首狩り

……………………


 ──首狩り



 マックスたちはローン・イーグル旅団が殺害したオブシディアンの構成員のスマートフォンを回収していた。


 そのスマートフォンの情報からオブシディアンのボスであるニコラス・ディアスの居場所を探っていたのである。


「ニコラスのスマートフォンの番号が割れた」


 マックスがフュージリアーズの電子機器担当が割り出したニコラスのスマートフォンの番号をレクシーに示した。


「これでやつの居場所も分かるというわけだ」


「ああ。そういうことだ。ニコラスの首を飛ばせば、オブシディアンは恐らく崩壊する。俺たちはそう考えている」


「他に問題は?」


「オブシディアンと取引していた“連邦”のドラッグカルテル」


「そいつはヘビィな問題だ」


 “連邦”のドラッグカルテルの危険度は伝説的だ。彼らと敵対すれば国境を越えてでも連中は報復に向かってくるだろう。


「オブシディアンと取引しているのは新世代ヴォルフ・カルテルだ。イカれ具合では“連邦”のカルテルでも随一だが、同時に利益になる取引には前向きな連中である」


「じゃあ、オブシディアンをどうこうした後はそいつらと話しを付けないとな」


「ああ。そうしなければ余計な問題を抱えることになる」


 オブシディアンという取引相手を失えば、新世代ヴォルフ・カルテルはその原因となったハンニバルへの報復を狙うだろう。新しい抗争が勃発しては意味がない。


 マックスとレクシーは悪名高いドラッグカルテルとの交渉も行わなければならない。


「それはそうとして、ニコラスの暗殺だ。作戦は?」


「やつの注意をまずは引いておきたい。民兵どもに最後の仕事を頼もう」


「オーケー。連絡する」


 マックスたちはフュージリアーズを動員してニコラスの暗殺を決行。


 オブシディアンは今も民兵との戦闘を続けていた。その指揮を執るのはオブシディアンのボスであるニコラスだ。


「クソ。民兵どもはまだ撤退しないのか?」


「連中はまだパシフィックポイントに居座っています。あの民兵どもの装備は下手な州兵より充実していますよ」


「忌々しい話だ!」


 ニコラスは従軍経験というよりも、実戦経験があった。彼は“連邦”で生まれ、“連邦”で吹き荒れたドラッグ戦争を経験したのだ。ひとりの兵士として。


 だから、彼にも分かっていた。


 ドローンなどの安価ながらハイテクな装備を有し、その上で練度も高く、統率された民兵に自分たちは決定的な勝利が得られないということも。


「俺たちにできるのは民兵に可能な限りの打撃を与え、連中がそれ以上の犠牲を恐れることで撤退させることだ。連中を殲滅するのは不可能だが、連中をひとりでも多く殺すことはできるだろう」


 ニコラスは部下たちにそう語る。


 彼らが望めるのはニコラスの言う通りのことだ。民兵に打撃を与え、彼らが怖気づいて撤退することを強制する。


 しかし、彼の計画は上手くいかない。


 ニコラスは相手がこのまま戦闘を続けるという想定だったが、民兵に側に立っているマックスたちハンニバルはこの抗争を畳みに来たのだ。


 ニコラスの死という形で。


「目標のビルを視認」


「行け」


 防弾仕様のSUVが6台、ニコラスたちオブシディアンが拠点としているビルに向かう。その中にはマックスたちとフュージリアーズのメンバーが武装して乗っていた。


 全員がバラクラバを被り、手にはそれぞれの役割に応じた銃。


 マックスは12ゲージのセミオートの散弾銃にサプレッサーを付けたもの。レクシーたちはカービン仕様の自動小銃にサプレッサーを装着したものや口径5.56ミリの空挺仕様の機関銃などを装備している。


 装備しているタクティカルベストには予備のマガジンや手榴弾、救急キットなど様々なものが詰め込まれてた。


「行くぞ」


 マックスたちはアクセルを踏み、加速するとビルの前に躍り出た。


「撃て、撃て」


 まずは機関銃がSUVの窓から掃射され、ビルのエントランス付近にいたオブシディアンの構成員たちを薙ぎ払う。オブシディアンの構成員たちは悲鳴を上げ、逃げ惑った。


「敵襲、敵襲!」


 オブシディアンの構成員たちは辛うじてそう叫び、武器を構えてマックスたちの襲撃に応じようとする。“連合国”製の自動小銃をでたらめに振り回して乱射し、パニック状態で戦闘を繰り広げた。


「雑魚は適当に潰していけ」


「了解」


 レクシーの指示でマックスたちはオブシディアンより遥かに正確な射撃でオブシディアン攻勢んを潰していく。


 マックスが散弾銃の散弾で敵の頭を吹き飛ばし、レクシーたちはライフル弾を敵の頭と胸に向けて叩き込んで進む。


 オブシディアンは民兵の襲撃に備えていたが、彼らに襲いかかったマックスたちは民兵などよりも遥かに性質が悪かった。彼らは閉所での戦闘にどこまでも優れており、さらにはマックスは魔術を使える。


「マックス! 前方に敵複数だ! 焼き払え!」


「了解、レクシー」


 オブシディアンの武装構成員が殺到するのにマックスが火を放つ。彼らは火だるまになり、地面を転がり回る。スプリンクラーが水を撒くが、あまり意味はない。


「雑魚の掃討はお前に任せるよ、マックス」


「ああ。焼き払いながら前進だ」


 建物内のあちこちで炎が上り、戦闘が激化する。


「畜生、畜生!」


 豹人族は口径9ミリの短機関銃などを乱射して抵抗するも、練度の面で圧倒的に優位なマックスたちにはまるで脅威にならない。


「前方、火を放つぞ。巻き込まれるな」


「了解」


 マックスは遮蔽物から短機関銃を乱射するオブシディアンの兵士たちに向け炎を放つ。それによってまとめて豹人族が焼き払われた。


「進め!」


 マックスはマガジンを交換しながら、前進を継続。フュージリアーズのメンバーたちも確実にオブシディアンの構成員を殺害しながら進み続けた。


「待ってくれ。ニコラスのスマートフォンの反応だ。近いぞ」


 ビルの中が焼死体と射殺体でいっぱいになり始めたときだ。電子機器担当の兵士がそのように告げた。


「いよいよか」


「ニコラスはどう始末する?」


「こいつは民兵がやったことにしたい。民兵スタイルで始末しよう」


「オーケー」


 上階へ、上階へとマックスとレクシーたちは押し進み、ニコラスに迫った。


 そして──。


「ニコラスはこの先だ」


「その前に敵の陣地がある」


「無反動砲で吹っ飛ばして進むぞ」


 マックスたちは室内でも使用可能な使い捨て無反動砲を取り出すと、機関銃が制圧射撃を行う中で陣地に向けて砲弾を叩き込んだ。


「クソ──」


 陣地が爆発で吹き飛び、マックスたちは素早く前進。


「この扉の先だな」


「ブリーチングチャージ、セット」


 鋼鉄製の扉に爆薬がセットされ、3秒のカウントののちに爆破される。


「ゴー、ゴー!」


「ショータイムだ!」


 そして、一斉にマックスたちが室内になだれ込んだ。


「畜生! とうとうここまで来やが──!」


 銃を取ろうとしたオブシディアンの幹部の頭をライフル弾が貫き、脳漿がスプレーのようにまき散らされる。


「動くな、ニコラス・ディアス。長生きしたいだろう?」


「クソッタレ!」


 幹部たちが射殺される中で部屋の中にいたニコラスも銃を取ろうとしたが、その手を撃たれ、血を流して呻いた。


「とはいえ、長生きできるのは数秒だけだけどな。ロープを」


「ほら」


 マックスが求め、レクシーがロープを投げ渡す。


「あんたをただ撃ち殺してもいいんだがな。あいにく狂った民兵が殺したということにしたい。というわけで、ちょっと残酷だが耐えてくれよ」


「てめえ、何をするつもりだ!?」


 マックスはロープをニコラスの首にかけ、フュージリアーズのメンバーたちがニコラスを窓の方へと連れていく。ロープの片方の先端はレクシーが室内の柱に結んでいた。


「じゃあな、ニコラス」


「やめ──」


 次の瞬間、ニコラスは窓の外に放り出され、落下の衝撃でロープが首の骨をへし折った。あらぬ方に首の曲がったニコラスの死体がぶらぶらとビルの外で揺れる。


「これでおしまいだ」


……………………

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