ドワーフと握手を
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──ドワーフと握手を
ディバイン・ピーク包囲が繰り広げられている中、パシフィックポイントではマックスとレクシーが新しいビジネスを始めようとしていた。
場所はルサルカは保有しているリゾートホテルだが、名義はともかく実質的にな支配者はハンニバルに既に代わっている。ホテルを警備しているのはフュージリアーズのメンバーだ。
「お客さんだ」
そのホテルのエントランスに3台のセダンのが近づき、フュージリアーズが無線で連絡。ゲートが開かれ、エントランス前にセダンが停車した。
「ようこそ、ヤン・ユーシュェン」
マックスがセダンに乗っていたドワーフをそうやって出迎える。
「初めまして、マックスさん。ビジネスの話をしに来ましたよ」
「ああ。こちらもそのつもりだ。案内しよう」
ヤンと呼ばれたドワーフは丁寧に挨拶し、マックスは軽く返してそのドワーフをホテルのVIPルームに案内した。
VIPルームにはレクシーが待っており、フュージリアーズの護衛たちがいた。
「ヤンさん。天狼には
「お互いに実りあるビジネスだと聞かされています」
レクシーがそう言い、ヤンは微笑んで見せた。
「それで、だ。我々はパシフィックポイントにおけるドラッグビジネスを制圧した。この件に関しては“連邦”のドラッグカルテルも手を組んでいる」
「“連邦”のドラッグカルテルですか。彼らは不満を抱いたのでは?」
「いいや。我々は東海岸への密輸ルートを提供し、カルテルは我々との価格調整に同意した。今やお互いが望む金額でドラッグは売れる。そう、お互いが儲かるビジネスというわけだ」
「それは何よりです。では、いよいよ?」
「ああ。本格的に
レクシーはヤンにそう求めた。
「長老たちもその件には同意しています。問題ないかと。ただし、規模を拡大するなら、それ相応の玄関口が必要となりますが」
「準備してある。見てくれ。これが我々の使う船だ」
そう言ってマックスが写真を広げる。
「ソーコルイ号と同型艦2隻。このソーコルイ号は“社会主義連合国”で製造された貨物船に偽装された秘密工作船だ。特徴は船底にある潜水艦とのドッキングステーション。この船は潜水艦母艦として機能する」
「ほう。よくそんなものが手に入りましたね」
「我々の同志たちのおかげだよ」
ソーコルイ号を入手したのはディミトリたち元“社会主義連合国”の将校たちの働きだ。解体されそうになっていたソーコルイ号を含めた3隻をコネを使って買い取り、自分たちのものとした。
「さらに我々の同志たちは小型の潜水艦も獲得してくれた。866型潜水艦という通常動力潜水艦だ。これとソーコルイ号を組み合わせれば、俺たちは西海岸のどこにでもドラッグを密輸することができる」
「沿岸警備隊に見つかることもなく、な」
マックスとレクシーはそう言ってにやりと笑った。
「素晴らしい。では、
「聞こう、ヤンさん」
「では。我々天狼は密入国の斡旋に関してもそちらと手を組みたいのです」
「ふむ?」
続きを促すようにマックスたちがヤンを見る。
「知っての通りですが、極東大陸は内戦が続いています。軍閥たちは領土を実効支配し、圧制を人民に強いている。そのような場所から逃げ出したいと思っている人民は少なくないのですよ」
「だが、それを受け入れたところで貧乏な
「“国民連合”でも労働力は必要でしょう? 特に南部の農園では密入国した不法移民を使って安い労働力としていると聞きます。それに加えてあなた方は人間の腹をドラッグの密輸に使っている」
「なるほど。小規模でよければ協力する。正直、そっちのビジネスにはあたしたちはあまり関わっちゃいないのでね」
「結構です。どうぞよろしく」
ヤンは満足したように頷いた。
「早速だが、
「今日明日というのは無理ですよ。我々は合議制の指導部を構築していますで、まずは長老たちの意見を聞かなければいけません」
「オーケー。分かった。そうしてくれ」
マックスは分かったというように頷き、タバコに火をつけた。
「それではこれがお互いにとって実りある取引になりますことを。今度は私の経営するドワーフ料理店に来てください。おもてなししますよ」
「そうさせてもらうよ、ヤンさん」
そして、ヤンとマックス、レクシーは握手して解散した。
「極東群島で食ったドワーフ料理は美味かったよな。凄い脂っこいし、味付けも濃かったけどさ」
「だな。後、連中の酒は少し薬っぽい」
「体にいい酒なんだろう」
「そんな酒があるのかよ」
レクシーが適当に言うのにマックスが呆れたようにそう返した。
「それよりタバコはいい加減にしておけよ。それこそ体に悪いぞ」
「気にするな。俺はいつ死んでもいいんだ」
「はあ?」
マックスが不味いタバコの煙を肺いっぱいに吸い込んで言うのに、レクシーが眉を歪めて睨む。肺の中がタールに漬けられていくのを感じながら、マックスは言葉を続けた。
「俺たちが真っ当に寿命で死ねると思うか? 毎日のようにドンパチやって、警察に追われ、それよりおっかない同業者とやりあって。ムショに叩き込まれて、そこで老いぼれて死ぬぐらいなら、ムショの外で野良犬みたいに死ぬさ」
「そりゃそうだ。だが、すぐに死なれちゃあたしが困る。死ぬならあたしがくたばってからにしてくれ。あんたの方が若いんだからな」
「どうだかね」
マックスが首を傾げるのにレクシーが後ろからマックスに腕を回す。
「素直にハイって言ったら、今晩は楽しませてやるぞ?」
「そいつはそそるな」
「では、返事は?」
「分かった。あんたがくたばるまでは俺も死なない」
「よろしい」
レクシーはにやりと笑ってポンポンとマックスの方を叩いた。
テレビは民兵ローン・イーグル旅団の立て籠もるディバイン・ピークの戦いについて報じている。司法側は苦戦しつつも、確実にローン・イーグル旅団を追い込んでいるようであった。
「こっちも片付きそうだな」
「オブシディアンはもう分裂して脅威でもない。一部はラジカル・サークルなんかに下っている。俺たちのビジネスの邪魔にならないさ」
「イエス。結構なことだ」
マックスとレクシーはそう言ってテレビの電源を消した。
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