暴動の日々
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──暴動の日々
カーターの読み通りにオブシディアンはルサルカとラジカル・サークルを相手に抗争を起こした。
通りで銃声が響き渡り、ルサルカのナイトクラブが放火され、ラジカル・サークルのメンバーが銃撃される。
「今の状況はハンニバル云々とは無関係だな」
カーターは今の状況をオブシディアンの利益のための抗争を見ていた。以前のルサルカが襲撃されたようにハンニバルが関与していることはないだろうと。
「それは違うと思う。今の状況を引き起こしたのはやはりハンニバル。全てはルサルカがドラッグビジネスを勝手に始めたことに起因しているのだから」
「ふむ。そうとも言えるが……」
「恐らくこの抗争にはハンニバルも介入する。注目すべきね」
「オーケー。そうしよう。まずは何から?」
「今はオブシディアンが攻撃を仕掛けている。これがルサルカとラジカル・サークルの反撃に転じた時、どうなるか。ハンニバルは彼らの側に立って、武器を提供したりして、抗争を支援するはず」
「ふむ。なるほど。じゃあ、ATFにも協力を要請しよう。武器の流れを追いたい」
「了解。ATFのロビンソン特別捜査官に要請しておく」
カーターたちはそう言って動き出した。
その間にも抗争は激化を続け、パシフィックポイントには非常事態宣言が発令された。もはや州軍の出動すらも噂される中で、カーターたちは抗争の情報を集める。
「分かっている限り、この抗争はオブシディアンが一方的にルサルカとラジカル・サークルを殴っているだけだ」
そして、カーターが連邦捜査局のパシフィックポイントオフィス集まった面々に告げる。ATFのロビンソン特別捜査官のほかに麻薬取締局の捜査官も1名出席していた。
「分からないのはどうしてルサルカとラジカル・サークルが殴り返さないか」
「その通りだ。何故かルサルカとラジカル・サークルは一方的に殴られる立場に甘んじている。もちろん襲撃を受ければ抵抗はするが、報復という報復はない」
「この手の抗争はお互いに殴り合うものなのに、と」
カーターの言葉にロビンソン特別捜査官が言う。
「今後は反撃が予想されるだろう。報復が始まれば後は暴力連鎖だ。お互いが追い詰められるまで続くクソッタレな暴力の祭典」
「そうなる前に阻止したい」
「ああ。現状、取り締まれるのはオブシディアンだけだ」
マティルダが言い、カーターがそう言ってホワイトボードにオブシディアンの組織図を描いた。ピラミッド型の組織図のトップにニコラスの顔写真が貼られている。
「オブシディアンのトップはニコラス・ディアスという“連邦”からの移民だ。こいつも“連邦”のドラッグ戦争で故郷を追われた口だが、皮肉なことに今はドラッグを売り捌く側になった」
カーターがニコラスについてそう説明。
「いきなりボスに噛みつくってのは無理だろうから、周りから固めていく。ニコラスの下には5名の幹部だ」
「ダニエル・フェルナンデス、フェリペ・ガルシア、ホセ・ゴメス、パブロ・サンチェス、マヌエル・ラミレス」
「こいつらをダイレクトに叩くか、その下を叩くか。そういうことになる。そうやってオブシディアンを追い詰める。連中が抗争で血まみれになってルサルカとラジカル・サークルに追い詰められる前に」
この国は法治国家だとカーター。
「では、動き始めよう。手遅れになる前に」
カーターたちはそうやって動き始めたが、もう既に手遅れだということには気づいていなかった。
マックスとレクシーはこの後すぐに民兵ローン・イーグル旅団に接触しており、ローン・イーグル旅団はパシフィックポイントにおける
抗争の激化と転換点を告げたのはN.U.バンクタワーの爆破テロだ。
「クソ。信じられん」
「酷い」
爆破されたN.U.バンクタワーを見上げてカーターとマティルダが言う。
「ロビンソン特別捜査官。状況は?」
「あそこにある車両に爆弾が積み込まれていたとみている。爆薬はまだ断定できないが、監視カメラの映像ではかなり重量があった。軍用爆薬ではない可能性もある」
同じ捜査チームでATFのロビンソン特別捜査官は先に現場に入っており、現場で鑑識を仕切っていた。
車両爆弾となったSUVはその残骸がまだ残っており、今ナンバープレートから持ち主を特定しようとしている。
「手製の爆薬である可能性が?」
「ああ。その通り。軍用爆薬と違って威力が低いために、大量に使用しなければならない。監視カメラの映像では車両のタイヤがかなりへこんでいたのを確認した」
「なるほど。以前のドラコンのナイトクラブが爆破されたのとは随分と違いますね」
「全く違う。同一犯ではないのかもしれない」
ドラコンのナイトクラブ爆破に使用されたのは軍用爆薬で、爆破の方法の爆破解体のようにスムーズなものであった。
「監視カメラに他に不審なものは?」
「まだ調べている。連邦捜査局にはまだ何か情報は? テロリストの名簿とか」
「まだです」
“国民連合”が“本土攻撃”を許した要因に縦割り行政があった。情報をスムーズに共有できない環境によって情報が必要な人間に情報が届かないということがあったのだ。
それを解決するために連邦捜査局や戦略諜報省などの情報機関がそれぞれの情報を共有するマニュアルが作られた。
この爆破テロでも連邦捜査局にすぐさま怪しい人間のリストが、戦略諜報省や国土安全保障省から送られてくるはずだ。
「ハンニバルがテロ組織であることは聞かされていたが、まさか本当に……」
「ええ。本当にここまでのことをやったとそう思われる。まだ断定はできないけど」
「今起きている抗争とは全く無関係だと思うか?」
「思わない」
タイミング的に今パシフィックポイントを揺るがしている抗争と、この爆弾テロに全く繋がりがないとは思えなかった。
のちの調査でも明らかになるが、N.U.バンクタワーにはルサルカが経営しているフロント企業数社が入っていたのだから。
「爆破前に監視カメラに映ってい映像だ」
爆破テロから6時間後、カーターは捜査本部でビデオを見せていた。
「車から降りてくる2名の男が見える。どちらも豹人族だ。現在、連邦捜査局が顔写真をより鮮明にして、データベースで照合中だが、こいつらがオブシディアンだとすれば、もうこれはただの抗争じゃない」
「内戦だ」
監視カメラに映っていた2名の豹人族の顔が照合され、両名ともオブシディアンのメンバーであるとはっきりしたのはこれからさらに2時間後。両名はすぐさま指名手配されるも、彼らが見つかることはなかった。
しかし、事実は広く知られることになる。
この爆破テロの犯人に関する情報がどこからか漏洩し、ネットに流れたのだ。
豹人族への怒りの声が沸き起こり、憎悪が高ぶる。
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