりで、元秘密警察の将校だ」


「ディミトリが権力を握った後にも権力の座にいる人間ね」


 ラヴレンチー・コズロフ。元国家保安委員会少佐で、“社会主義連合国”崩壊後は“国民連合”に渡り、そこでルサルカにに加わった。


「ああ。こいつは州警察に逮捕歴がある。DNAも指紋も既に情報がある分、やりやすい相手だな」


「オーケー。では、ラヴレンチーに会いに行く?」


「いや。今、会ってもまだゆすれる情報はない。やつから有益な情報を引き出すには、こちらがやつについてある程度把握していることが必要だ」


 カードは多ければ多いほどいいとカーター。


「けど、今の状況では捜査令状も怪しいけど……」


「分かっている。地道にやるしかないな。聞き込みと張り込み。刑事の基本だ」


「昔ながらの手法も時々はいいかも」


 カーターは言うのにマティルダが頷き、彼らはラヴレンチーの情報を集めるためにパシフィックポイントにおいてラヴレンチーが目撃されている場所に向かう。


「ラヴレンチーはルサルカの傘下でナイトクラブ『クイーン&デューク』を営業している。売春ビジネスに密着した場所だ。クイーン&デュークは会員制で、スノーエルフが多数雇用されている」


「会員制ということは入れないか」


「方法はある。こういう時に役に立つのはコネだ」


 カーターはある人物とナイトクラブの傍で会う約束をしていた。


「ビル。ちゃんと来てくれたか」


「ああ。カーター。あんたとの付き合いも長いからな」


 ナイトクラブ近くのガソリンスタンドで落ち合ったのはスノーエルフとハイエルフの混血の男だ。やや腹の出ているが、お洒落なサングラスやアロハなどを着こなしており、カーターににやりと笑いかけた。


「そっちの美人さんは?」


「マティルダだ。連邦捜査局の捜査官」


「よろしく。俺はビル・スミス。情報屋だ」


 そして、男はビル・スミスと名乗り、マティルダに笑いかけた。


「情報屋?」


「そ。この街には俺みたいなのが大勢いる。情報は冷えたビールみたいに人生に必要なものだからな」


 マティルダが怪訝そうに尋ね、ビルはそう返した。


「こいつは信頼できる情報屋だ。で、こいつにあのナイトクラブを探ってもらう」


「クイーン&デュークだろ。税金であのナイトクラブを楽しめるなんて最高だな」


「ちゃんと仕事するならいくら飲んでも構わんぞ」


 ビルが言うのにカーターがそう返した。


「で、調べるべきことはなんだ?」


「クイーン&デュークの経営者であるラヴレンチー・コズロフについて探ってほしい。やつをしょっ引けるようなネタがあればいいが、そうでなくとも嫌がらせができる程度の情報がほしい」


「ふん。ラヴレンチーなら知っている。しけたポン引きのはずだ。だが、それ以上の情報が必要なんだろう。探ってみよう」


「情報料は弾む。頼むぞ」


 こうしてカーターたちはビルをクイーン&デュークに送り込むことになった。


 夜が訪れて、ビルはコンバーチブルな高級スポーツカーでクイーン&デュークに乗り付けると、エントランスに向かう。


「よう、ビル。今日はこっちで遊んでいくのか?」


「そのつもりだ」


 ビルはパシフィックポイントでは遊び人として知られており、あちこちのパーティに顔を出し、人脈を得ている。そのため彼がクイーン&デュークに現れても不信に思われることはなかった。


 クイーン&デュークの中ではまだそこまで速くないテンポの曲が流れており、客たちがゆっくりと踊っていた。この手のクラブの曲は夜の盛り上がりに会わせてテンポを上げることになっている。


「ビル! 久しぶりだな!」


「ミカエル。そっちに混ざっていいか?」


「歓迎するよ!」


 陽気そうなサウスエルフの男が手を振るのにビルが応じる。


「しかし、ビルがここに来るのは珍しいな。初めてってことはないだろうが」


「ああ。だが、俺が来た時よりも賑やかになっている」


「そりゃそうだ。ここはパシフィックポイントでも五本の指に入る店だからな」


 ミカエルと呼ばれた男性はビルの言葉ににやりと笑う。


「ここのオーナーとは親しいか?」


「ラヴレンチーか? ああ。そこそこには」


「俺はそいつが女の子を紹介してるって聞いたんだがね」


「天下のビルたる男が女を買うのか? ははっ!」


 ラヴレンチーに接近する一番手っ取り早い手段は、彼らのビジネスに飛び込むことだとビルは認識していた。


 そう、ルサルカのビジネスである売春ビジネスに。


「たまにはそういうのも悪くないだろ?」


「まあ、そっちはそっちで需要があるな。じゃあ、ラヴレンチーを紹介しよう」


「よろしく頼む」


 それから暫くしてラヴレンチーがビルの前に姿を見せた。


「あんたが女を買いたいって?」


 ラヴレンチーは中肉中背のスノーエルフで、雑多な入れ墨の中には国家保安委員会に所属していた将校であることを示すワシの入れ墨もあった。


「そうだ。あんたらはそういうのを扱ってるんだろう?」


「ああ。そういうビジネスもやっている。金は持ってるんだろうな」


「当然だろ?」


 ラヴレンチーが訝しむのにビルが答える。


「オーケー。ルールを説明しておいてやる」


 ラヴレンチーがそう言って説明を始めた。


「まず、女はこのナイトクラブにいるのを選べ。選べる女は右手に揃いのブレスレットをしているから分かる。間違って客として来ている女を選ぶなよ」


「オーケー。選んだ後は?」


「こちらでホテルを紹介する。支払いはその時だ」


「ホテルは自由に選べないと?」


「選択肢はある。こっちもトラブルは避けたいんでね」


「分かった」


 ルサルカは売春ビジネスが警察に摘発されることを避けようとしている。そう、警察が介入しないようにシステムを組んでいるのだ。


 売春ではないとするために支払いはナイトクラブのサービス料として支払われ、ホテルを紹介するという名目で売春婦はホテルについてくる。


 それは別にルサルカだけではなく、大手の売春ビジネスをやっているところならば、大抵は似たようなシステムがあるものだ。


 なので、ビルも慣れたものである。


「よう。おじさんと遊ばないか?」


 ビルは適当な女性に声をかけて誘い、その女性を連れてクラブのカウンターへ。そこで支払いとホテルへの案内を受ける。


 そして、ビルは女性を連れてホテルへと向かった。


 紹介されたホテルもルサルカの傘下にあるもので、ビルは女性とともに怪しまれることもなく、ホテルにチェックインした。


「いや。脱がなくていい」


 女性が服を脱ごうとするのにビルがそう言う。


「少しばかり話を聞かせてくれないか?」


……………………

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