ゴールデンゲート
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──ゴールデンゲート
アール&エス交易の保有する材木運搬船ベーリィメドヴェージは“連合国”極東地方に向けてパシフィックポイントを出港した。
船は9日ほどをかけて太平洋を航行し、“連合国”の港に入港。
港にはルサルカの兄弟組織に金を払って“国民連合”への密入国を斡旋してもらったスノーエルフの男女15名がおり、彼らは密かにベーリィメドヴェージに乗り込んだ。材木並ぶ船内にこっそりと居住区があり、彼らはそこで過ごす。
スノーエルフの女性ターニャ・セルゲーエワもそのひとりであった。
ターニャは今年で29歳になるピアノ教師であった。その美しい容貌から党幹部たちに気に入られ、彼らの子息たちにピアノを教えていた。
だが、“社会主義連合国”の崩壊で一家全員が仕事を失った。この経済難にピアノを学ぼうという人間もおらず、ターニャも失業。ターニャたちは貧しい暮らしに耐えながら、貯蓄を切り崩し辛うじて食いつないでいた。
地元ではいくら仕事を探しても酷い低賃金か、あるいは全く求人がないかという惨状で、ターニャたちの生活は苦しくなるばかりであった。
そんな中、ターニャは友人から冷戦時代のライバルであった“国民連合”のことを聞いた。“国民連合”には富が集まり、繁栄を極めているという話だ。
「“国民連合”ならきっといい仕事がある」
ターニャは“国民連合”に向かうことを夢見始めた。
その友人からある組織にお金を払えば“国民連合”に渡れると聞かされたとき、ターニャはそれが犯罪組織であるとは理解していたが、断ることはできなかった。
僅かな蓄えを彼らに渡し、ターニャはベーリィメドヴェージに乗り込んだ。
「やあ。あなたは“国民連合”に付いたら何をします?」
同じく“国民連合”に夢を見てこの船に乗り込んだ人々がそう話しかけてくる。
「ピアノを教えたいです。それが仕事でしたから」
「それはいい。きっと受け入れられますよ」
ターニャたちは“国民連合”への夢を見続けている。
同時に同じアール&エス交易が保有する材木運搬船イヴァン・グロズヌイは極東群島に向けて進んでいた。港にはルサルカが
300キロのホワイトフレークというのは末端価格に敷いて2兆ドゥカート近い。場所によって価格は変わってくるとしても1兆ドゥカートは切らないだろう。
イヴァン・グロズヌイが入国すると材木の中に隠されたそれが積み込まれ、イヴァン・グロズヌイは慌ただしく出港した。
一方そのころベーリィメドヴェージに乗っていた不法移民たちは、太平洋上で遠洋漁業に出ている漁船と合流。そこでベーリィメドヴェージから漁船へと移った。
漁船はパシフィックポイントから僅かに離れた港に入港。
「降りろ。急げ、急げ」
不法移民たちは闇夜の中で港に降り立ち、待機していた車で隠れ家に運ばれる。
「水と食料、それぞれ800ドゥカートだ。買うかい?」
そこではルサルカの構成員が不法移民相手に高額で飲食物や衣類、あるいはドラッグをを売っていた。ターニャも少ない金を出して食料を買う。
不法移民である以上、自由にはうろつけず、ルサルカを頼るしかない。ターニャはあと少しの辛抱だからと言い聞かせて耐えて。
このころ、イヴァン・グロズヌイがやはり太平洋沖合で漁船と合流し、ホワイトフレーク300キロが漁船に移し替えられた。ホワイトフレークには護衛と監視のためにルサルカの構成員2名が同行する。
そして、その漁船もパシフィックポイント近くの港を目指した。
「全員、移動だ!」
そして不法移民たちも倉庫から3台のバンに移され、“国民連合”の道路を走り、パシフィックポイントに向かう。バンの中では不法移民たちだ息をひそめながらも、これからの暮らしに夢を見ている。
同じ道路を先にホワイトフレークを乗せたトラックが通過したことを、不法移民たちは知らないまま。
「降りろ」
バンは古びたモーテルの間で止まり、不法移民たちはその一室に入る。
「さて、最後だ。ここに偽装した身分証がある。10万ドゥカートだ」
「なんだって!?」
ここでルサルカの幹部がさらに金を取ろうとするのに不法移民たちが叫ぶ。
「話が違う!」
「ああ? じゃあ、今からすぐに警察か移民・関税執行局に通報しようか?」
「くっ……!」
通報されれば本国に送還される。先に払った大金が無駄になる。
「……10万ドゥカートだ」
「オーケー。いい人生を」
辛うじて支払えた人間たちは書類を受け取って出ていく。
「残りの連中は払う気がないのか、払えないかだな」
モーテルの中には4名の男性と3名の女性が残っていた。ターニャもその中にいる。
「俺たちも鬼じゃない。払えるようにするために仕事を斡旋してやろう」
「な、何の仕事だ?」
「ドラッグに運び屋か、娼婦だ」
ターニャはその言葉を聞いて愕然とした。
貧しい祖国を逃れ、いい暮らしができるように“国民連合”に渡ってきたと言うのに、ここで犯罪をしなければいけないのかと。
「選べ。ドラッグを運んだ場合は1回で20万ドゥカート。差額は新生活の足しにしろ。娼婦の場合は、そうだな5年は働いてもらおう」
男性たちは悩む必要もなく、ドラッグの運び屋をやるだろう。しかし、女性たちはどちらにするべきかを悩んでいた。
「とっとと決めろ。時間がないんだ」
「は、運び屋をやる!」
「よろしい。じゃあ、別室に移れ」
その別室にはハンニバルが準備した医者がおり、彼はコンドームにホワイトフレークを詰めたものを腹部に入れていき、縫合糸で固定していった。X線検査でも受けない限り、この密輸が発覚することはない。
「残りはお前だけだが」
女性たちも全員がドラッグを運ぶことに同意し、ターニャだけが残された。
「私は……運び屋はやりません」
「ふん。じゃあ、体で稼いでもらうしかないな」
「ええ」
「ついてこい」
ターニャはルサルカの構成員に連れらてパシフィックポイントに向かう。
彼女は運び屋になり、ドラッグを広めて誰かを不幸にするよりも、自分だけが不幸になることを選んだ。彼女はそんな女性だったのである。
その後、無事にドラッグを詰めた不法移民たちは東部に到着し、ハンニバルが医師が取り出した。運ばれたホワイトフレークはひとり辺り5キロで6名。30キロだ。それは単純計算で2000億ドゥカート規模のホワイトフレークである。
こうしてレクシーとマックスによるドラッグビジネスが始まった。
彼らは
このネットワークはゴールデンゲートと呼ばれ、“連邦”のカルテルのネットワークにすら匹敵するものとなっていく。
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