民兵との対立
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──民兵との対立
N.U.バンクタワー爆破テロののちに民兵がパシフィックポイントに介入した。
「民兵が?」
「自主的な治安活動だと言っている。市長も半ば認めた発言をした」
マティルダが目を丸くするのにカーターが忌々し気に言う。
「民兵なんて投入してもいい結果になるとは思えない」
「民兵についてこっちで調べていた資料だ。以前から問題を起こしていた連中で州警察でもマークしていた」
「ありがとう」
現在、問題になっているローン・イーグル旅団については州警察が調べており、彼らの資料がマティルダに渡される。
「司令官はハリソン・シュナイダー。バリバリの純血種至上主義者」
「ああ。ローン・イーグル旅団は主にサウスエルフの純血で組織されている」
「彼ら、装甲車まで持ってるの?」
「迫撃砲も持っているって話だし、それでも州法には接触しない」
「やれやれ。私はときおりこの国は自由すぎると思う」
マティルダはため息をつき資料をめくる。
「旅団を名乗っているけど、規模しては大隊程度というところね。そして、構成員の中には逮捕歴がある人間が多く、それでいて元軍人というもの少なくない」
「まともにやりあえば厄介な相手になる」
「元空挺師団の将兵まで。彼らが本気でパシフィックポイントでの治安活動というのをやるならば、随分と派手なことになりそう」
「間違いなくなるだろう。だから、馬鹿騒ぎになる前に手を打つ必要がある」
「けど、具体的には何を?」
カーターが考え込みながら言うのにマティルダが尋ねた。
「民兵の司令官とのパイプが必要だ。冷戦時代のホットラインのようなもの」
「連中がそんなものに応じると思う?」
「向こうにとっても引き際は把握しておきたいはずだ。民兵の今の行動は別に法的根拠があるわけじゃない。州警察が取り締まるとなったら、困るのは連中だ」
「市長は?」
「市長が認めたとしても州知事が取り消せばそれまでだ。そもそも市長は別にローン・イーグル旅団に出動を要請したわけではなく、市民に自主的な防衛を呼び掛けただけだ」
「そうね。市長が何を意図したにせよ、今の状況を法的に保証はできない」
「というわけで、善は急げだ。連中は放っておけば滅茶苦茶をやるぞ」
「その可能性は高い。ヘイトクライムの危機は今までになく高まっている」
連邦捜査局は人種的嫌悪に基づく、ヘイトクライムの危険性を分析し、ウェスタンガルフ州にてその危機があることを指摘していた。
「ウェスタンガルフ州には“連邦”のドラッグ戦争から逃げてきた難民が大勢いる。全員がパンサー・ギャングでも、テロリストでもない。だが、怒りに駆られていてはその見分けは付かないだろうな」
「それが間違っているという疑いすら抱けないのがテロの後のパニック。“本土攻撃”の後も犯人と同じ人種への激しいヘイトクライムが続いた」
「善良な市民が魔女狩りに会って死ぬようなことがあってはいけない」
カーターはそう言い、マティルダとローン・イーグル旅団が展開している地域に向けて出発した。
ローン・イーグル旅団はその司令部をモーテルに設置しており、軍の装備と比較しても遜色ない指揮通信車両などが駐車場に止められていた。それからそれを守るための機関銃陣地などもだ。
「止まれ! 誰か!」
カーターたちがモーテルの前に車を止めると自動小銃で武装した民兵がカーターたちを呼び止めた。その自動小銃はいつでもカーターたちに向けられるようになっている。
「州警察と連邦捜査局だ。お前たちのボスはどこだ?」
「司令官は御多忙だ」
「取り次がないと後悔することになるぞ」
カーターがすごむのに民兵が僅かに動揺した。
「分かった。取り次いでやる。大人しくしてろ」
民兵はそう言い、彼は無線でやり取りをする。
「お会いになるそうだ。行け」
「ああ。そうする」
司令部が設置されたモーテル内には様々な機材が設置されており、マティルダはそれらを注意深く観察していく。
「軍用レベルのC4Iを抱えているみたいね。それからドローンについてもかなり高度なものを運用している。あそこにあるコンテナは空軍が運用してるのとほぼ同じものよ」
「民兵がそこまで武装するとは世も末だな」
ドローンを保有しているのは軍だけではない。
民間様にダウングレードしたものが販売されており、広大な農場の監視やあるいは様々な学術調査に使用されている。
「──からパトリオット・ゼロ・ワン。そちらに増援が向かっている。速やかに包囲網を畳み、テロリストどもを殲滅しろ」
そして、指示を出す声がカーターたちにも聞こえてきた。それは司令部となっている天幕からで、カーターたちはその天幕の中に入る。
「おい。あんたが司令官のハリソン・シュナイダーだな?」
「お前は誰だ、リザードマン? 誰の許可を得てここにいる?」
「このバッヂの許可さ」
ハリソンが地図から顔を上げてカーターを睨むのにカーターはそう返す。
「ふん。役立たずの警察風情が。我々は忙しいんだ。失せろ」
ハリソンはそう言って部下にカーターたちを追い払わせようとした。
「おっと。俺に触れたら公務執行妨害だぜ?」
「くっ……」
カーターはそう言い、ハリソンの部下たちが唸る。
「ハリソン。俺たちはどちらもパシフィックポイントの市民のことを守りたいと思っている。そうだろう? だから行き違いがないようにしておきたいんだ。お互いにすぐに連絡がつく通信手段を確保しておかないか?」
「断る。そういう約束がしたければもっと上の人間を連れてこい」
「俺より偉い人間が来たらあんたらが何の法的根拠もなく、公共の場で武器を振り回していることを指摘されて、根こそぎ逮捕になるが、それでもいいんだな?」
「我々は自主的な治安活動のためにここにいる。この国には市民が自衛する権利を認めた憲法が存在する」
「自衛だ。あんたらは攻撃されるまで攻撃しないと決めてるか?」
「ふん」
カーターが指摘するのにハリソンは不快そうに鼻を鳴らしながら部下に指示を出す。
「何かあればこの番号に連絡しろ。忙しくなければ応答する」
「結構だ。俺の方はこの番号にかけろ。すぐに応じる」
最終的にカーターとハリソンは連絡先を交換し、万が一の場合の連絡を約束した。
「じゃあな、司令官。無茶苦茶をするんじゃないぞ」
「我々は
カーターはそう言って立ち去る。
「連中の装備の中で気になったのは?」
「大きなものではあのドローン用の地上誘導ステーションが入ったコンテナ。小さなものでは個人装備として彼らが有している端末。あの手の端末はもっと小型のドローンの映像を共有するためのものだと思う」
「それは何を意味する?」
「彼らはあらゆる場所に目を持っているということ。敵に対しても、我々に対しても」
「面倒だな」
マティルダの分析にカーターはそう唸ったのだった。
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