ディバイン・ピーク包囲
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──ディバイン・ピーク包囲
動員された州警察と連邦捜査局、ATFの人員に加え、少数ながら陸軍の部隊が加わり、ディバイン・ピークに立て籠もるローン・イーグル旅団への作戦が開始された。
陸軍のロレンス大佐が提案したのは包囲殲滅戦だ。
数において優位である州警察と連邦捜査局。ATF側はディバイン・ピークを包囲するようにして囲み、そして戦線を押し上げていく。そして、確実にローン・イーグル旅団の戦力を撃破していくのである。
「装甲車まで動員しているのか」
「敵は機関銃を持っているから」
連邦捜査局とATFは陸軍から貸与された装甲車を装備し、それによってディバイン・ピークに前進する準備を整えていた。
「上手くいくといいんだが……」
カーターが懸念する中、作戦は発動された。
装甲車が前進し、自動小銃で武装した捜査官たちが警戒しながら進み、ディバイン・ピークに迫る。
「クソ。上空にドローンだ」
「気づかれているぞ」
民兵はドローンを飛ばして捜査官たちの動きを把握していた。
そして、捜査官たちがディバイン・ピークの山間部に入るのに銃声が響く。
「接敵!」
「あそこだ! 応射しろ!」
ローン・イーグル旅団の民兵たちが捜査官たちに襲い掛かり、銃撃戦が始まった。
機関銃がけたたましい銃声を響かせて捜査官たちを牽制。捜査官たちは地面に伏せた状態で狙撃チームが敵の機関銃射手を排除し、機関銃陣地を制圧した。
そのような激しい戦闘が繰り広げられ、1日が過ぎたが、司法側は未だにディバイン・ピークを制圧できずにいた。
「敵の抵抗が激しすぎる。我々の装備ではあまりにも戦力不足だ」
「州兵を動員することは可能だと州知事から連絡があった」
「では、州兵に頼ろう」
警察力だけでは対処不能という判断が下され、ウェスタンガルフ州州兵が動員された。軍用トラックと装甲車が次々にディバイン・ピーク周辺に集結し、3個大隊規模の州兵が現場に到着。
「州兵を加えて再び包囲作戦を実行する」
そう命令が下り、作戦が再開された。
州兵の装備は当然州警察などより強力だ。機関銃もあれば迫撃砲もある。パートタイマーの兵隊である彼らの練度はそこまでではないが、戦えないほどではない。
州兵が捜査官たちとともに包囲網を狭める。
装甲車が無限軌道を響かせて前進していくのに突然車両が爆発した。
「警戒! 対戦車ロケットだ!」
「装甲車から降りろ! 急げ、急げ!」
装甲車を相手にローン・イーグル旅団の民兵が対戦車ロケットを持ち出した。すぐさま州兵たちは装甲者を降りて、民兵たちと応戦する。
携行対戦車ロケットの弱点は攻撃後すぐに発見されるため生存率が落ちることだ。事実、この攻撃の後に州兵たちは土煙が舞いあがってるのを見て射手を見つけ、そこにありったけの銃弾を叩き込んだ。
このようにディバイン・ピーク包囲は激戦となり、司法側、民兵側双方に多大な犠牲が出始めていた。
それでも戦局を推し進めているのは司法側だ。
「残りもう少しで包囲が成功する」
連邦捜査局の指揮官が疲れた様子でそう告げる。
「民兵側ももう持たないはずだ。このまま包囲を畳んでしまおう」
「民兵の指導者であるハリソン・シュナイダーについては身柄の確保を」
ここでマティルダがそう進言した。
「分かっているが、現状かなり難しい要求だぞ、それは。敵は自爆こそしないものの、それなり以上の激しい抵抗が続いている。大人しく身柄を拘束されるかどうかは」
「それでもお願いします。ここまで犠牲を出してでも民兵と戦ったのは、ひとえにハリソンを拘束し、彼の口からパシフィックポイントにおける事実を聞くためなのです」
「ううむ。分かった。可能な限り努力する」
マティルダが訴えるのに指揮官が渋々というように頷いた。
「ハリソンは拘束されたとして事実を語ると思うか?」
「分からない。けど、やらかしたことから考えても、自分が全ての罪を背負って死ぬタイプではないと思う」
「それはプロファイリングの結果か?」
「私の勘」
カーターとマティルダはそう言葉を交わし、ディバイン・ピークに向けて進む司法側の戦力を眺めた。
民兵側はこれまで自分たちの目をとなるドローンを温存してきたが、敗北がもはや避けられないと見るや、ドローンに迫撃砲弾や手榴弾を運ばせて、敵に向けて自爆させる戦法を取り始めた。
そのため司法側は小さなドローンが飛び交う空に極めて神経質に警戒しなければいけなくなり、前進はさらに遅れた。
ただ、民兵側も負傷者が増えて対応できなくなり始め、負傷者を抱えて投降するものが出始めた。彼らを逮捕しながら、司法側はついにディバイン・ピークの街に到達。
「民間人複数を保護しました」
「悪くない知らせだ」
民兵たちは民間人を──自分たちと同じ人種の民間人を戦闘に巻き込むつもりはなかったようであり、司法側はディバイン・ピークの街を無血制圧した。
その後、この包囲はディバイン・ピークの街から離れたディバイン・ピーク防衛基地に移る。そこは既に空軍州兵によって爆撃されているが、強固な守りを有する。
「ロレンス大佐は催涙ガスの使用を提案している」
連邦捜査局の指揮官は部下たちにそう言う。
「彼が言うにはまともにこの基地に攻撃を仕掛ければ、大量の死人が出るそうだ。それを防ぐためにも催涙ガスで制圧するべきだと」
「軍に任せられないのですか?」
「容疑者ハリソン・シュナイダーの拘束が求められている。今回の事件を解決するためのそれは我々が執行しなければ」
「了解」
問題はハリソン・シュナイダーをどうやって拘束するかだった。
もはや状況は戦争だ。法の執行云々という贅沢が言える環境ではない。このまま基地に押し入れば、激しい抵抗の末に民兵側は全滅するだろう。
かといって交渉は全て失敗している。交渉人も連れてこられたが、民兵は耳を全く貸さなかった。
「土壇場で思いついた籠城作戦ではなく、何十年も準備してきた立て籠もりだ。そう簡単には落とせないだろうな」
「ええ。それでもハリソンは捕まえなければ」
「死体にせずに、な」
基地突入には通常の装甲車では脆弱であると判断され、戦車を改装した戦闘工兵車両が投入されることになった。ドーザーとクレーンを備え、戦車の装甲を有する州兵のそれが前方に展開する。
そして、突入が決行された。
催涙ガスが一斉に発射され、戦闘工兵車両が前に出てゲートをこじ開ける。それに続いて司法側の戦力が突入した。
「思ったより抵抗が軽微だ」
「いや。抵抗はほとんどないぞ」
ガスマスクを捜査官たちが困惑する中、基地内の捜索が始まり、彼らは核シェルターとして整備された山の中に到達。
「クソ。なんてことだ」
その核シェルター内で自殺した大量に民兵の死体を彼らは発見した。
あるものは銃で、あるものは薬物で、それぞれ自殺しており、生存者はいない。
「ハリソン・シュナイダーはどうなりました?」
「やつは死んだよ」
マティルダの質問に連邦捜査局の指揮官は肩をすくめてそう言った。
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