医者たち
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──医者たち
コリンにジャックたちの調査を依頼してから数日後、調査が完了したという電話をマックスたちは受けた。
「ジャック・タカナシは以前はウェスタンガルフ大学附属病院に勤務していました。そこで外科医として移植外科に勤務していました」
「まともな医者に聞こえるが」
「ええ。ある時点まではまともな医者でしたね。しかし、彼はある失敗をやらかしました。交通事故に遭ったドナーのその遺族の承認なく、ドナーから臓器を取り出し、移植手術をやったのですよ」
「おいおい。マジかよ」
「ええ。しかも、その事実をもみ消そうとした。ですが、それに失敗いsてウェスタンガルフ大学附属病院から追い出され、医者としてのキャリアも断たれたのです」
「昔から無法をやらかす医者だったわけだ」
コリンの説明にマックスたちが肩をすくめる。
「ですが、医者としては優秀だったようですよ。いくつもの優秀な外科医に与えられる賞を受賞している。それにこの手に医者にありがちな薬物犯罪歴もなし。あの不当な移植手術を除けば、真っ白な人間です」
「これが警察のおとり捜査である可能性は?」
「それはないでしょう。私が真っ白だと言ったのは彼が第二のライフワークである臓器密売に手を染めるまでの話です。彼は間違いなく、臓器密売に関わっている犯罪者であって、警察の協力者とは思えません」
「結構だ。資料は?」
「これを。残りの医療従事者についても記してあります」
「助かるよ、先生」
コリンからD3ロジスティクスに雇われていた医療従事者たちの調査結果を受け取ると、マックスとレクシーはコリンの事務所を出た。
「ジャックは比較的まともな医者みたいだ。他の連中は酷いぞ」
「ああ。ドラッグ依存症に、アル中に、医療過誤だらけのヤブ医者にと」
「大丈夫なのかね」
「ある程度まともなのを雇いなおす必要があるかもしれんな」
レクシーが心配するのにマックスがそう返した。
「しかし、まともな医者ってのはなかなか雇えるものじゃない。連中は犯罪に手を染めなくたって食っていけるんだからな」
「それが問題だ。結局のところ、この手の闇医者はどこかに問題を抱えている。ドラッグだったり、アルコールだったり、単純に腕が悪かったりと。そうじゃなきゃ、この国で医者になった人間が犯罪に手を染める意味はない」
“国民連合”において医者は社会的カーストの上位に位置する。
医者は社会的成功者であり、富裕層になることが決まっているような人種である。それが犯罪を犯すとなれば、それ相応の理由が必要になってくる。
「ハンニバルが飼ってる闇医者のリストを漁ってみるか」
「あまり期待はできないが」
「それでもヤク中に手術を任せるよりマシだろ」
ハンニバルにも医者はいたが、そっちもあまり期待できる人種ではない。
「しかし、分からんのはまともな医者に近かったジャックが、どうして遺族の同意っていう当たり前のものを取り付けずに移植手術をやったかだ」
「その理由が金ならば仲間にしておいても問題はないな」
「それ以外なら何をやらかすか分からん」
犯罪組織にしてもそこに所属している理由は重要であった。
単純に金のためであれば、比較的信頼がおける人間となる。金さえ与えておけば、その忠誠心は揺らがないからだ。
だが、他の政治的信条や独特の倫理観となれば、話は変わる。その手の人間が歓迎されるのは信条が一致するテロ組織であり、金のため、娯楽のために動く犯罪組織とは相いれない。
レクシーの部下であるフュージリアーズにしたところで、金のために彼女に従っているに過ぎない。ただ、そこに同じ軍隊に所属していたという強化要素があるだけだ。
「だが、あいつは自腹を切って慈善事業をやらかすような男には思えない。やはり金じゃないのか、理由は」
「コリンにもう少し調べさせておくか」
「それはそうとして、これからの手術を行う場所の確保だ」
「それなら当てはある」
マックスが言うのにレクシーがにやりと笑った。
「ルサルカが持っている港の倉庫。そこで不法移民から臓器を抜く。そして、そのまま同じくルサルカが握っているホテルに臓器を運び、そこで移植する」
「ホテルを手術室にするのか」
「ああ。手術で出る産業廃棄物の処理も、ホテルで出る産業廃棄物と一緒に外に出して処理する。ホテルにはデカい洗濯機があって、血だって綺麗に落とせるしな」
「悪くなさそうだ」
「ああ。絶対に悪くない。早速連絡しておこうぜ」
マックスが感想を述べるのにレクシーがスマートフォンからジャックたちに連絡。彼らは手術室となるホテルで会うことに。
「部屋はロイヤルスイート?」
「そ。ひとつのフロア貸し切りで、邪魔者は絶対に入らない」
「客は金持ちだし、ちょうどいい」
レクシーが言うのにマックスが頷く。
それから遅れてジャックはホテルに姿を見せた。
「ドクター。ここがあんたの手術室になる。どうだ?」
「ええ。特に問題はなさそうですが、やはり空調などにも手を入れる必要があります。臓器を抜けば用済みのドナーと違って、レシピエントには術後に回復してもらう必要がありますので」
「手術室で微生物やらのせいで病気になってもらったら困るわけか」
「いくつか手を入れるべき場所を示しますので、対応していただけますか?」
「あんたの言うとおりにするよ、ドクター」
それからルサルカ経由で業者が雇われて、このリゾートホテルであるパレス・オブ・オーシャンのロイヤルスイートに手術室が設置された。
術後の回復を行う部屋なども設置され、マックスたちは着実に臓器密売というビジネスの準備を進めていっていた。
パレス・オブ・オーシャンでレシピエントの受け入れの準備が進む中で、パシフィックポイント港のルサルカ所有の倉庫ではドナーの受け入れ準備が進んでいた。
「こっちにも手術室を作ることになるとは」
「けど、この手術室ってのは野戦病院と変わらんぜ」
豪勢な造りであったパレス・オブ・オーシャンの手術室と違って、こっちはビニールのテントでできたものが、倉庫内に設置されているのみであった。
こっちで重視されているのは、いかに早く臓器を抜き、そしてそれを新鮮なままにレシピエントに届けること。それから臓器を抜いて用済みなったドナーの死体を効率的に処理することだ。
死体の処理はルサルカが請け負っており、苛性ソーダや粉砕機を使って、死体の身元を完全に隠すことになっている。
「ジャックが言うには不法移民の健康検査もここで行うらしいから、パニックにならないように死体処理は見えないようにしておかないとな」
「不法移民には恐怖も何も感じず、静かに死んでもらわないといけない」
「麻酔は慈悲だぜ」
レクシーとマックスはそう言い合い、倉庫を出た。
港の倉庫からパレス・オブ・オーシャンまでの距離は10キロ。
臓器を新鮮なままに届けるには十分短い距離だ。
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