不法移民入国ガイド
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──不法移民入国ガイド
マックスとレクシーはディミトリと握手したのちにビジネスの話に入る。
「つまり、密入国は船か?」
「そうだ。沿岸警備隊も買収してある。それから港湾管理局も」
ルサルカのビジネスは密入国斡旋と人身売買、そして売春ビジネスだ。
密入国斡旋と人身売買はほぼイーコルであり、人身売買と売春ビジネスはほぼイコールだ。セットだというべきかもしれない。
ルサルカは貧しい“連合国”から“国民連合”に密入国を希望する人間から金銭を受け取り、彼らを“国民連合”に密入国させている。が、十分な金銭が支払えない場合などは、彼らを売り飛ばすことで利益を得ている。
そして人身売買で売られた女性たちなどは“国民連合”の金持ちに売り飛ばされるか、ドラコンのような売春ビジネスを営む組織に売られた。ルサルカでも自分たちで売春ビジネスを行っていたりする。
そういうわけでルサルカのビジネスにはルートがあった。
「具体的なモノとカネの流れを聞かせてもらおう」
「分かった。まず“連合国”本国にいるこちらの協力者から連絡が来る。船などはその際にこちらで準備する。“連合国”の船だといろいろとうるさい」
ルサルカの人身売買ビジネスは“連合国”にいるルサルカの兄弟組織と繋がって行われている。向こうが人間を調達し、ルサルカは“国民連合”に渡る船を調達する。
「“連合国”の組織はあんたらの友人か? それとも今は亡き同志ジョセフ?」
「我々の友人だ。今回のクーデターの件で関係がこじれることはない。密入国斡旋は元々私たち“社会主義連合国”の人間が仕切っていた」
「秘密警察なら人をモノのように扱うのは得意だよな」
「ふん」
レクシーが皮肉るのにディミトリは不快そうに鼻を鳴らした。
「レクシー。いちいち茶化すな。話が進まない」
そこでマックスが注意し、レクシーは肩をすくめる。
「それで、密入国の手順は?」
「我々は架空の商社を運営している。その勝者は“連合国”から木材を輸入しているということになっている。その船にまず入国希望者たちを乗せる」
「そのまま港にというほど単純じゃないんだろう?」
「そうだ。沿岸警備隊の内通者からの情報から安全な海域を特定し、そこで入国希望者を漁船に移す。漁船はそのまま近くの港に入り、そこで我々が保有している倉庫に一時的に匿う」
「そしてパシフィックポイントに?」
「そう、郊外にあるモーテルで書類などを渡し、身分を偽造する。後は金払い次第だ」
金が足りなければ体で稼いでもらい、足りているならば“国民連合”で自由な生活をというわけだとディミトリ。
「密入国に必要な金は“連合国”で集めるんだな。ここではなく」
「ああ。“連合国”の兄弟組織から我々の取り分が送金される」
“連合国”で徴収された密航料は地下銀行などを経由してルサルカに。
「よくできてるな。あんたらは疑われないペーパーカンパニーと船と港、そして倉庫まで抱えている。でも、やってることは大して儲からない密入国の斡旋と人身売買、そしてしけた売春だ」
「ほう。そちらには何かもっと儲けが出るビジネスがあるとでも?」
「ある。ドラッグだ」
「……なんだと?」
マックスが言い放ったのにディミトリが僅かに動揺した。
「“連合国”のドラッグ取り締まりはそこまでじゃないはずだ。まして、極東の国境地帯には大規模なスノーホワイトの育成地帯があったはずだ。違うか?」
「確かに“連合帝国”のかつての大陸領は医療用スノーホワイトの一大産地だったが、今はどうなのか知らない。
「ふうむ。なら
「ないわけではない。かつて、“国民連合”が現地に介入した際に我々も対抗するように介入し、一部の軍人などはそのまま根を下ろした」
「オーケー。じゃあ、新しい航路の開拓だ」
マックスがそう言って世界地図を広げる。
「木材の輸入なら別に極東に航路を広げても怪しまれない。新規の仕入れ先として
「待て。ドラッグを本気で密輸させるつもりか? リスクが大きすぎる」
「あんたは俺たちの傘下に入った。俺たちがボスであんたは部下だ」
「クソ」
「安心しろ。安全な方法は考えている」
マックスはそう言ってディミトリに説明を続ける。
「木材とともに
「ふうむ……。どういう風にして運ぶと?」
「これは“連邦”の連中がやる方法だが、コンドームにドラッグを詰めて腹に詰め込む。医者が必要になるが、簡単な手術でいい。そして、“国民連合”のドラッグを求める市場にお届けってな」
「それなら運び屋に着服されることもない、か」
「その通り。飛行機でスピーディに運べる」
やや感心したようにディミトリが言い、マックスはにやりと笑った。
「あんたには極東群島地帯への航路の確保を頼む。医者はこっちで手配する。この新しいビジネスを含めた取り分は7:3だな。いいだろ、それで?」
「待て。こっちの部下を養わなければならない。ドラッグはいいが売春ビジネスに関してだけは5:5にできないか?」
「分かった。そうしよう。ただし、売春の現場にドラッグを持ち込ませろ」
「娼婦に売るつもりか? こっちの財産だぞ」
「客に売るのさ。娼婦を買うようなやつはドラッグも買う」
ディミトリが嫌悪感を示すのにレクシーがそう指摘する。
「それについてはちょっとした問題がある。パシフィックポイントのドラッグ取引はオブシディアンの独占事業だ。パンサー・ギャングで“連邦”のカルテルともつながっている。聞いたことは?」
「ああ。真っ先に聞いた」
そう、既にパシフィックポイントのドラッグ市場には独占状態の業者がいる。パンサー・ギャングのオブシディアンだ。
「
「パンサー・ギャングが腹を立てるから?」
「連中の背後には“連邦”のカルテルがいる。新世代ヴォルフ・カルテルだ」
「やばい連中だな」
新世代ヴォルフ・カルテルは“連邦”でもぶっちぎりでイカれたカルテルだ。彼らを批判した“国民連合”のジャーナリストが拉致されて、殺害される様子がネットで配信されるくらいには。
「しかしながら、虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。危険なくして儲けもない。手は打ちながらドラッグビジネスを展開する」
レクシーはそう言いきった。
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