分裂するルサルカ
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──分裂するルサルカ
ルサルカにおいて“社会主義連合国”で地位にあった人間たちが反旗を翻した。
元国家保安委員会や元参謀本部情報総局の軍人たちが、ルサルカが保有するナイトクラブやバー、ホテルなどで一斉に動き、ジョセフに忠誠を誓う人間を処刑したのだ。
跪かせ頭に2発という処刑スタイル。軍隊における確認殺害の手法。
そのまま反乱を起こしたルサルカの構成員たちは物件を占拠し、ルサルカのビジネスは一時的にせよ停止してしまった。。
「クソが……! クソが! あのクソ野郎ども!
ジョセフが吠える。怒りに吠える。
「ボス。落ち着いてください。ボスに忠誠を誓っている人間もいます」
「ああ。そうだな。まずはそいつらがこれ以上やられる前に動かねえと」
新顔たちが離反した今では、昔からのジョセフの身内ともいえる幹部だけが彼の下には残り、ジョセフは彼らの助言を聞いた。
「生き残った連中を集めるぞ。こっちも“社会主義連合国”で秘密警察だったやつはすぐに殺せ。ひとり残らずだ」
「了解」
ジョセフたちによる反逆への報復が開始される。
「兵隊と武器も揃えろ。戦争だ。連中がここに殴り込んでこなかったということは、連中は俺たちに完全に勝てるという勝算がないわけだ。このまま分裂を既成事実にしてしまおうって腹だろう。それか──」
ジョセフはいつものようにドラッグに溺れた男のそれではない、犯罪組織というもののボスに相応しいカリスマを有する瞳の色を見せていた。
「例のドラコンを攻撃した連中。やつらとつるむことにしたかだ。この街に入り込んだ忌々しいクソ野郎どもと戦うどころか、連中と手を結ぶとはな」
「どうします? 今、その連中に攻撃されたら不味い」
「分かっている。まずは反乱を起こした連中をひとりずつ始末する。使える兵隊は組織に所属していなくても動員しろ。フリーランスどももな」
「了解」
この時点からジョセフはドラッグに手を出さなくなった。それ以上の快楽が目の前に現れたのだから。つまりは戦争という快楽が。
ジョセフの命令で集められたルサルカの兵隊がSUVとバンに乗って、反乱を起こしたディミトリ側の占拠する物件のひとつであるナイトクラブに接近。
SUVには“国民連合”製の9ミリの短機関銃を持った男が、バンの中には“連合国”製の口径7.62ミリ自動小銃や手榴弾で武装した男たちがいる。
まずSUVがナイトクラブの前に高速で迫り、車内から男が短機関銃を乱射。ドライブバイ・シューティングという攻撃を実施した。窓ガラスが割れ、悲鳴が上がり、通りに真っ赤な血が流れる。
それによってナイトクラブにいた反乱勢力の注意はSUVに向けられた。
そこでゆっくりとバンが侵入し、バンの窓から自動小銃を乱射しながら男たちが降車する。反乱勢力は建物に逃げ込み、建物内から反撃を試みた。
練度で言えば元軍人たちの集まりである反乱勢力に軍配が上がる。しかし、数においてはジョセフ勢力の方に軍配が上がった。
ドラッグをキメて、自動小銃を腰だめで乱射しながら迫る無数の兵隊たちに、反乱勢力は押される。手榴弾や火炎瓶がお互いに投擲され、ナイトクラブの周りでは殺戮が繰り広げられた。
最終的にジョセフが送り込んだ兵隊たちはナイトクラブを奪還し、銃弾と炎で廃墟同然になり果てたそこで勝利のウオッカを味わった。
しかし、すぐさまそれに対する報復が行われる。
ジョセフの側近を乗せたセダンが対戦車ロケット弾で吹き飛ばされたのだ。防弾のセダンも戦車の装甲を貫くロケット弾にはかなわず爆発炎上。
ルサルカのジョセフ勢力と反乱勢力の血で血を洗う抗争が始まった。
「秘密警察の連中は損害を恐れている。やつらは灰の中からやり直した経験がない。だが、俺たちは違う。俺たちは何もない砂漠にルサルカを作り上げた」
戦闘の結果を聞きながらジョセフがそう語る。
「俺たちは失うことを恐れない。ルサルカの作ってきたものが崩れ落ちても、また一からやり直してやるさ。そう、俺たちにはその能力も気合もある。秘密警察の連中をびびらせ、皆殺しにしてやれ!」
ジョセフは確かに一からこのパシフィックポイントにルサルカという組織を作った。それに乗っただけの反乱勢力の元軍人たちとは違う。
それが彼らにとって大きなアドバンテージであった。
しかし、彼らの敵対者たちは狡猾だ。
ディミトリは部下が警備し、要塞化したホテルで客を迎えていた。このホテルにも既に数回対戦車ロケット弾が叩き込まれており、ディミトリたちは窓の傍には近寄らないようにしている。
「よう。宅急便だ。あんたらがお望みの物を持ってきたぞ」
そういうのはフュージリアーズのメンバーであるマシューで、彼は他に2名のメンバーとともに小さなコンテナをホテル内に運び込んだ。
「確認しても?」
「もちろん」
ディミトリが手を振ると彼の部下である元特殊作戦部隊のオペレーターたちが装備の点検を開始した。サプレッサーが装着された自動小銃やガスマスクなどが、コンテナの中には整理された積み込まれていた。
それらはルサルカのネットワークでは手に入らない装備ばかりだ。
「問題なしです、ボス」
「よし。そっちの動きに合わせて動く。そっちも間違いなく動くんだな?」
「ああ。動くさ」
ディミトリとハンニバルは秘密協定を結んでいる。
それはディミトリたちがジョセフを殺害するタイミングで、ジョセフ勢力の他の幹部をハンニバルが始末するという協定。
ジョセフを殺すのはあくまでディミトリたちだが、他の幹部をハンニバルが始末することによって、彼らがルサルカのボスを継ぐという王位継承に、異論が出ないようにする。それが目的だ。
一部の人間はディミトリたちに抵抗するだろうが、ボスを失えばそこまで激しい抵抗にはならない。そもそも犯罪組織にボスの敵討ちだとかいう忠義などない。自分の利益になるか、ならないかだけである。
ジョセフはフロンティアスピリッツを持っている。彼はまた一からやり直すという根気がある。全てが灰になった後でも立ち上がる気概がある。
だが、マックスもレクシーもそんな時代錯誤の価値観に付き合うつもりはない。彼らは可能な限り無傷でルサルカのインフラがほしいのだ。
だから、これ以上抗争が激化してルサルカのインフラが失われる、その前にジョセフと彼の側近を殺し、王座にディミトリを据える。
「上手くやれよ、ディミトリ。俺たちはずっと“社会主義連合国”の連中は優れた人殺しだと教えられてきた」
「そうするさ」
ディミトリにそう言ってマシューは去り、ディミトリは攻撃の準備を始めた。
狙うはジョセフと彼らの家族。それらを一掃する。
“社会主義連合国”の元特殊作戦部隊のオペレーターたちはサプレッサーが装着された自動小銃を手にし、着慣れた迷彩服とタクティカルベストにマガジンポーチを付ける。弾薬はたっぷりとマシューたちが持ってきた。
「諸君。さあ、作戦開始だ」
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