フュージリアーズ

……………………


 ──フュージリアーズ



 マックスとレクシーはコリンが準備したセーフハウスのひとつに向かっている。


 彼らはパシフィックポイントの郊外に出て、移民たちが開拓した農地の広がるそこをSUVで駆け抜けていった。


「着いたぞ」


 そして、マックスたちは、かつてモーテルだった場所に到着。モーテルは今はコリンが個人的に保有している場所で、保護を求める依頼人──ほとんどは身内を売った犯罪者──を匿う場所になっている。


「レクシーの姉御」


「よう。着いたみたいだな、マシュー。ようこそ、西部へ」


 モーテルから明らかに軍人の体格をしたサウスエルフの男が出てきてレクシーたちを歓迎し、レクシーも男を歓迎した。


料理人シェフ。あんたも先遣隊に入っていたんだな」


「ああ。偵察はしておいてやったぞ」


 ハンニバルの中でもマックスは料理人シェフとして知られている。


「全員を部屋に集めろ。戦争だぞ」


「了解」


 レクシーの号令で兵隊たちが動きだす。


 レクシーの部下であるフュージリアーズの構成員は全員が元軍人だ。どういう経緯で軍人であることをやめたかはそれぞれだが、ほとんどは不名誉除隊である。


 彼らは普段はハンニバルの参加にある民間軍事会社であるブラックカイマン・インターナショナルに所属しているが、レクシーが号令をかければ集結する。


「よく集まった、紳士淑女諸君」


 レクシーがそんなフュージリアーズの面々を前に告げる。


 フュージリアーズは16 名。男が12名に女が4名。いずれもサウスエルフかハイエルフだ。スノーエルフと混血はいない。


「あたしたちはこれから戦争を始める。戦争の相手はルールクシア・マフィアであるルサルカ。“社会主義連合国”のアカどもをぶん殴るのはずっと夢に見てきたことだろう? そうだな!」


「応っ!」


「よろしい。では、具体的な作戦を指示する」


 レクシーはそう言って地図を広げる。パシフィックポイントの地図だ。


「攻撃対象はルサルカの下部組織ドラコン。しけた犯罪組織だが、パシフィックポイントにおけるルサルカの売春ビジネスを仕切っている。こいつを潰して、ルサルカの連中に警告を与えるのが狙いだ」


 それからレクシーはドラコンへの攻撃計画を説明していく。


「オーケー。いつから始めるんだ、レクシーの姉御?」


「まずは装備の確認だ。持ってきた武器を見せろ」


「了解」


 それから武器がモーテルの部屋に運び込まれてきた。


 口径5.56ミリのカービン仕様自動小銃。45口径の短機関銃。.338口径の狙撃銃。そして、12ゲージの散弾銃。他には手榴弾や自動拳銃など。


 “国民連合”でこの手の装備を手に入れるのは、そこまで難しいことではない。


 2001年に起きた宗教原理主義者による“本土攻撃”の後も銃規制は行われなかった。銃火器メーカーはせっせと民間仕様の銃を製造し、“国民連合”内に山ほどいる民兵やガンマニアなどが貪欲にそれを購入する。


 そして、1年に1回はかならず学校での銃乱射事件だ。


 銃規制派はまた起きた悲劇を繰り返すまいとデモを繰り広げ、銃規制反対派も問題は銃ではなく人間にあるというお決まりのフレーズを繰り返す。


 銃規制を訴える政治家は今もいるが、問題になるのは既に流出してしまっている銃と国内産業として大きな割合を占める銃火器メーカーだ。


 既に市場に流れている膨大な銃をどうやって規制するのか?


 国防にもかかわる銃火器メーカーの損失をどう埋め合わせるのか?


 政治家たちはまだ答えを出せていない。


「これだけあれば問題にはならないな。盛大に戦争が出来そうだ」


料理人シェフ。あんたはどれを使う?」


「俺はこれだ」


 マックスは散弾銃を手に取り、専用のサプレッサーを装着する。


「あんたはそれが好きだな、料理人シェフ


「俺たちは市民に紛れて戦う。しかも、場所は市街地だ。相手までの距離は陸軍が野戦で行うように遠いものではなく、5メートルから100メートル程度。そう考えるならば、この銃はべストに近い」


「確かに。論理的な選択だ」


 市街地戦かつ市民に紛れて行動するゲリラ戦をマックスたちはこれから繰り広げる。その戦いは“国民連合”陸軍が山岳地や砂漠で繰り広げたものより、ずっと短い距離で戦われるものだ。


 そういう戦いでは射程より威力と速射性が求めらえる。


「あたしはお決まりのこれかね」


 レクシーは自動小銃を選択。自動小銃はカービン仕様のそれで短い銃身と折り畳みストックを備えている。


 しかし、彼女にとってそれは相手を積極的に殺すためのものではなく、自衛用の武器でしかない。彼女の戦い方は銃以外にある。


「爆薬はたっぷり持ってきただろうな?」


「ああ。昔と違って国土安全保障省がうるさいが、ちゃんと持ってきたぞ。当たり前だが、パイプ爆弾なんて素人臭くて、しょぼいものじゃない。州兵横流し品の軍用のプラスチック爆薬をたっぷりだ」


「オーケー。上出来だ」


 州兵が廃棄する予定の期限が過ぎた爆薬を、廃棄処理するとしてブラックカイマン・インターナショナルが買い取り、それをフュージリアーズたちがここに持って来ている。


 この絡繰りは今のところ連邦捜査局にも国土安全保障省にも発覚していない。


「では、グループを分ける」


 レクシーは自分の下に5名、マックスの下に3名、マシューと呼ばれた男の下に3名配置し、そして残り4名を予備戦力とした。


「あたしの部隊はドラコンのを狙う。盛大な花火を上げる予定だ。だから、爆弾屋はあたしの下に付ける」


「なら、俺とマシューは幹部狙いか?」


「ああ。マックスはドラコンのナンバー・ワンであるゴルコフを消せ。マシューはナンバー・ツーの幹部リューキンが目標だ」


 マックスとマシューはドラコンにおけるナンバー・ワンとツーを消す仕事が割り当てられる。ドラコンに関する資料もコリンは有しており、レクシーたちは幹部の住所や職場などを把握することができていた。


「死体はどうする?」


「晒せ。警官は買収済みだ。問題ない」


「了解。“連邦”のカルテルみたいにやってやろう」


「ただし、手柄をカルテルに取られちゃ困る。あくまで殺したのはあたしたちだということを教えてやらないとな」


 マシューが頷くのにレクシーがそう付けたした。


 “連邦”のイカれたドラッグカルテルは、死体で街路樹をデコレーションするのが大好きだ。バラバラにした死体で愉快なクリスマスツリーを演出というわけである。


 ハンニバルも必要があれば死体は晒す。ただし、必要以上に残忍にはならない。


 ハンニバルのボスであるハンターはというのが好きだ。冷戦の間にエリートぶったシンクタンクが考えたような血が通っていない、スマートな大量殺戮が。


 彼らは死体をネットに晒す。死体の写真を取り、SNSやアングラにあるスナッフポルノのサイトに拡散させる。そう、街路樹に吊るしても地元の人間しか知らないが、ネットに晒せば世界中が知ることになる。


 そしうて、その写真や動画が残酷であり、衝撃的であればネットの物好きが嬉々として拡散してくれる。ネットには無数の人が死ぬ瞬間の写真や動画が、今この時も拡散しているのだ。


 そう考えれば実に効率的。



「では、始めるか。狩りの時間だ」



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