ポスト・オブシディアン
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──ポスト・オブシディアン
オブシディアンのボスであるニコラスの死はネットを経由して、瞬く間にパシフィックポイント中に広まった。
ボスを失ったオブシディアンは後継者争いを始め、結果として分裂。複数のパンサー・ギャング同士の抗争が始まった。
さらにこれまで攻撃にさらされていたルサルカやラジカル・サークルが動く。
ルサルカはリストアップしていたオブシディアンのメンバーを襲撃し、拉致したのちに拷問して殺害した。その様子はマックスたちから教わったように撮影され、スナッフポルノのサイトなどにアップロードされる。
ルサルカのディミトリは理解していた。スナッフポルノには一定の需要があると。それが女性や子供であればもっと腐った変態どもに需要があると。
オブシディアンのメンバーの家族も同様に拉致され、ルサルカの構成員が撮影する中、むごたらしく殺害された。拷問され、強姦され、生きたまま解体され、その様子を撮影されたのである。
一部の動画はDVDに焼かれ、アングラで販売されたほか、会員制のスナッフポルノサイトで公開され、ディミトリたちにちょっとした
ラジカル・サークルはそのような点でいえば、まだ真っ当だった。
これまで仲間を殺されてきた彼らだが、ルサルカのような家族を巻き込んだ残忍な報復は望まなかった。
彼らはオブシディアンの売人を大人数で取り囲み、バットやバールで袋叩きにした。それに対してオブシディアンの売人が武装するようになると、ハンニバルから入手した武器で攻撃を実行。
タクシーから突然自動小銃を持った男たちが現れ、オブシディアンの売人に向けて銃を乱射するのだ。そのような突然の不意打ちにオブシディアンの売人は抵抗する暇もなくハチの巣にされていった。
暴力がパシフィックポイントの中に渦巻き、報復が繰り返される。
しかし、これが報復の連鎖と言われる状況に至らないのは明白だった。もうオブシディアンは壊滅したも同然だからである。
ニコラスが死に、後継者が決まらず、“連邦”のカルテルとの繋がりも途絶えた。つまり商品はなく、商品があっても売る手段がない状態だ。
そのころ、マックスとレクシーは重要な交渉に臨もうとしていた。
「オリバー・フォン・ネテスハイム」
「かの有名な麻薬王アロイス・フォン・ネテスハイムの忘れ形見か」
マックスたちは車で南の国境を越え、僅かに“連邦”に入った位置にあるモーテルで取引相手を待っていた。
「こいつの親父は“国民連合”政府ともつるんでいた正真正銘世界最大のドラッグカルテルのボスだった。もっとも親父は麻薬取締局に殺害されたので、オリバーはそれをそっくり継ぐことはできなかったが」
「それでもこいつが率いる新世代ヴォルフ・カルテルは麻薬取締局が21世紀における最大の脅威というぐらいだ。あまり機嫌は損ねたくないところだな」
マックスたちが交渉しようとしている相手は他でもない、オブシディアンがこれまでドラッグ取引をしていたドラッグカルテルだ。
新世代ヴォルフ・カルテルというドラッグカルテルのオリバーという男とマックスとレクシーは会うことになっていた。
モーテルの付近にはフュージリアーズの狙撃手などが待機し、警備している。
“連邦”のドラッグカルテルの暴力は半端ではないと言われていた。軍隊を買収し、警察を買収し、国家に並ぶ暴力を手に入れたカルテルの戦闘力はちょっとした中小国の防衛力に匹敵するとも。
『目標と思しき車両が接近』
「了解」
ここで周辺を監視していたフュージリアーズのメンバーからの報告があり、マックスたちが身構える。
砂漠の向こうから土煙を巻き上げて、4台のSUVがモーテルに向かってきていた。黒塗りのそれは恐らくは防弾仕様にものだ。
それらの車両はモーテルの駐車場に次々に入り、まずは護衛だろう短機関銃で武装した男たちが降りてきた。
「見ての通り、俺たちは丸腰だ」
「確認する。ボディチェックだ」
マックスが言うのに男たちがマックスとレクシーをボディチェックする。
「確かに丸腰のようだな」
護衛の男たちはそれを確認するとインカムに向けて何事かを告げた。すると、これまで閉じていたSUVのドアが開き、そこから大柄なサウスエルフとスノーエルフの混血の男が降りてきた。
「あんたらがレクシーとマックスか?」
「そ。あんたがオリバー・フォン・ネテスハイム?」
「ああ」
オリバーを名乗る男は軍用自動小銃を抱いた聖母の入れ墨を頬から首筋、肩にかけて入れており、威圧感を放っていた。
「オブシディアンの件で話があると聞いたが、謝罪か?」
「いいや。謝る気はないし、その道理もない」
「言ってくれる。オブシディアンを潰したのはお前らだろうが。俺たちとオブシディアンがどういう関係だったか知りませんでした、なんて抜かす気じゃないだろうな?」
オリバーは怒りを込めた視線でマックスとレクシーを睨む。
オリバーは商品には手を出していないと言われているが、こうも沸点が低いとそれも怪しいものだとマックスは思うのであった。
「オーケー。もちろん、あんたらとオブシディアンの関係は知っていたさ。だが、最初に手を出して来たのはオブシディアンの阿呆な豹人族どもだ。あたしたちじゃない」
「ふざけやがって。だから、許せっていうのか? 舐めるなよ」
「謝罪の代わりに提案がある。オブシディアンの代わりにあたしたちがあんたらのドラッグを買うことにする。どうだ?」
「ほう?」
ここでオリバーはすっと怒りを感情を引かせて、レクシーたちを見た。
「あたしたちはパシフィックポイントを中心に西部で勢力を拡大している。あんたらが望むのならば手を結び、ビジネス関係を構築することも可能だ。オブシディアンとビジネスしていたときよりも稼げることは請け負う」
「面白いことを言うな。だが、興味深い提案だ」
「だろう? オブシディアンは所詮はパシフィックポイントだけで活動していたチンピラだ。対してあたしたちはウェスタンガルフ州全域どころか東部にもコネがある。あたしらと組んだ方が儲かる」
レクシーはもう一押しという具合にオリバーにそう言った。
「そこまで言うならお前らと一度手を組んでみよう。だが、これがもし麻薬取締局のおとり捜査だったりした場合は」
「あたしらを殺すといいさ。絶対にこれはおとり捜査じゃない。おとり捜査のためにパンサー・ギャングを虐殺する麻薬取締局の捜査官はいないだろ? ほら」
レクシーはそう言ってニコラスが殺害される様子を映した動画を見せる。
「わお。こいつは凄いな。俺たちも真似してみるか」
「気に入ったなら何よりだ。これからのビジネスをよろしく頼むぜ」
「ああ。詳しい取引は追って知らせる」
こうして新世代ヴォルフ・カルテルとの取引は成立し、パシフィックポイントでこれまでオブシディアンが使っていた取引ルートは、そっくりハンニバルのものとなった。
大量のドラッグがパシフィックポイントに流れ込みつつある。
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