ジョセフ・カジンスキー
……………………
──ジョセフ・カジンスキー
ジョセフ殺害に動員された戦力は12名。
いずれも元特殊作戦部隊のオペレーターたちで、“社会主義連合国”では
彼らは高度な訓練を受け、実戦も経験している。ただ、崩壊した祖国がその血を流した功績に報いなかったために、犯罪組織へと堕落しただけだ。
彼らは電力会社のトラックに偽装した車両で密かにジョセフの屋敷に接近。屋敷の表と裏口を押さえる形で展開した。
2名の狙撃手が近くの建物に陣取って援護する中、
「ガスマスク、装着」
ポンという火薬の爆ぜる軽い音ともにガス弾が発射され、屋敷の窓を破って中に入った。ガス弾からは強力な催涙ガスがまき散らされ、黄緑色のガスが屋敷の中に瞬く間に充満していく。
「ゴー!」
催涙ガスで悶え苦しんでいるジョセフの護衛たちを確実に殺害していきながら、建物内を進む。彼らは屋敷の中を完全に制圧することを目的としており、ディミトリから課せられた命令はひとつ。
生存者ゼロ。それだけだ。
「来たぞ! 敵だ!」
辛うじて催涙ガスから逃れたジョセフの護衛たちが自動小銃を乱射して、男たちの行く手を遮ろうとする。
「追加のガスを撒け」
再びグレネードランチャーが構えられ、催涙ガスが散布される。護衛たちは呼吸すら困難になり、目にも刺激を受けて視界が塞がってしまった。そうなれば生き残ることなどできはしない。
「前進再開」
「地上階、クリア。後は地下だ」
「オーケー。向かうぞ」
屋敷の中に護衛の死体が、使用人の死体が転がるが、そこにジョセフと家族の死体はなかった。
「パニックルームだ。ブリーチングチャージで行けるか?」
「やってみよう」
サム・ゴルコフの屋敷のそれとは比べ物にならない、頑丈なパニックルームの扉を前に男たちは爆薬を仕掛ける。
「3カウント」
そして、3秒のカウントののちに爆破。
扉は開いたが、同時に銃弾が飛来する。中にいる人間が機関銃を発砲しているのだ。
「俺の首がほしければ取ってみろ、クソ野郎ども!」
「ジョセフ・カジンスキーを視認!」
パニックルームの中から機関銃を乱射するジョセフに
「間違いない。ジョセフ・カジンスキーだ」
「確認殺害を実施」
ジョセフの頭に2発のライフル弾が叩き込まれる。
「写真を取れ。家族のもだ」
それからジョセフの手榴弾でずたずたになった死体をデジカメで撮影し、同じく手榴弾で死んだ家族の死体も並べて撮影する。
「任務完了。撤収だ」
「講和の場が持てて嬉しいよ」
レクシーがそう言う前にはルサルカの幹部たちが集まっていた。ルサルカの中でもジョセフ勢力の幹部たちだ。彼らは不満そうにレクシーの方を見ている。
ここは中立地帯のホテルで、コリンが手配した場所だ。元々は真っ当なホテルだったが、資金難からルサルカの融資を受け、あとは犯罪組織とずぶずぶであった。
今現在ホテルのオーナーはジョセフにも、ディミトリとも距離を置いている。
彼らがこの場にいるのは、ジョセフも知らない。当然だろう。ジョセフが殺せと命じたマックスもレクシーの隣にいるのだ。
それでも彼らは反乱が勃発した中で、反乱勢力と同時にマックスたちと戦うのは不可能だと判断して、まずはマックスたちを和平することにしたのである。
二正面作戦を避けるという意味では賢い判断だった。
「講和の条件は?」
集まった幹部のひとりがそう尋ねる。
「ルサルカのトップにディミトリを据える。あんたらはその下で働け」
「何だと……!」
レクシーの発言に幹部たちがざわめき、怒りの表情を見せる。
「やはり秘密警察どもはこいつらと手を結んでいたんだ!」
「裏切り者どもめ!」
ここに来てディミトリたちとレクシーたちの繋がりが判明するのに、幹部たちは罵声と怒号を響かせ始めた。
「おいおい。そんなことも分からなかったのか? 間抜けすぎるだろ」
マックスは呆れた様子でそう言った。
「講和の条件としてこちらが提示するのは、これだけだ。そっちは?」
そして、レクシーは怒れる幹部たちににやにや笑いでそう尋ねる。
「ドラコンの
「ふうむ。確かに考慮する価値のある条件だ」
幹部のひとりが示した条件にレクシーが考え込む。
そこでレクシーのスマートフォンがバイブした。
「おっと。どうやら……」
レクシーとマックスがスマートフォンの画面を見て顔を見合わせる。
「状況が変わっちまったようだ。ジョセフは死んだ」
「なっ……!?」
レクシーとマックスのスマートフォンに送られてきたのはジョセフの死体の写真だ。
「というわけで、講和の話はなしだ。あんたにはもう何の権限もないのだからな。これからはディミトリと取引する」
「そういうことだ。悪いな」
マックスはタバコを1本抜くとそれに火をつけた。
「ああっ! ああ──」
それと同時にテーブルに列席していた幹部たちが松明のように燃え上がる。炎に包まれ、熱に苦しめられる中で、幹部たちは悲鳴を上げてのたうつ。
「これでクーデターは成功。これからはディミトリとしっかり握手して、やつにビジネスの上前を撥ねる」
「資金源が確保できたら、次は投資だな。パシフィックポイントだけではなく、ウェスタンガルフ州全体で
「ああ。楽しくなってきたな、ええ?」
マックスの言葉にレクシーがそう笑う。
「今日は勝利を祝してゆっくり過ごそうぜ。酒でも飲みながらな」
「そうしよう」
そして、レクシーとマックスは幹部たちが焼死体となったホテルを去る。
やがてディミトリが派遣した
……………………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます