ワイルドウェスト
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──ワイルドウェスト
民兵ローン・イーグル旅団による自主的な治安活動というものが開始された。
彼らは国土安全保障省や戦略諜報省、そして空軍が運用しているものの民生品であるドローンをパシフィックポイント上空に飛ばしている。運用高度7600メートルのもので、地上の様子をつぶさに監視している。
さらにそれより低い高度ではクアッドローターのドローンが飛んでいる。玩具のようなドローンだが、カメラが装備され、分隊や小隊規模での偵察を実施していた。
ある種の技術的優位を持ったスマートさすら感じさせられるローン・イーグル旅団であったが、その戦いぶりは決してスマートとは言えなかった。
「行け、行け!」
「皆殺しにしろ!」
彼らはドローンが掴んだ目標に向けてでたらめに銃弾や爆薬を放り込み、周辺の被害を考えることなく戦闘を繰り広げている。
ドローンはさながら狩りの際の狩猟犬であり、獲物を探し、主人を誘導する。その後は仮という名の殺戮が吹き荒れるというわけだ。
ローン・イーグル旅団はまずパシフィックポイントでも豹人族の移民が多い地区を狙って攻撃を繰り広げており、そうであるがために世論は大してローン・イーグル旅団について気にしていなかった。
ハイエルフの幼い子供が死ぬのは悲劇だが、豹人族の死が同じぐらいの悲劇と認められるにはハイエルフの100倍の数の死が必要なのだ。
「ローン・イーグル旅団はノーザンクロス地区で戦闘中だ」
カーターがそう告げる。
「豹人族が多い地域?」
「そうだ。オブシディアンもそこに少なくなく存在する。だが、全員がドラッグの売人であるわけでも、テロリストであるわけでもない」
「それなのにローン・イーグル旅団は大規模な戦闘を、と」
「あまりよくない状況だ」
カーターたちは捜査本部でこれからの方針を考えていた。
彼らが追っているのは、まずはハンニバル。ルサルカを攻撃し、恐らくは乗っ取っただろう彼らが何をするつもりなのかを掴まなければならない。
それから今の状況を引き起こしたルサルカのドラッグビジネスへの進出。ドラッグビジネスにルサルカが参入したことで軋轢が生じ、軋轢は抗争となり、抗争は内戦状態へと突入している。
それからメインではないが今起きている抗争を可能な限り穏便に終わらせること。これ以上抗争が激化するのは誰にとっても望ましくない。
「……民兵の動員はハンニバルの意向だと思うか?」
「民兵はN.U.バンクタワーの爆破のせいでパシフィックポイントに出てきたという理由がある。彼らにハンニバルが働きかけたとは思いにくいけれど」
「確かにそうだな。だが、よく考えてくれ。民兵とオブシディアンがやり合って得をするのは誰だ?」
「それは……」
「ルサルカもラジカル・サークルも、そして恐らくはハンニバルも、ドラッグビジネスに進出している状態でライバルであるオブシディアンが消えるのは嬉しいことだろう」
「待って。それはN.U.バンクタワーの爆破までハンニバルの仕業だと?」
「そこまでは言えない。純粋にオブシディアンが起こした事件をハンニバルが利用しただけの可能性もある。ただ妙に都合がいいのは事実だ」
マティルダが確認するのにカーターがそう答えた。
「オーケー。分かった。民兵の背後にハンニバルがいるかもしれないとして、何を調べたらいいと思う?」
「民兵について、ローン・イーグル旅団についてもっと情報がほしいな」
「連邦捜査局で民兵について調べているチームがいるから聞いておく」
「頼む。それから俺たちはその間にオブシディアンの連中を可能な限り検挙する」
「ある種の保護?」
「まさに。このまま民兵に皆殺しにされたら事実は闇の中だ」
「了解。では、取り掛かりましょう」
カーターの提案にマティルダが同意し、彼らは動きだす。
「前に名前を上げていた5名の幹部のうち、ダニエル・フェルナンデスについては居場所が割れている。こいつを拘束して、これまでの事情を聞き出す」
「応援は?」
「州警察のSWATを動員する。連邦捜査局からも人を出してくれ」
「分かった。要請する」
それから州警察のSAWTと連邦捜査局の特殊作戦部隊が動員され、銃声が鳴りやまないパシフィックポイントに展開。
カーターたちは彼らを引き連れて、パシフィックポイントの豹人族が集まる地域であるノーザンクロス地域に向かった。
「あの家だ」
「いつでも踏み込める」
「オーケー。おっぱじめるぞ」
カーターたちはダニエルのいる家の周辺に密かに展開し、SWATが扉にブリーチングチャージをセットした。
「行け!」
ブリーチングチャージが扉を吹き飛ばし、すぐさまスタングレネードが投げられる。激しい音と閃光が敵を制圧し、その隙にSWATたちがなだれ込んだ。
「ダニエル・フェルナンデス! 州警察だ!」
SAWTたちは声を上げて、建物内を捜索。連邦捜査局の特殊作戦部隊も動員した警察犬で家の中を探っていく。
「撃つな! 降伏する!」
「容疑者を発見!」
ダニエルは両手を上げて投降し、SWATがそれを拘束した。
「作戦終了だ。ダニエルを連れて戻るぞ」
「待て。あれは……」
カーターがそう言うのにSWATの指揮官が上空を見上げて呟く。
「ドローン? まさかローン・イーグル旅団の連中か?」
「急いで撤退した方がいい」
「そうだな」
マティルダがそう促し、カーターたちは撤収を急ぐ。
カーターたちはダニエルを護送車両に乗せ、自分たちもSUVなどに乗り込み、エンジンをかけたが、そのときだ。
そこに軍用四輪駆動車4台が現れて道路を塞ぎ、車両にマウントされている口径12.7ミリの重機関銃がカーターたちが乗る装甲車に向けられた。民兵たちだ。
「何のつもりだ! 我々は州警察だぞ!」
「さっき収容した男を渡せ。それは我々の獲物だ」
州警察のSWATが叫び、軍用四輪駆動車に乗った民兵たちがそう返す。
「ふざけてるのか。渡すわけがないだろう」
「なら、力づくで奪い返すだけだ」
ガチャと音がして重機関銃のチャンバーに初弾が装填された。これでいつでも重機関銃はカーターたちを蜂の巣にできる。
「本部に応援を要請しろ。急げ!」
「クソ。時間稼ぎをしないと全員ここで死ぬことになるぞ」
カーターが叫び、連邦捜査局の捜査官が唸る。
「10秒与える。それまでにその護送車両にいる男を渡せ!」
民兵が叫び、軍用四輪駆動に乗った民兵たちがカーターたちを睨む。
「応援は間に合わない。合図したらアクセルを全開にしてあの民兵どもの車両に向けて突っ込め。いいな?」
「了解です」
カーターたちはそうやって突破の作戦を立て、合図を待つ。
「残り5秒!」
「今だ!」
民兵がカウントするのと同時にSUVと護送車両が一斉にアクセルを踏んだ。タイヤがギャリギャリとアスファルトを噛み、そして一気に加速する。
「なっ!?」
民兵たちは驚きに発砲する暇もなく、SUVと護送車両は軍用四輪駆動車に体当たりして、封鎖を突破した。
「クソッタレ! 撃て、撃て!」
後方から民兵たちが射撃してくるのを躱しながらカーターは逃げ去った。
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