ドラコン
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──ドラコン
ドラコンはサム・ゴルコフという男が仕切っている。
ルールクシア・マフィアのルサルカの下で売春ビジネスをやっており、その手の店をいくつもパシフィックポイント内に抱えている。
売春行為はウェスタンガルフ州の州法で禁止されているが、それを守らないから犯罪組織は犯罪組織なのだ。
ドラコンがやっているのは街娼をやっているような女性から金を取ったり、高級志向の金持ちやドが付く変態向けの特殊なサービスの提供だ。後者は自分たちが保有しているホテルや一見して普通のナイトクラブやバーで行われている。
ナイトクラブやバーでお気に入りの女性を見つけ、後はベッドで、という仕組みだ。
またドラコンはほぼ完全にパシフィックポイントでの売春ビジネスを仕切っており、彼らの許可なくその手の仕事をすれば、制裁を受ける。ポン引きは港に沈められ、娼婦は硫酸で二度と商売できない顔にされる。
そのドラコンが保有しているナイトクラブが見える建物にレクシーたちは監視哨を設置していた。レクシーはレーザーレンジファインダー付きの軍用双眼鏡で、じっくりとナイトクラブを監視する。
「そろそろ開店時刻です」
「オーケー」
レクシーはナイトクラブの前に客たちが列を作り始めたのをレクシーは確認。
ナイトクラブの中にはドラコンの構成員と雇われている女性が開店前の準備をしており、ドラコンのメンバーが8名と女性が12名いた。彼らはまだナイトクラブに何が起きるのかを予想できていない。
「やれ」
「了解」
レクシーの命令で部下がカチカチと二回スイッチを押す。
次の瞬間、ナイトクラブが崩壊した。土台が崩れ、建物が沈むように崩壊していく。まるで爆破解体される建物のようであった。
しかし、爆破解体と違ってそこにはまだ人がいて、周りにも人がいた。
悲鳴が響き、人々が逃げ惑う。
「上出来」
昨晩の間にレクシーたちはナイトクラブに爆薬を仕掛けていた。そして、客たちの目に見えるように爆破したのである。
並んでいた客たちは案の定、突然の爆発に混乱しながらもスマートフォンで動画を撮影しており、瞬く間にその動画はネット上に拡散した。
そして、当然ながらその動画はナイトクラブのオーナーであるドラコンのサム・ゴルコフにも伝わった。
「何だってんだ、こいつは……」
部下から動画の存在を知らされたサム・ゴルコフは唖然としていた。見知った建物が、まるで知らない姿に変わる様子が動画には撮影されている。
「事故か? ガス爆発みたいな……」
「いいえ。ガス爆発でこうはなりません。こいつは誰かが爆弾を仕掛けたんですよ」
「クソ。なら、テロってわけか? どこのどいつの仕業か調べさせろ。すぐに!」
「了解」
サム・ゴルコフがそう叫び、部下たちは情報を集める。
しかし、サム・ゴルコフにもすべきことがあった。つまり自分たちの上位組織であるルサルカへの報告だ。
「ボス。悪いニュースです」
『なんだ、サム?』
電話の相手はルサルカのボスでるジョセフ・カジンスキー。彼はまだナイトクラブの爆破事件について知らない様子だった。
「うちのナイトクラブが1軒、爆破されました。テロかもしれません」
『なんだと? やった野郎は捕まえたのか?』
「い、いいえ。まだですが、すぐにでも捕まえます」
『そうしてくれ。マジでふざけた真似をしてくれたもんだ、クソが。クソが、クソが、クソが! ふざけやがって!』
ジョセフが唸るように言い、何かが割れる音が聞こえた。その音にサム・ゴルコフの背中には冷たい汗がに流れる。
不味い空気だ。ボスはまたパンサー・ギャングどもから買ったドラッグをキメてる。そうサム・ゴルコフは察した。
ジョセフが軽度のドラッグ依存なのは組織のメンバー全員が知るところだった。そのせいで情緒不安定になって怒り散らすジョセフが、その勢いで下っ端や娼婦を絞め殺したことは何度もある。
「すぐにかかります。では、失礼を」
これ以上、不味いことになる前にサム・ゴルコフは電話を切った。
「リューキンに連絡を取ってこっちにこさせろ。すぐに犯人を見つけないと、俺たちはボス・ジョセフに殺されちまうぞ」
「分かりました」
サム・ゴルコフは焦ってナンバー・ツーのチャーリー・リューキンを呼び出した。
チャーリー・リューキンは元格闘家だった男で210センチの体格を持つ巨漢である。しかし、薬物使用が発覚したことで格闘業界から追放され、ドラコンの用心棒となり、そこから幹部までのし上がった。
「何が起きたんだ、サム?」
サム・ゴルコフから連絡を受けたチャーリーは困惑してそう尋ねる。
『テロだ。俺たちのナイトクラブが爆破された。ボス・ジョセフはかんかんだ。犯人を急いで見つけないといけない。対応を話し合おう。すぐにこっちに来てくれ』
「分かった。すぐに向かう」
チャーリーは了解すると、パシフィックポイント市内にある自宅を出て、専属の運転手が運転するセダンに乗り込んだ。そうしながらスマートフォンで情報を集める。地元民が多いSNSなどを覗き、爆破テロについて情報を集めた。
「クソ。マジかよ。どこのどいつの仕業だ……?」
自分たちが多少なりと恨みを買っていることは、チャーリーも理解している。これまで殺したポン引きや娼婦の数は少なくない。それにルサルカとドラコンが売春ビジネスを独占していることをよく思わない連中もいる。
しかし、ここまでやる人間には流石に心当たりがない。
そこで急に運転手が急ブレーキを踏む。
「前の車が……」
前方を走っていたSUVが急に停車したかと思うと、そこからバラクラバを被り、自動小銃で武装した3名の男女が降りてきて銃口をチャーリーの車に向けた。
「畜生!」
サプレッサーで抑制された銃声が響き、チャーリーのセダンがハチの巣になる。運転手は既に10発近い銃弾を受けて死んでおり、チャーリーは身を低くして、拳銃を抜こうを四苦八苦していた。
ようやく腰のホルスターから9ミリの拳銃を抜いて、反撃のチャンスを探した時、チャーリーは絶望的な光景を目にした。
「マジかよ、クソ」
SUVから降りてきた男が使い捨ての無反動砲を構えていたのだ。バックブラスト代わりの水分が後方に吐き出され、弾頭がチャーリーのセダンに正面から命中。車はそのまま爆発炎上する。
それから自動小銃を構えたまま襲撃者たちが接近し、チャーリーがいた後部座席のドアを開ける。
「このクソ野郎どもが……」
チャーリーは大量に出血し、火傷を負っていたが生きていた。
襲撃者たちはチャーリーにスマートフォンのカメラを向け、車から引きずり下ろすと、襲撃者の中でもっとも体格のいい男が軍用ナイフを抜いた。
「次はお前だ、サム・ゴルコフ」
そしてナイフはチャーリーの喉笛を引き裂き、大量の血が地面に流れる。
一連の襲撃の様子は襲撃者たちのボディカメラとスマートフォンで撮影されており、その様子はネットにアップロードされた。地元のSNSや、アングラのスナッフポルノサイト、あるいは普通の動画サイトなどに。
サイトの運営者と連邦捜査局のサイバー部門に削除されるまでに100万回以上再生され、ダウンロードされたことで、一斉に世界中に広がった。
ハンニバルからドラコン、ルサルカへの宣戦布告はこうしてなされた。
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