市警との会合
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──市警との会合
カーターたちは早速捜査に乗り出した。
「ルサルカについて詳しい警官がいるな」
州警察にもルサルカについての資料はあったが、生の情報には及ばない。
「なら、パシフィックポイント市警を当たるべきですね」
そういうのはマティルダで、彼女は事件をテロとして捜査するものの、一応カーターと行動することになっていた。
ちなみにATFのヘンリーは今もナイトクラブ爆破事件について科学捜査を続けている。彼は現場に出るタイプではないらしい。
「そうしよう。それから敬語はやめてくれ。フレンドリーにやろう」
「了解。よろしくね、カーター」
「ああ、マティルダ。悪党どもをとっちめよう」
カーターはマティルダにそう言い、SUVを走らせてハーバーシティからパシフィックポイントへと向かう。
「マティルダ。あんたはいつから連邦捜査局に?」
「“本土攻撃”の後。あの時に友人が犠牲になって、それで」
「悪いこと聞いたな。すまん」
「気にしないで。私みたいなのは連邦捜査局にはうようよいるから。カーターはいつから州警察の組織犯罪対策課に?」
「昔から。特に理由はない。ただ俺にはこの仕事が性に合っている。それだけさ」
マティルダとカーターがそう言葉を交わし合う。
「最初の仕事はなんだった?」
「本当は国外のテロ組織を担当したかったけど、もう国外担当は満員。だから、国内テロ組織を担当することになった。連邦捜査局は南部の民兵も今ではテロ組織の予備軍とみている。そういう連中の調査が最初の仕事」
「南部も民兵は性質が悪いって聞くが」
「ええ。冷戦時代からずっとアポカリプスに備えているようなイカれた連中」
カーターが言うのにマティルダが肩をすくめた。
「西部にそういう連中は?」
「いる。純血種至上主義の民兵であるブラッド・ガードって連中だ。混血や非エルフへのいやがらせは毎日のことで、たまに流血沙汰になっている。例によってこいつらも武器をたんまり抱えているな」
カーターが言うように西部にも民兵は存在した。それも性質が悪いのが。
「それでカーターの最初の仕事は?」
「俺は見ての通り有鱗族だ。そして西部には有鱗族が少なくなく、それで例によって大勢が集まればはぐれものが出る。俺が担当した最初のケースはスケール・ギャングの取り締まりだ」
スケール・ギャング。リザードマンやワイバーンなどの有鱗族からなるギャングだ。
「まあ、スケール・ギャングと言っても構成員のほとんどはリザードマンだ。リザードマンは正直貧乏人が多い。昔、ドラコ帝国に存在したカースト制度で最下層だったせいもあるだろうが」
ドラコ帝国はかつて存在した国家でドラゴンを頂点としたカースト精度を布いた帝国であった。政治を司るドラゴン、軍事を司るワイバーン、その下に労働力としてのリザードマンが位置していた。
今ではそのドラコ帝国も崩壊しているが、歴史的に貧しく、カーストの下層に位置した種族であるリザードマンは大抵貧しい。
「世の中には貧しいと犯罪を犯すという偏見がある。テロリストもそうなのか?」
「貧困は原因のひとつではある。ですが、貧しくては計画的なテロは起こせない。だから、テロを主導する人間は裕福だったりする。計画は金持ちで、実行は貧乏人。金持ちが貧乏人をいいように使うのはテロにおいても同様ね」
“本土攻撃”を計画したのも裕福な家庭で育った人間で、実行したのは貧しい家庭の人間だったとマティルダ。
「ハンニバルの連中もそうだと思うか?」
「彼らは少し違うと考えてる。彼らは自爆や逮捕覚悟の攻撃を行わない。入念に計画して、実行から撤退まで完全に計画通りに実行している。軍の特殊作戦部隊みたいな連中というべきかもしれない」
「確かにまともな軍隊では自爆攻撃なんて命じないな。連中には階級は存在するが、それは貧富の差で決められたものではない。そういうところか?」
「そんなところ。推測だけれど才能が全てで適材適所だからこそ、彼らは忌々しくも優秀な組織になっている」
マティルダはそうハンニバルについて説明した。
「その才能を人殺しに使うしかないってのは、本当にクソみたいな話だ」
カーターはそう言い、彼らを乗せたSUVはパシフィックポイントに入った。
そして、カーターたちはパシフィックポイント市警の警察署に向かった。
「州警察のカーター・マルティネスだ。こっちは連邦捜査局のマティルダ・イーストレイク特別捜査官。ここ最近起きたルサルカ絡みの事件について調べている。それで市警の担当者と話がしたいんだが」
「畏まりました」
カーターが受付でそういうとカーターたちは警察署の会議室の通された。
そこにスノーエルフの警官が2名やってくる。
「初めまして。パシフィックポイント市警組織犯罪課のボブ・バスマンです。こっちは部下のデニソフ警部補」
「初めまして、バスマン警部。よろしく頼む」
スノーエルフのひとりはバスマン警部と名乗り、もうひとりは他でもない汚職警官のデニソフ警部補だ。
「ルサルカについて調査しているとか。しかし、州警察と連邦捜査局がですか?」
「ああ。ことは広域な事件となっている可能性もある」
「分かりました。こちらが捜査資料です」
バスマン警部は書類の束をカーターに渡し、カーターは早速中身を見る。
「ルサルカのボスだったジョセフ・カジンスキーは行方不明?」
「ええ。家族とともに行方をくらましました。そのことから一連の犯行はルサルカの内輪もめとみています。街中で銃を乱射して大騒ぎとは、同じスノーエルフとして恥ずかしい限りですよ」
「同族が大勢いれば悪い人間だって出てくるさ。気にする必要はない」
そこで妙なことにカーターは気づいた。
「待て。ジョセフ・カジンスキーの屋敷は調べてないのか?」
「令状がありません。令状の発行に足る理由も」
「それなのにジョセフ・カジンスキーが行方不明だと結論したのか?」
「もうここ最近全く姿が見られないのです。行きつけのバーやストリップクラブにも姿が見えずで。だから、行方不明と判断しました」
「おいおい。抗争の間、家に籠ってるかもしれないだろ?」
「それはどうでしょう。うちの人間を屋敷に貼り付けていますが、夜にも電気がついたような形跡はないのです。だろう、デニソフ警部補?」
ここでバスマン警部がデニソフ警部補に尋ねた。
「ええ。必要なら水道メーターだって調べてきますがね。恐らくはいませんよ」
デニソフ警部補はそう応じる。
「一度俺たちで調べさせてもらえないか?」
「州警察が介入する理由をはっきとさせてほしいですね。パシフィックポイント市警は無能の集まりじゃないんですよ。仕事をしていないと思われたなら心外です」
カーターの提案にバスマン警部がそう指摘した。
「信じてないわけじゃない。ただテロ組織がかかわっている可能性がある。あんたらも動画は見ただろう? ナイトクラブが爆破され、ドラコンの幹部が殺害された動画だ。ネットに出回っている」
「本物かどうかも分からないネットの動画が、介入の口実ですか?」
「ああ。そうだよ。疑いが少しでもあれば調べるべきだと思っている」
「話にならない」
バスマン警部は首を横に振る。
「オーケー。じゃあ、これまで逮捕された人間の話を聞かせてくれ。それだけでいい」
カーターは譲歩してそう提案する。
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