新しいビジネス
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──新しいビジネス
まずは話を聞かなければならない。マックスはそう考えていた。
「手順について教えてくれ、ドクター」
場所をホテルに移し、マックスがジャックに尋ねる。
「分かった。まず我々が扱っている商品は主に腎臓、肝臓、心臓、膵臓だ」
ジャックはそう言って4本の指を立てる。
「まずはドナーとレシピエントの検査から始める。それぞれの臓器が適合するかどうかを調べなければいけない」
「それは知ってるよ」
「それからドナーから臓器を取り出し、レシピエントの下に届け、移植する」
「その手順は?」
「ドナーは例の倉庫で臓器を取り出す。その後、専用の保存液に入れる。それから我々の持っている病院にてレシピエントに移植を実施することになっている」
「つまり、臓器を受け取る側はやましいことをしてませんって思ってるわけか」
「そうなる」
臓器を受け取る側であるレシピエントは非合法な臓器密売のことを知らない。
「1回でいくらぐらい儲かる?」
「腎臓なら純粋な利益は6000万ドゥカート程度だ。心臓となると患者によっては1億5000万ドゥカートを超えるだろう」
「ほう」
それはかなり儲かるということであった。少なくとも不法移民を農場などに売り払うよりも遥かに儲かる。
「臓器の仕入れは不法移民だけか?」
「ああ。いろいろと試してみたが、それが一番安定している」
「いろいろと、ね。これまで司法に嗅ぎつかれたりは?」
「していない。例の山林の死体ぐらいだろう。あれにしても我々の関与ははっきりしないはずだ」
「そうやって楽観視しているとろくなことにならない」
マックスはそうジャックに警告。
「遠回しに言うのはやめよう。あなた方は我々のビジネスに興味を持っており、参入したいと思っている。そうであるならば、我々としてはそちらと提携することに前向きな姿勢を示すつもりだ」
そして、ジャックの方からマックスたちと手を組むことを提案してきた。
ジャックはマックスたちが自分たちの臓器密売に関心を示していることを既に分かっていた。ジャックたちの死体の不始末の件もあるだろうが、それより多くの利益が上がることに興味があるように思われた。
「オーケー。その通りだ。そっちのビジネスに興味がある」
「それはよかった。私としてもここからこれまで通りにビジネスを進めるのには不安があったからね。いろいろとトラブルを抱えることになったので」
「トラブル?」
「死体の処理だよ。まさに君たちが問題に感じたことだ。我々はこれまで死体が適切に処理されているかと思っていたが、どうやらニュースで見る限り、ずさんな処理が行われていたようだ」
「ああ。そうみたいだな」
「もう同じ連中に頼むつもりはないが、だとすると請け負ってくれる人間がそうそういるわけではないという事実が立ちふさがる」
ジャックはそうマックスたちに説明した。
「で、俺たちにと」
「もし違ったならば謝罪するが、あなた方は死体を処理する技術を持っていると考えている。あなた方が密入国の斡旋業者であるならば、そっちのビジネスで出た死体を片付ける方法も持っているだろうと。どうだろうか?」
マックスが言い、ジャックはそう質問する。
「オーケー、ドクター。死体の処理はこっちの得意とするところだし、俺たちはあんたに優先的に不法移民を売却する。それで手を結ぼう。取り分は6:4でどうだ?」
「異論ない」
ジャックはあっさりと同意して見せた。
「しかし、この空き倉庫が手術室ってのはちょっといただけないな。セキュリティなどを考えてももっと安全な場所に移すべきだ」
「そちらが望むとおりに。我々としては十分な設備があればどこでもいい」
「必要な設備をリストしておいてくれ。準備する」
今度はレクシーがジャックの求めに応じる。
「だが、顧客との接触はどのようにしているんだ?」
「流石に新聞に広告を出すわけにはいかないので、口コミとアングラサイトでの案内が中心だ。今の臓器移植がどれほど行き詰っているか知っているかね?」
「いや」
「酷いものだよ。順番待ちはずうっと長い列を作っている。先天的な要因で臓器移植を必要としている人間も、不摂生な生活で体を崩した人間も、同じ列に並んでいるんだ。そして、どの患者もすぐに移植を必要としている」
ジャックが語り始めた。
「もし、金で臓器を買えるならいくらでも出すという人間は少なくない。この国はずっとそんな我がままを認めてきたのだからね。資本主義は金があれば、何だろうと手に入る仕組みではないか?」
「まあ、間違いではないな」
「であるならば、これはそこまでグロテスクなビジネスというわけでもない。金のある人間が自分の健康な時間を買う。それだけの話だ。資本主義であり、シンプルな経済の話というわけだ」
そうだな、ドクター。ヒトは需要のあるモノを売って、供給することでカネを手に入れる。それが積もり積もったのが資本主義だ。
だがな。リンゴを売るのと、抜けば死ぬ誰かの臓器を売るのは違うだろうよ。
「オーケー、オーケー。あんたの自己弁護はどうでもいい。ただ、あんたの運用しているシステムをそのまま俺たちは買い取る。顧客とのコネ、医療従事者、移植の手順。全てを俺たちの傘下に移す」
「さっきも言ったが、異論はない」
「結構。じゃあ、これからよろしく頼むぜ」
フュージリアーズのメンバーにジャックたちを見張らせ、マックスとレクシーはSUVに戻る。D3ロジスティクスの倉庫は引き続き、監視下におかれることになった。
「どう思う?」
「どう思うって?」
「これからやるのはかなりヤバいビジネスだってことだよ」
レクシーが尋ねるのにマックスがそう答える。
「そこまでヤバいか? ドラッグよりも?」
「俺たちは人間の腹にドラッグを詰めたコンドームを突っ込むが、あの医者どもは逆に人間の臓器を抜いている。そして、それを何も知らないどこかの金持ちの腹に突っ込んでいるんだぜ」
「ドラッグも臓器もヤバさでは同じだろ」
「言葉にしにくいが、ドラッグは買うのも売るもの悪党だろ。だが、臓器はそうじゃない。売ってるのはそもそも何も知らない不法移民で、買ってるのは死ぬのが嫌ってだけの金持ちだ。だろ?」
「悪党が相手じゃないとやりにくいってか」
「そりゃそうだろ。あんたは違うのか?」
「あたしは自分とお前以外はどうでもいいよ」
レクシーはそう言ってSUVをパシフィックポイントに向けて進ませる。
「一応、医者どもについて調べさせておこう。弁護士先生にお願いだ」
「了解」
それからレクシーとマックスは弁護士であるコリンの事務所を目指した。
パシフィックポイントではようやく民兵が撤退し、ちょっとした平和を享受しているところであった。
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