消えた不法移民

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 ──消えた不法移民



 最初にその事件が公になったのは、ハンニバルとルサルカが極東大陸から不法移民を入国させ始めてから半年後のことだった。


 大量の死体がウェスタンガルフ州の山林から発見された。


 多くはスノーエルフとドワーフの混血の死体で、火葬に使用するレベルの炎で骨だけになったものが、山林で犬の散歩をしていた市民によって発見されたのだ。


 マックスとレクシー、そしてディミトリはこのニュースを見てまさかと思った。


「なあ、密入国させた連中を売ってるよな?」


 レクシーは急遽ディミトリとの会談の場を設け、そう尋ねる。


「ああ。だが、相手がどういう用途で購入してるかは聞いていない」


「スナッフポルノを撮っているような連中もいるかもしれないってことか?」


「そうなる」


 今度はマックスが尋ね、ディミトリはそう返した。


「今回の件は正直寝耳に水だ。予想してなかった。だから、あんたらに尋ねておく。今回の死体の山からあたしたちに結び付く可能性は?」


「ない。そもそも州警察は死体がどこで生まれたのかも突き止めていないんだ。どうやって我々に結び付くと?」


「それならいいが。売る相手は少しばかり選んだ方がいいな。今回の事件を起こしただろう連中に心当たりは?」


「調べてみる」


 レクシーの問いにディミトリはそう請け負い、調査を始めた。


 しかし、死んだ不法移民がどこの誰かということを突き止めるのは不可能に近い。そういう痕跡を残さないようにディミトリたちは徹底してきたからだ。


 仕方なく販売した先に密かに問い合わせ、死人が出ていないかを聞く。


『死人が出たかなんて聞かれるとはな。そういう煩わしいのがないのが、あんたらのいいところだと思っていたんだが』


 当然ながら不法移民をまともには雇用していない、最悪人間扱いすらしていない雇用主たちは問い合わせに不快感を示す。


「すまない。だが、妙なことに手を染めている連中がいるみたいでな」


『俺たちは違うぞ』


「一応確認だけだ」


 顧客を不愉快にさせるが、それでもむやみやたらに死体をばらまいているような連中がいるのは困る。いくら不法移民がルサルカに繋がらないようにしていても、発覚する可能性はゼロではないのだから。


 ルサルカは慎重に調査を進め、ある顧客と連絡が取れないことに気づいた。


「『D3ロジスティクス』。この会社と連絡が取れない」


 調査の結果をディミトリがマックスとレクシーに告げる。


「こいつでビンゴってわけか?」


「単に夜逃げしただけなのかもしれない。踏み込まないことには」


「分かった。すぐにやろう。嫌な予感がする」


 マックスはどうにも不吉な予感を感じていた。


 ただのスナッフポルノを作っているだけなら結構だが、そうではない可能性を感じていた。スナッフポルノというだけでは安心しきれない、想像の余地が残っていることに不安を覚えていたのだ。


 マックスとレクシー、そしてフュージリアーズのメンバーはSUVに乗り込み、すぐさま問題のD3ロジスティクスという会社のあった場所に踏み込む。


「血の臭いだ」


「待て。こいつは消毒液の臭いだぞ」


 レクシーが呟き、マックスが続けて言う。


 D3ロジスティクスの建物は古い倉庫で中にはさらに地下室があった。マックスはサプレッサーが装着された散弾銃を構えて、地下に降りていく。


「凄まじい血の臭いだ。本当にスナッフポルノでも撮ってんのか……」


 しかし、悲鳴は聞こえない。妙に静かだ。


 そこでマックスが立ち止まり、後方のレクシーにハンドサインで合図する。


『人がいる』


 レクシーは頷き、進むようにマックスの方を叩いた。


 マックスは慎重に進み、そして倉庫内のカギがかかった場所から物音がすることを確かめるとカギを散弾銃のスラグ弾で吹き飛ばし、踏み込んだ。


「動くな!」


 マックスが大声を上げて踏み込むのに、中にいた人間が悲鳴を上げる。


「警察か?」


「そういうあんたらは医者か?」


 中にいたのは手術着を纏い、メスなどの道具を手にした人間たちだった。そして、手術台の上には不法移民だっただろうスノーエルフとドワーフの混血の男性が胸を開かれて、乗っていた。


「クソ。マジかよ」


 そこでもう答えは出た。


 臓器密売だ。連中は不法移民から臓器を抜いてやがると。


「レクシー。見ろよ。悪徳極まりだぜ」


「わお。スナッフポルノじゃなさそうだな。責任者は?」


 マックスが呆れて言うのに、レクシーが自動小銃の銃口を男たちに向けて尋ねる。


「私だ」


 声を上げたのはドワーフの男で、顔はマスクのせいでよく見えない。


「あんたがD3ロジスティクスさんか」


「それがペーパーカンパニーの名前だ」


「じゃあ、あんたの名前は?」


「ジャック・タカナシ。外科医師だ」


 ドワーフはジャック・タカナシと名乗った。


「オーケー。そいつの手術が無事に終わったら話をしよう」


 レクシーはジャックにそう言って一度手術室となっていた地下を出る。


「で、どうする?」


「どうもこうも。あんた次第だろ、レクシー」


 レクシーが尋ねるのにマックスはそう返した。


「ビジネスの詳細を聞くとしても、これ以上無駄な死体を出されるのは困る」


「死体の処理ならルサルカがビジネスにしている」


「ああ。だが、臓器密売とはな! スナッフポルノの方が何倍かマシだったぜ」


 レクシーはほとほと呆れたいうようにマックスに愚痴る。


「俺としてはこれ以上妙なことされる前に全員片づけるか、あるいは」


「あるいは?」


 レクシーが尋ねる。


「悪魔と握手する」


「マジかよ。まあ、考えておこう」


 マックスの言葉にレクシーはそう言うのみ。


 それから地下室からジャックたちが戻ってきた。


「改めまして。ジャック・タカナシだ。君たちが見た通りのビジネスをしている」


「初めまして、ドクター。あんたらにをしているドナーの販売元だよ。どうやらあんたらは販売元に内緒でビジネスをしていたようだがね」


「その点については謝罪しよう」


 犯罪組織との交渉にはなれているというようにジャックは顔色変えず告げる。


「しかし、問題はないだろう。君たちに迷惑はかけていない」


「そうか? 山林に適当に死体を捨てなかったか?」


「死体の処理は外注してる。我々の仕事ではない」


「じゃあ、これからは気を付けることだ。面倒を招くぞ」


 そろそろ本題に入るかというようにマックスがレクシーに視線を向ける。


「聞きたいことがある。このビジネスは儲かるのか?」


 そう、問題はそれだ。


「我々は私の他に医者を4名、看護師を6名、その他のスタッフを2名確保している。彼らには口止め料を含めて多大な報酬を支払っているが、それでも黒字であるということが全てを示しているだろうね」


「そいつは素晴らしい。では、商談と行こう」


 ジャックの言葉にレクシーがそう言って笑った。


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