貴重な情報

……………………


 ──貴重な情報



 無事にダニエル・フェルナンデスは連邦捜査局のパシフィックポイントオフィスまで連行された。


「ダニエル・フェルナンデス。オブシディアンの幹部だな?」


「クソ食らえ」


「おやおや。そういう態度を取っていいのか? 現状、お前を守ってやろうってのは俺たちだけだぞ」


「何をぬかしやがる」


 ダニエル・フェルナンデスは30代後半ほどの男だ。背丈は平均的だが、鍛えられた肉体をしている。


「いいか。民兵どもはお前を探している。もし、お前が俺たちに協力しないなら、民兵に通知したうえでお前を釈放してやるよ」


「てめえ! それでも警察かよ!」


「警察は犯罪者の味方じゃないんだよ、クソ野郎」


 ダニエルが怒り狂うように叫び、カーターは睨み返してそう言った。


「知ってることを教えろ。まずこの民兵の介入の前、抗争のその前に何があったかだ」


「クソ。それなら麻薬取締局も呼んだ方がいいぞ。重大ニュースがある」


「ほう?」


 カーターはマジックミラーになっている方を見る。そこには麻薬取締局からも人員が派遣されてきており、話を注意深く聞いていた。


「話せ。何があった?」


「最初に手を出してきたのはルサルカの連中だ」


 そう言ってダニエルが語り始めた。


「ルサルカは俺たちに断りもなく、パシフィックポイントで勝手にドラッグを扱い始めた。最初は連中がそこまで馬鹿だとは思わず、誰かの許可を取っているのだと思っていたが、違った」


「許可ってのはお前たちのか?」


「それから“連邦”のカルテルだ。知ってると思うが俺たちは“連邦”のカルテルと組んでいる。だから、パシフィックポイントを縄張りシマとできた。カルテルと揉め事を抱えたい人間はいないからな」


「なるほど。虎の威を借るなんとやら、か。だが、お前たちにはライバルが現れた」


「そう、それがルサルカだ。連中はカルテルすらも無視してビジネスを始めた」


 ここでカーターは違和感を感じた。


「待て。ルサルカがカルテルを無視したということは、連中はどこからドラッグを?」


「どこからだと思う?」


「クイズをやってる暇はないんだよ。言え」


黄金の三角州ゴールデン・デルタだ」


 ダニエルが肩をすくめて言うのにカーターが僅かに唸った。


「それをどうやって突き止めた?」


「連中が扱っているホワイトフレークを調べろよ。俺はよく分からなかったが、ガスクロマトグラフィーやら何やらをすれば、ドラッグの産地は特定できる」


「そういう情報を密告した人間がいるわけじゃないんだな?」


「そうだよ。俺たちは自前の機材で調べた」


 カーターはそういうダニエルをじっと見つめて低く唸った。


「なら、次だ。抗争が起きてからの話にしよう。その時点で妙なことは?」


「妙なこと、というか。ルサルカの連中も、ラジカル・サークルの連中も、こちらがいくら殴っても反撃してこなかった」


「反撃しなかった? 殴られたままだったと?」


「そりゃあ現場で撃たれたら撃ち返してきたが、誰かを殺された報復に俺たちの仲間を殺すということはなかった」


「ふむ。なるほどな」


「それからあんたが信じるかは知らんが、N.U.バンクタワーをやったのは俺たちじゃない。そんなことは誰も命じていない」


 N.U.バンクタワー爆破テロについてダニエルはオブシディアンの関与を否定。


「何かその証拠になるものはないか?」


「ネットに出回った爆破テロ犯ということになっている連中だが、やつらは俺たちの中でも下っ端であるしけたスノーパールの売人だ。それが爆破テロなんて大それたことをやると思うか?」


「物的な証拠は?」


「ない」


 カーターとしてはN.U.バンクタワー爆破テロはオブシディアンの犯行ではないように感じていた。しかし、現状それに物的証拠はない。


「オーケー。その証言を信じて調べておいてやる。最後は民兵が介入してきてから、どういうことが起きたかだ」


「どうもこうもねえよ。あのクソ民兵どもやりたい放題だ」


 カーターの質問にダニエルがそう憤る。


「連中との間に今までトラブルは?」


「ない。かかわりもない。連中が好きなのは銃火器で、俺たちが扱っているのはドラッグだ。まず交わるわけがない。それに連中はサウスエルフの純血以外、この国から出ていけてって頭のおかしい連中だぞ」


「連中とかかわりがあり、かつお前たちとトラブルになった人間はいないか?」


「そんな回りくどい状況の相手なんぞ知らんよ。マジで知らない」


 ダニエルはそう言って首を横に振った。


「分かった。これから他の捜査機関からの取り調べがある。こちらに協力的なら、証人保護プログラムも考えてやる」


「そうしてくれると嬉しいね」


 カーターはそう言って席を立ち、一度会議室に集まった。


「ここにきてデカい問題が明らかになった。黄金の三角州ゴールデン・デルタ産のドラッグをルサルカは扱っている」


 そう言ってカーターはホワイトボードにその旨を記した。


「麻薬取締局はこのことを掴んでたのか?」


「“連合国”からの不法移民が所持していたドラッグは調査していた。こちらの鑑定でもドラッグは黄金の三角州ゴールデン・デルタ産だと判明している」


「オーケー。ダニエルは嘘はついちゃいないというわけだ」


 麻薬取締局から派遣されている捜査官が答え、カーターが頷く。


「あとはどうやってルサルカが黄金の三角州ゴールデン・デルタなんかと関係を持つようになったかだ。すぐにでもこのことを調べたいが、俺たちは現状やるべきことが多すぎる」


 カーターはやるべきことリストを記す。


 まずルサルカ、ラジカル・サークル対オブシディアンの抗争を終わらせる。


 次に民兵を撤退させる。


 最後に今回の抗争と暴動に関わった人間を捕まえる。


「どこからどう手を付けるかだが、どれも優先度は高い。ひとつ片づけてからもうひとつとやっていたら、被害が尋常じゃなく広がる。ここは戦力集中の原則は無視して、並行して複数の事件を追う」


「役割分担して、ね」


「そうだ。ATFには引き続きN.U.バンクタワー爆破テロについて。麻薬取締局には黄金の三角州ゴールデン・デルタのドラッグについて。州警察と連邦捜査局は抗争と暴動にかかわって人間について」


 マティルダの言葉にカーターが頷き、役割を割り振る。


「抗争についてはどこから?」


「オブシディアンの既に逮捕された人間を当たること。それらかそいつらが証言した連中について調査すること。民兵についても知っている人間を探す」


「了解」


 カーターが言い、マティルダが頷く。


 そのころテレビでは民兵のドローンが上空を飛んでいる様子を報じていた。その後には銃撃戦を繰り広げる民兵たちの様子だ。


「しかし、こいつは本当に内戦みたいだな……」


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る